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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
鋼鉄の才女

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三十四話:余命宣告

 それはいつまで経っても進展の無いトーファの特訓を始めてから十日の事だった。

 今日はいつもと趣向を変えて逆にトーファを全力で甘やかしてみたが無駄だった。今までの十日と同じだ。それは良い。


 問題は帰宅した後に訪れた、いや、待ち構えたと言うべきか。

 家に帰ると、すぐに気づく。リビングに客がいる事に。

 知っている気配だ、しかしここにいるはずがない気配でもあった。


 思わず玄関で硬直する俺に、後ろのトーファが訝しげに尋ねる。


 「……どうしたの?」

 「来客だ」


 短く答えてからリビングに足を踏み入れる、ダイニングテーブルにはメアリーとチックの二人が、そして俺の予想通り、栗色の髪の女……国読みがこちらを見ていた。


 「こんにちは、ライル。それからトーファさんも」


 国読みはにっこりと笑みを浮かべながら静かに佇んだ。




***




 俺は国読みの突然の来訪に、とある予感を感じ取った。

 十日前に出した手紙の返信はまだかとか何故お前がここにいるとか聞きたい事は山ほどあったが、俺はその全てを隅に置いた。

 ダイニングテーブルの対面に腰掛けている国読みは、俺の内心などお構いなしに悠然とした態度でいる。


 「……それで?国読み、何の用だ?」

 「用事、と言いますか、ちょっとしたお知らせですよ。お茶はありますか?」

 「……」


 シンと静まり返る。隣に座ってるトーファも、後ろで立ってるメアリーとチックも何も言わないし水を出す様子も無い。

 ピリピリとした雰囲気だ、それを知ってか知らずか、国読みはニコニコと上機嫌だ。


 俺は小さく息を吐き、石魔術でコップを形成、水魔術で冷水を中に注いだ。


 「やるよ、ほら、さっさと話せ」

 「ふふ、ありがとうございます」


 国読みが水を飲んでいる間に、背後の二人をチラリと盗み見る。メアリーもチックも、二人とも不機嫌そうに国読みを睨んでいた。

 ……俺達が来る前に何か話したのか?


 「……さて、ライル……いえ、カーライル・マネガン、栄えある帝国七英傑である貴方に残念なお知らせです」


 国読みが俺の正体を口にした。トーファは僅かに眉を上げて衝撃を露わにしていたが、背後の二人に動揺の気配は無い。


 「時間切れです。貴方は死にます」

 「……」


 その言葉を聞いても、俺に驚きは無かった。後ろの二人は事前に聞いていたのだろう、俺と……トーファに気遣わしげな視線を寄越している。


 唯一、トーファだけが、普段無表情な顔に悲痛を浮かべ、体を硬直させた。


 そこまで見て、俺は国読みのアホの目論見を察した。


 「……勝利宣言か?」

 「ええ、思ったよりも気分が良いですね」

 「どういう事?勝利宣言って……」


 今まで黙っていたメアリーがすかさず反応する。


 「言った通りだ……国読みの未来視は知ってるよな?」

 「知ってるわよ、それで?どういう事?」

 「彼……カーライルとの勝敗がついた、という事です」


 国読みがニヤニヤしながら言う。性格悪いなコイツ。


 「どういう事だい?それじゃまるでライルが死ぬのは君のせいだって言っているみたいじゃないか」

 「ええ、その通りです、私はカーライルが死ぬように――」


 国読みが言い終わる前に、二人は魔術を発動した。

 時流乱現象による捩れ破裂により、同時に発生した氷は歪み炸裂し、空間展開、圧縮による空気の超高密度破裂は辺りをメチャメチャにした。


 その全ての影響をメアリーはすっかり防ぎ、綺麗に線を引くように崩壊したリビングの向こうに声を出した。


 「ふざけないで!私が、一体どれだけライルに助けられたと……!」

 「……僕も、ちょっと許せないよ、軽々しく口にして良い言葉じゃなかった、冗談だっていうのなら、今すぐ訂正してほしい」


 憤る二人に、俺は特に何も感じなかった。

 リビングの中身は煙が充満し、まともに見る事は出来ないが多分めちゃくちゃだ。

 今リビングが部屋の形を保っているのはメアリーが守った事、そして国読み側でも防御したことが無関係ではない。


 「……良い攻撃です、ですが爆発系の攻撃は二つ使ってもあまり意味はありません。コンビネーションはもう少し練習すべきですね」

 「!?」


 予想通り、全く無事な様子の国読みの声が返ってくる。

 チックが風を起こし煙を吹き飛ばすと、そこには国読みと、銀髪の女がいた。

 両目を常に閉眼し、首に掛けたロザリオ型の杖を握り込んでいる。

 ちなみに胸がでかい。


 そこにいるのは帝国七英傑が一人『聖女』グラハム・ティサロッサだ。


 俺は続けて攻撃しようとするメアリーとチックを手で制した。

 どうせ無意味だ。


 「偉いですね、カーライル……三日後、魔王が復活します。貴方はそれと一人で戦わざるを得ない。これは……運命です」

 「ティサ、そいつ性格終わってるぞ」

 「……後で注意しておきますよ」


 甘々女が注意なんか出来るかよ。精々言いくるめられて終わりだな。


 「ティサ、お前が俺を助けないって事は、多分助けれないんだろうな?」

 「……申し訳ありません、カーライル、私は……」

 「いや、良い、別に構やしねえよ。そこの性悪占い師のせいだろ」


 落ち込むティサを慰めながら、俺は国読みを睨んだ。


 「国読み、さっきの話、ティサに誓えるか?」

 「ええ、私の言葉は全て真実であり、事実です。貴方は一人で戦い死にます、そして貴方自身もそう望むでしょう」


 それだけ聞ければ十分だ。一人で戦うとわざわざ明言するのはちょっと気になるが……。


 「そうか、もう帰って良いぞ。他に何かあるか?」

 「ありません。カーライル、健闘をお祈りしますよ」


 国読みが席を立つ。ティサは俺に哀れむような目線を寄越したが、すぐに国読みに続いた。

 国読みとティサは悠々と歩いて部屋を出ていった。国読みは最後まで、ニヤニヤとした笑みを浮かべたままだった。


 二人が帰り、辺りには沈黙が訪れる。


 「……どういう事よあの女っ!」

 「ライル!何で止めたんだい!?あんな、あんな……言われっぱなしでっ!」


 突然堰を切ったように二人が同時に叫ぶ、俺はそれを聞き流し、ひとまず立ち上がり、惨憺たる惨状の部屋に手を向けた。


 「一旦、掃除からだな。話は後だ、部屋を片付けるぞ」


 二人は同時に顔を歪ませる。

 俺は隣のトーファを……多分、自分のせいだと落ち込んでいるトーファを慰めようとして……。


 一人、部屋の片付けに向かったトーファを見た。


 「……」


 俺はそれを見て、何も言えなかった。

 二人も、不気味がってるような顔で、トーファを見ていた。


 「あー……トーファ?大丈夫か?」

 「……何が?」

 「……」


 俺はそれを……罪悪感を表に出しながら、悲痛で今にも泣き出しそうな顔をしながら、無理やり体を動かして片付けをしているトーファを見て、ようやく俺のすべき事に気づいた。

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