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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
鋼鉄の才女

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三十二話:一件落着……?

 やはり餅は餅屋というのは正しかったらしく、アルノにお願いしした翌日にはトーファは部屋から出てきた。

 表情は明るく「少し気分が落ち込んだだけ」と言って笑っている。


 そんな訳でそれから一日後、俺たちは魔物が異常発生した街の北部の森に来ていた。

 目的は異常発生した魔物であるピアサーラビットの数を減らす事。

 あまり減らしすぎてもいけないから討伐数は十匹で決まっている。


 視界が悪い雪の降る森の中、こんな時節だというのに青々しく茂っている森に、雪は積もっていなかった。

 冬だというのに妙に暖かい森の中で、俺は後ろを歩く三人……特にトーファを気にした。


 表情は明るい、声の調子も悪くはない。

 チックがまたアホな事を言って、トーファが反論、メアリーもそれに追従するが、沈んだ様子のチックにトーファが思わず味方してしまう……。


 別になんてことない、いつも通りのやり取りだ。

 そこに不自然な点は見えない。

 しかし、そんな事があり得るだろうか?


 確かにアルノは人の精神に詳しい、神がかっていると言ってもいいくらいの洞察力と観察力を持つし、単純に賢い。脳みその出来が違う。

 だがそんな超人を持ってしても人の心は容易にコントロール出来ないはずだ。本人からそう聞いている。


 トーファは至極落ち着いているように見える。だけどそんな奴は引きこもったりしないだろう。

 だとすればトーファが落ち着いているという事実は間違っているか、精神的な問題から引きこもったという事実に誤謬がある。




 ……そんな事を気にして、一体なんになるというのか。


 よくよく考えてもみれば、トーファの精神の安定は別に能力の覚醒になんら関係無い。

 大きな感情の発露が能力の覚醒に寄与している事はおそらく間違いないが、それはトーファの精神が不安定でも別に問題ないだろう。


 今大事なのはトーファの覚醒だ。

 それ以外の事は全部捨てろ、どんな手段でも取るべきだ。


 俺がそう考えていると、不意にチックが足を止める。

 少し遅れて俺も気づく、森の中に潜む何かの影に。


 「……ライル」

 「ああ、いるな」


 何のことか分からない顔をしたメアリーとトーファに近寄り、周囲を警戒する。


 「全員警戒しろ、何かいるぞ」

 「何かって?」


 そう言うメアリーに俺は静かに返した。


 「……分からん。チック、お前は?」

 「僕も分からないよ、でもこれは……多分、うさぎ?かな?」


 チックがそう言った瞬間、周囲の木々から何かが飛び出してきた。

 飛来する複数の影、それらは毛皮を持ち、一本の鋭い角を生やしている、二本の足で立っているうさぎだった。


 魔術を発動する、うさぎは全部で七匹、俺は石の槍を放ち三匹の頭を消し飛ばした。

 それと同時にチックが風の精霊に命じ、三匹のうさぎを地面に叩きつける。

 メアリーは一番強そうなうさぎに手のひらを向け、その時間を停止させた。


 全てのうさぎを無力化して、戦闘終了だ。


 「びっくりしたぁ……突然何?これ……?」

 「僕たちの会話を聞かれてたのかもね」

 「……私、出番なかった」


 思い思いに緊張を解く三人をよそに、俺は少しの焦燥感を胸にメアリーが停止させたボスうさぎを観察した。


 かなり体格が良く、筋肉量が大きい、鋭い一本角はこの森のピアサーラビットのものと一致するが、しかしピアサーラビットはその角を除けば普通のうさぎと相違ないはずだった。


 決して二本足でテクテク歩く亜人種っぽい奴ではないし、積極的に人を襲うこともないはずだ。

 群れである程度の統率を持って襲いかかってくるのもおかしい、そもそも草食だから人を襲っても何もないはずだが……。


 俺は石魔術で止まっているうさぎを拘束した。


 「メアリー、こいつ動かしてくれ」

 「分かったわ」


 途端に、硬く冷たかったうさぎはその柔らかさを取り戻し、状況に気付き驚愕したように絶叫した。


 うるさい鳴き声を聞き流し、しかしそれと同時に気づく。

 その鳴き声には法則があった、意思があった、思考があった。

 助けを求めているのか、あるいは逃亡を促しているのか、とにかく同種のうさぎに何かを伝えようとしている声だ。


 俺は風魔術でうさぎの首を斬り落とした。


 血が勢いよく噴き出る。小さい悲鳴が背後から聞こえた。


 「……帰るぞ、早急に報告する。これは……このうさぎ達は、魔王の前兆だ」


 魔人、魔女、魔王が生み出すもの。

 その魔王が現れる前兆、魔人や魔女のなりそこない、それがうさぎの正体で。


 ……そして、国読みにうけた予言……三人を覚醒させなければ俺が死ぬという予言、その予言に登場する俺を殺す魔王が現れるのが、それほど猶予がない事を示していた。

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