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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
森の詩人

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二十九話:一件落着

 一連の事件の後、テスタ・チックは無事街に帰ることが出来た。

 帰ったとき、メアリーとトーファが勢いよく飛びかかってきて、泣きながら怒られた。

 困って後ろのライルを見たら、ライルはため息を吐きながらテスタの頭を撫でた。


 「お前が襲われて城に運ばれたのは事前に俺が伝えたんだ。心配させたんだから甘んじて受け入れろ」


 そんな風に言うライルに従い、その日は一日中メアリーとトーファに付き合った。




 帰宅後のゴタゴタも終わり、しばらく経った頃。

 ライルからリーリルが処刑された事を聞き、嬉しいような、少し虚しいような感情を処理するため、テスタはまた酒場に来ていた。


 酒場の騒がしい喧騒は前回来た時のままだ。

 チーズを食み、エールに口をつける。

 前よりも寒さがキツく、外では今時珍しくもない雪が降っていた。


 それでも酒場とは不思議なもので、建物の中はむわりとした熱気で蒸し暑かった。


 「……」


 前と違い、憂いは無い。ふと、風の精霊が騒いだ。

 ポケットの中の精霊は元気に出てきて、皿の上で踊り出した。

 精霊は踊りながら、残ったチーズのカスをぺろりと平らげた。


 テスタは空になったコップをくゆらせて、本当に空になった事を再確認しながら、あの日のことを思い出した。

 ライルに言われて城に向かったテスタとベンウッドは、城を目の前にしてある人物に出会った。


 栗色の髪をしたその人はひとしきりテスタを観察すると、何やらふむふむ言った後何もせずに帰ってしまった。

 最後にその場で待つように言われ、言われた通りにしていたらライルがやって来たのだ。


 今思い返してもあの栗色の髪の人はよく分からなかった。

 ベンウッドが牢屋にいた頃、一度面会に来て、未来でも見えているかのような助言を行なったらしいが……。


 テスタが謎の人物に頭を悩ませていると、精霊がピクリと反応した。

 テスタの覚醒させた空間魔術は精霊の時代を再臨、それにより五百年以上前の精霊王の力を再現させる事ができる……。

 魔力の覚醒に伴い、たとえ意識的に時代の再現をしなくとも精霊はその力を以前より増している。だからだろうか、以前よりも気配の類がずっと読みやすい。


 テスタは精霊の教えてくれた気配に少し嬉しさを覚えつつ、いつまで経っても話しかけてこないその気配に痺れを切らした。


 「リン、隣空いてるよ」

 「……っ」


 言いながら振り返った。

 リンはいつも通り、シーフらしく動きやすい軽装で、冬だからだろうか、いつものハーフパンツに厚手のタイツを履いている。

 加えて少しサイズの大きい外套を羽織っていた。確か親の形見だっただろうか?


 「……それ、寒くないのかい?」

 「……っ……うん、ぜんっぜん」


 シーフとしてスカートなんてちゃらちゃらしたものなんて履けない、というのは本人の談だ。

 ただ、幼少期、まだ教会で里親を探していた頃に起きたトラブルが原因でもある。

 本人に直接詳細を聞いて怒られたのは今となってはいい思い出……でもないか。


 そっと、リンが隣に腰掛ける。

 酒場に来たというのに、注文をする様子は無い。


 「エール二杯!」

 「あ……その、ありがとう」

 「いや?別にいいよ……お金はあるかい?」

 「ある……」


 リンはぎこちなく財布を取り出しポンポンと叩いた。

 いつも通り前髪をカッコよく払いながら口を開いた。


 「それで?何か用事かな?今日はサボってないけど」

 「……うん」


 エールが二人の前に置かれる。

 二人とも数枚の銅貨を取り出し店員に渡す。


 冷たいエールを前に、二人は静かに口を閉ざした。

 テスタはそうしてしばらくぼうっと待っていたが、いつまで経ってもまごまごしているリンに、コップを差し出した。


 「……?」


 不思議そうに目を瞬かせるリンに、テスタは小さくため息を吐きながら言った。


 「僕らの友情に、乾杯しよう」

 「……!」


 リンは目を見開き、小さく、でも、と声を漏らした。


 「私……そんな、友達って、そう言える資格なんて、私……」

 「君は僕の事が嫌いだったのかい?」

 「違う!そんな訳ないでしょう!?」


 リンが語気を荒げた。


 「なら良いじゃないか。僕は君の事、まだ友達だと思ってるよ。君は?」

 「私、は……」


 精霊を眠らせる。感情や嘘を見抜く力は、一時的に無効化される。


 「……わた、私も……!友達だと思ってる!」


 だって、こんな風に泣きながら、嗚咽まじりで友達だと言ってくれる人間を、疑って良いはずがないのだから。


 リンがコップを手に取り、テスタのコップに強く突き合わせた。ちょっと力が強かったけれど、テスタはそれがとても嬉しかった。


 「……ありがと、テスタ」


 小さな声が酒場の喧騒に消えていく。


 ある寒夜の出来事だった。二人は同時に杯を傾け、そしてそれから精一杯笑い合って話した。

 なんでもない他愛のない話を。

 友人同士、夜が明けるまで。

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