三十三話:特訓
俺はギルドに二足歩行のピアサーラビットを持ち帰り、魔王の前兆を報告、それと同時に俺専用の秘密の経路で国読み宛に手紙を出した。
発送は五日後、手紙が届くまで三ヶ月、しかし国読みは未来が見えるため、おそらく手紙の内容はとっくに知られているだろう。
予言の具体的日時、場所、条件を聞く手紙だ、返信は国読みがその気になれば五日以内に来る。また何もお答えできませんとか舐めた事が返ってくる可能性は高いが、まあものは試しだ。
時刻は早朝、仲間と帰った翌日のリビングで、俺は一人悩んでいた。
魔王の誕生の前兆が来たという事は、近いうちに……最短で今、最長で一月後に魔王が現れる。
その魔王が俺を殺す可能性はかなり高い。
二年前の雑魚の魔王ではなく、きっと俺を殺せるくらいに強い魔王だろう。
それ以外の死の要因が現れ俺を殺すのも無くはないが、多分無い。国読みの予言の俺を殺す魔王はほぼ間違いなくこいつの事だ。
じゃあどうする?あと覚醒が出来てないやつはトーファだけ。でも何のとっかかりも、きっかけも分からない。
諦めるか?いいやそれは絶対に無い、最後の瞬間まで俺は絶対に諦めない。
手段を選んでいる暇は無い、選ぶ気もあまり無い。
トーファがリビングに降りてくる。
「……カーライル、用事って?」
「ライルだ、まあとりあえず、外に出よう」
今二人は自室に居る、これからトーファにする所業を知ったら、二人は失望するだろうか?
ああ、考える意味の無い事だ、知る必要の無い事だ。
結局、それ以外の手段は無い訳だからな。
***
俺はトーファと二人で、街の南側の平原に来た。
日はもう少しで昇るだろう。風はほとんどなく、雪も止んでいた。
地面には雪が積もり、歩くのに多少苦労する。
俺はトーファをおぶって、街が見えなくなるような……否、街から見えないような位置まで移動した。
道中、俺はトーファに今までの事情を、予言について説明した。
今ここに至って説明をしないのは返って非効率的だろう。
俺はトーファにメアリーやチックと同じ事を期待しているのだと、そう説明した方がスムーズだ。
俺は雪の中にトーファを投げ捨てた。
どさりと音を立ててトーファが冷たい雪の上に倒れる。
「どんな感じだ?」
「……別に何にも」
倒れるトーファに問う。昔のトーファ……雪の中死にかけていたトーファのトラウマを呼び起こす目的だったが、無駄そうだ。
そもそも覚えてないのかもしれん。アプローチを変えるべきだろう。
俺は炎の魔術で周囲の雪を溶かし、地面を露出させた。
次いで乾燥魔術で水気を払う。
「それじゃあ、次だな」
「うん」
トーファが立ち上がる。
俺は剣を鞘に収めたまま横凪に振るった。
トーファは後ろに跳びそれを回避する。
しかし回避は間に合わず、肩に一撃喰らってしまう。
「っ……!」
「どんな感じだ?」
「……痛い」
「嫌だとか、悲しいとかは?」
剣をクルクル回して遊ぶ。トーファは特に何の感情も浮かべず、静かに言った。
「無い」
「……足りないのか?」
「うーん、多分?」
それを聞いて、俺は悩んだ。
このまま苦痛を与え続けて、それでトーファは大きく感情を動かすだろうか?
全く分からん。そもそもトーファは感情が薄い節がある。これ無理なんじゃないか……?
いいや、たとえ無理でも何もしないよりマシだ。
「難しいね、どうすれば良いんだろう?」
「まあ、とりあえずやってみるしかないだろう」
剣を掲げ、思い切り振り下ろした。
***
結局、朝から夕方まで続けてもトーファは特に大きな感情を見せなかった。
絶叫はしたが、しばらく待つと続きをやろうと進言する。
一日使って分かったのは拷問ではトーファの心を揺らがす事は出来ないという事だけ。
……無意味だった。今までの信頼が厚すぎるせいか、トーファは一切抵抗をしなかった。
後何日、残されている?後どれくらい、俺は生きていられる?
治療したトーファと二人で家に帰り、留守番していた二人に表面上にこやかに笑いかけながら、俺は思案する。
明日こそは、明日こそは事態を解決させよう、今日の所はひとまず眠ろう。
……だがしかし、そのまま解決の糸口が掴めないまま、日々は過ぎ……それから十日、何の進展も無く時間は過ぎていった。




