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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
鋼鉄の才女

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三十五話:独りよがりの男

 それから三日後、俺はいつも通りの時間に目覚めた。

 街はまだ陽も登っていないというのに騒がしい。数日前から知らされた魔王の予兆の関係だろう。


 慌ただしく街から逃げる奴が多い。街は森で異常発生した魔物の駆除に、住民の避難とで大忙しだ。

 移動にかかる時間や費用は全て事前に準備されていただろう。国読みの手によって。


 俺は人生最後の朝に、いつも通り身支度を整え、一階に降りた。




 一階のリビングでは、メアリーとチック、トーファの三人がすでに準備を終えて待っていた。


 「待たせたか?」

 「……全然」

 「そうか、準備は出来てるな?」


 三人が頷く。俺は最後に、三人の姿をまじまじと見つめた。







 ……六年、か。


 「……どうしたんだい?ライル」

 「何でもねえよ、さて、じゃあ出発するか」


 俺はチックの目線から逃れるように踵を返し、歩き始めた。

 目的地は街の北側、森の中、多分今にも魔王が現れようとしている危険地帯。


 三人はそれぞれの思惑はあれど、俺について行き、俺と戦うと意見を一致させた。

 決意は硬いらしい、何を言っても聞かなかった。

 だけどそのまま意見を通す俺じゃない、諦めさせる。絶対に。


 多分、メアリーとチックと俺三人でかかっても勝てないだろうからな。




***




 そんな訳で俺たちは東門から北側へ移動し、森の中を歩いた。

 北門から出れば近かったが、ある意味当たり前の話で、北門は今封鎖されている。

 溢れる魔物の対処で手一杯で、とても通れる状態ではなかった。


 まあ東門でも一悶着あったが、別にそれは良い。どうでもいいことだ。


 「ライル……魔王ってどんな奴かな?」

 「知らん、多分人型じゃないか?」


 チックの問いに雑に答える。雰囲気はあまり悪くなかった。

 三人には俺に付き合えばおそらく死ぬと伝えてある。

 まあパーティーが険悪な仲だった時期なんて初期か二年前くらいだが、これから死にに行くのにそうとは思えないほど和やかな雰囲気だ。


 「ライル、私……あんたと会えて、一緒にいれて、良かったわ」

 「そうか、そりゃ良かったな」


 俺はメアリーに適当に返した。

 まるで最期のセリフみたいだ……本人はそのつもりなんだろうが。


 「私、最期まで一緒にいるから」

 「ハッ……嬉しいこと言ってくれるな」


 トーファの言葉に、俺は思わず頬を緩めた。

 しかし、そうはいかない。俺は死ぬが、三人がそれに巻き込まれるのは良くない。だから阻止する。


 俺は立ち止まった。

 後ろの三人が不審そうにしているのがわかる。


 「なあ、お前ら。ここから先に本当に行くつもりか?」

 「当たり前でしょう?それはもう何度も話した事よ」


 魔術を発動する。地面の根を焼き、土魔術で地面を操作、周囲の木々を横にどかす。

 小さく悲鳴が上がった。


 「いいや、いいや。それじゃ納得出来ないなぁ、俺が納得出来ない」

 「ライル」


 チックが鋭く、警告するように名前を呼んだ。


 「……」

 「……」




 俺は炎の魔術を発動した。メアリーの立っている地面が燃え上がる。

 悲鳴は炎に巻かれ消えた。


 チックが精霊に命令する。同時に空間魔術によりメアリーのいる場所を水中に変えた。炎が掻き消える。

 俺はトーファに剣を投げながらチックに走り寄った。


 精霊は慌てたようにトーファへ向けられた剣を防いだ、チックは無防備だ。

 トーファの投げつけた光の十字を無視しながら、チックを殴る。貧弱なチックは一発で気絶した。


 俺の想定よりも早く復帰したメアリーが、手をこちらに向ける。俺は炎の魔術を発動して周辺一体を燃やした。

 辺り一面に広がる炎の渦は、メアリーを恐怖に染めるのに十分だった。


 トーファのデバフを無視しながら、俺を襲う精霊の魔術を流方で逸らし、ついでに落ちている剣を拾い、剣先を倒れているチックの首に向ける。


 硬直した精霊に流方を応用した無色透明の衝撃波を数度喰らわしてその意識を刈り取る。

 トーファがまた投げつけた光の十字を適当に腕で払いながら、俺は硬直し震えているメアリーに近づいた。


 腹に一撃拳を入れ、苦しむメアリーの頭を掴み地面に叩きつける。


 戦闘終了だ。後残ったのはトーファだけだが、そんな雑魚に負けるほど俺は弱くない。


 剣を弄びながら、トーファに向き合った。


 「詰みだ。諦めるんだな」

 「……確かに、そうかも」


 トーファは眉を下げ、観念したように両手を挙げた。

 俺はそれを見て落胆した。

 そうじゃないだろ。抵抗しろ、反抗しろ。

 何故受け入れる?


 俺はため息を吐きながら、トーファに近寄った。

 トーファは不思議そうに首を傾げた。降参したから何もされないと、そう思っているのだろうか?


 俺はトーファの頬を強く叩いた。


 トーファは俺の行動を理解できなかったようで、パチクリと目を瞬かせこちらを見返す。


 「……普通、なんでとか嫌だとか言うもんだぜ」

 「何かやりたい事があるなら、協力する」


 病気だな。


 トーファは異常者だ、普通ぶっ叩かれた後の一声が協力する、な訳ないだろう。

 痛いことは嫌だし、苦しい事は嫌なはずだ。


 それでも俺の所業に何の文句も言わないのは、根っこまで染みついた奴隷根性のせいだろう。


 それはトーファのこれからの人生に決していい影響を与えない。あるだけ邪魔な悪癖だ。


 「トーファ、なあ、お前、もっと嫌がれよ」

 「……それがしてほしい事?」

 「ちげえな、お前にしてほしい事は、俺の言う事を聞くな、だ」


 なんというべきか、自立してほしいんだな、俺は。


 「……言う事を聞くな、って……どうすれば」

 「自分で考えろ、俺が教えたんじゃ意味ねえだろ」

 「私も、そうしたかったけど……でも、やり方が分からない」


 俺はふと思いついて、トーファが掛けているメガネを取った。


 馬鹿みたいな丸メガネは古ぼけていて、手入れはされているのだろうが、もうそろそろ寿命である事が伺える。

 トーファにとって大事な物だ、メアリーの時間魔術による修理を断るくらいに、誰にも触らせない大事な物だ。

 俺が買い換えようとずっと言っていたが、頑なに使い続けていた物だ。


 トーファが目を見開き、小さく口を開ける。

 初めて、俺の行動に拒否反応を示した。


 「なあトーファ、なんでだろうな?」

 「……何、が……」

 「なんでお前はそうなんだ?お前は賢いだろ?これから起きることも分かってる筈だ。なあ、なんで何もしない?」


 俺はメガネをプラプラと指で摘み、トーファに見せた。

 トーファの瞳は揺れ、あからさまに動揺している。


 それでも、トーファは動かなかった。不穏な気配を察知しながら、それに抵抗する様子が無い。

 俺はメガネから手を離した。軽い音を立て落下したメガネに、トーファは微かに息を詰めた。


 俺は大袈裟に見えるくらいに分かりやすく、ほんの少しの猶予を与えながら、メガネの上で足を上げた。


 「だっ……ダメッ!やめて!」


 足が落とされる。俺は何度も、何度も、何度も何度も地面を踏みつけた。

 トーファの悲鳴が聞こえる。喉の奥底から搾り出すように、叫ぶ。何を言っているのかはよく分からないが。


 メガネが原形を保たないほどぐちゃぐちゃになった頃、トーファが啜り泣くばかりで何も言わなくなった。

 俺はそこで足を止め、溜め息を吐きながらトーファを見る。


 うつ伏せに泣くトーファの横に歩く。トーファの泣き声が嫌にうるさかった。


 「なっ……なんでっ!なんで!」

 「うるせえぞ」


 クソみてえな疑問を、癇癪の起こしたガキのように喚くトーファを、俺は横から蹴り飛ばした。


 地面を転がったトーファはその勢いを殺し、プルプル震えながら顔を上げた。

 不理解と涙と土に塗れた不細工な顔に、俺は剣を鞘に収めたまま強く握った。


 トーファが恐怖した。

 立ち上がる事もできず、震えながら後ずさる。

 俺は数歩で距離を詰め、トーファを叩いた。


 打撃音が数度繰り返される。柔らかい嫌な感触がした。

 どこかしらが切れたのか、額から血を流すトーファはなんの抵抗も出来ず……いいや、せずにただ頭を抱えて震えている。


 突如、剣が弾かれた。


 「何……やってるの!?」


 いつのまにか目覚めたメアリーが、トーファに手を伸ばしていた。

 俺はへらりと笑ってメアリーに歩み寄った。


 「へへ、いや大した事じゃねえよ、ちょっと教育をな」

 「それ以上近づかないで!ライル、まずなんでそんな事をしたのかを……!」


 俺は怒りを露わにしているメアリーが気づく前に、トーファのメガネの残骸に魔力を伸ばした。


 「……時間魔術なら物品を直すのなんてわけないよな?」


 トーファが気づいた。弾かれるように顔を上げ、駆け出し必死にメガネに手を伸ばす。


 「ッ!!!」


 メガネの残骸が炎で燃える。物品を消し去る炎、後に残る物が何もない炎。

 もしもそれで消えたのならば、いかなる方法でもその物を取り戻せない不可逆の炎。


 メアリーが目を見開く。トーファが燃える残骸に覆い被さり必死に火を消そうとする。

 だが無駄だ。その炎は選択した物だけを燃やす魔法の炎であり、酸素を断とうが消せはしないし、誰かを巻き込む心配もない。


 それに気づいたトーファが熱した残骸に触れる事により火傷しながら、残骸の炎の勢いが少しも衰えない事に気づく。

 ボロボロな残骸が灰のように粉になる。

 それでも炎は消えない。




 灰をかき集めなんとか形を戻そうとしているトーファの手の内から、とうとう残骸は姿を消した。


 「あ……ああ……!ああああああ……!!」


 慟哭する。


 メアリーはそれを愕然と見ているし、チックは未だ目覚めない。


 ただ、トーファの嘆きだけが静寂を破っていた。


 「外道、ですね……」


 不意に、森の中から声がした。

 いまだ衝撃の抜けやらぬメアリーはそれでも、現れた国読みに警戒を露わにした。


 「おっと、今の私はなんの防御手段も用意していないのです、攻撃はやめてください」

 「……突然、なんの用なの?私たちは、これからライルと……」

 「魔王へと立ち向かうと?その前に……やるべき事があるのではないですか?」


 国読みが薄ら笑いでそう言う。メアリーは苦虫を噛み潰したような顔で国読みから視線を外し、俺を見た。


 「……ライル」

 「悪いが話をする気は無い」

 「ふざけないで!トーファになんて事を……!何をしたいのか、何が目的なのか言って!今すぐにッ!!」


 俺は怒るメアリーを前に、なんと言うべきか言葉を探した。

 俺の目的は二つ。トーファの自立、仲間の生存だ。


 トーファの俺への依存は異常であり、少しの荒療治が必要だ、だからやった。

 次に仲間の生存だが……三人全員に俺は生きていてほしい。

 三日前、国読みが言っていた。俺は一人で戦うと。


 そう国読みが言うからには何か理由があるんだろう。だがメアリーもチックもちょっとやそっとじゃ諦めない。

 だからトーファを傷つけた。好感度を下げるために。


 「ふふ、メアリーさん、一つ良い事を教えてあげますよ」

 「……」

 「……」


 俺もメアリーも、あまり良い予感はしなかった。


 「カーライルを生かす方法はあります。代償を支払う必要がありますが」

 「……!私に払えるものなら……!」

 「メアリーさん、テスタさん、トーファさん全員の命です」


 メアリーが絶句した。

 俺はなんとなく予感していたその言葉を聞いて、あまり驚きはしなかった。

 ただ、やっぱり俺は一人で死ななければならないのだと再確認した。


 「な……あ……」

 「ちなみにもっと大勢の人間を犠牲にすれば四人全員生き残れますよ、その場合死者は六桁を超えますが」

 「……はあ」


 抑えきれないため息を吐きながら、まだ蹲っているトーファを一瞥する。

 すぐに視線を外して歩いた。トーファに聞こえるように、少しだけ声を張る。


 「あのメガネ、そんな大事な物ならもっと早くに抵抗すべきだったな」


 メアリーの時間魔術はトーファも知っていただろう。

 ならどれだけ破壊されようが最終的に物は無事だ。


 「結局お前は俺の言いなりにしか動かないカスだ。これに懲りたら少しは自分で考えろよ」


 トーファの足は無事だった。走って逃げようと思えばいつでも逃げれただろう。俺が意図的にそうした。

 メガネの残骸を抱えて走るんなら、俺はそれを見過ごすつもりだった。何故そうしなかった?出来なかったのか?

 出来ねえんだったら最後に燃える残骸に駆け寄ったのはなんだ?


 「俺は一人で行く。トーファ、逃げろ、戦うな、追うな。俺を見殺しにしろ」

 「ら……ライル!」


 メアリーの困惑したような声を無視する。


 俺は一人歩き続けた。その内声も聞こえなくなった。メアリーは追ってこなかった。

 俺は一人歩き続けた。耳にこべりつく泣き声から目を逸らし、ただ歩き続けた。

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