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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
森の詩人

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二十八話:普通になんで生きてるんだよってね

 「カーライルちゃーん!まったく酷い目にあったよぅ!」

 「おーおートール、無事で良かったよ」

 「ヨヨヨ……私の無事を喜んでくれるの?嬉しい!きゃー!」


 そうはしゃいで抱きついてくるトールを受け止める。

 トールの体重は軽く、衝撃は少なかった。


 メイジーが呆れ顔でこちらを見ている。


 「キミって勇敢だよね……」

 「褒め言葉か?」

 「多分罵倒よりさ」


 はしゃぐトールが離れた時、俺は二人の後ろにいる奴に気づいた。


 「……ん?リンじゃねえか、元気だったか?」


 俺の問いかけに、リンは顔を伏せる事で答えた。

 トールが横から声をかける。


 「カーライルちゃん、私ちょっと怒ってるよ?」

 「何にだよ」

 「リンちゃんの事!森に放置したでしょ!」


 トールの失礼な物言いに、俺は思わず反論した。


 「失礼な、ちゃんと拘束はしたぞ」

 「そうじゃない!」


 何故か怒っているトールに、俺はひとまず話題を逸らす事にした。


 「あー、そういやトール、あの最後のアレなんだったんだよ?無色透明無味無臭の毒……毒?」

 「話題を逸らすなー!」


 なおも問い詰めるトールから逃れ、俺はメイジーに目線を向けた。


 「……確かにボクも気になるな、あれなんだったの?」

 「……むう、今話す事じゃないのに……国読みちゃんにレシピを教えてもらったんだよ、反則じみてるよね〜」


 トールの物言いに、俺は思わず納得した。あんなチート臭い魔術の使い方はトールだけでは到達出来ないと思っていたのだ。国読みの関与があるなら納得である。


 「国読みちゃんがわざわざ教えたって事はそれがなきゃ勝てなかったってことじゃん?だから使わず勝ちたかったんだけどなぁ……」

 「はっ、まだ実力の差は歴然ってとこだな」

 「ムキー!」

 「ボクは死の呪いが使えなかったし、トールも重量制限があっただろ、全力が出せれば勝ってたよ」

 「それでも今回俺とチックが勝ったのは間違いないがな」


 ピシリと表情を固めて硬直するメイジー。


 「……まあ良いよ。ところで件のエルフは?アイツのおかげでこんな体になってしまったんだ、文句の一つも言いたいところなんだけど」

 「城の方に行った、国読みがお呼びだってさ。つーかお前その体どうしたんだ?」

 「うっげー!国読みちゃんいるの?」

 「……国読みいるんだ、ボクちょっと体調悪くなってきたなぁ……」


 二人して俺の質問に答えず、不満げな表情を浮かべた。


 「さっさと答えろよ」

 「メイジーちゃんはねぇ……軽すぎて次元の彼方までぶっ飛んだんだ、これは別の次元から操作してる人形だね」

 「メイジー・メイジーだよ」

 「お前は吹っ飛ばなかったのか?その別の次元とやらに」

 「私は重かったからね、地平線の向こうまで吹き飛ぶだけで済んだよ」

 「トールが庇ってくれなきゃボクも復帰に時間がかかっただろうね。庇ってくれてても、本体が帰ってくるまで三日は掛かるし。アレ強いね、精霊王……か」


 メイジーに言われ、俺もチックの技を思い出す。あの一撃は見事だった。俺でも真っ向から受ければなす術もない、かもしれん。


 「あ!ちょっと待った!誤魔化されるところだった!カーライルちゃん!女の子を森に放置ってどういう事!?それに見てよ!衰弱してるじゃん!何したの!」


 そう言ってトールが後ろのリンを指差す。

 俺は咄嗟に拘束されているリーリルを生贄にした。


 「コイツが全部悪い。俺は何もしてない。脅してチックを襲わせたらしいぞ、最低だよな」

 「!?ま、待て!ワシは……」


 俺は反論しようとするリーリルに顔を近づけ、親しげに小さく囁いた。


 「待てよリーリル、俺を弁護してくれりゃあ諸々終わった後支援してやるぜ」

 「メイジー・メイジー様だ。そのリンとかいう女を拷問したのはワシではない」


 変わり身が早すぎる……だが貴族というのは得てしてそういうものなのかもしれなかった。

 身の振り方も上手い、事実ベースで話して、メイジーからの反感を減らし、それと同時に俺を庇った。なかなかやる奴だ。


 「メイジーメイジーちゃん、それ本当?」

 「失礼な!」


 メイジーが憤った、俺はなんとなくこの後の展開が読めた気がした。


 「だよね、メイジーメイジーちゃんはそんな事……」

 「ボクはちょっとすりおろしただけだ!」

 「する……わけ……」


 メイジーが人形を片手にぷりぷり怒っている。おー、人の恐怖を想像できない奴のなんて恐ろしい事か、ああいうのをサイコパスって言うんだろうな。

 リンはトールの陰に隠れていたが、メイジーの持つ人形を見てびくりと体を震わせて息を止めた。


 「……」

 「大体ボクは命じられたからやっただけだ!悪いのはリーリルだろう!」

 「…………」


 トールがドン引きしたような目でメイジーを見る。

 しばらく黙って、俺に向き合った。


 「ま、まあいいや……次!カーライルちゃん!街からこの城に移動する最中、と……トイレはどうしたの!?」


 トールがちょっと恥じらいながら俺を問い詰める。俺がどう答えても納得しないと確信できるくらいに、トールの目は怒っていた。

 確かに、二日の移動の最中にリンが色々文句を言っていたような気がする。

 恐らくもうすでにリンから聞いているだろう。俺を問い詰めるのは事実確認のためではなく俺の罪悪感なんかを確かめるためなはずだ。

 だが残念ながら俺に罪悪感なんて無かった。演技は見抜かれるだろう。ならば。


 「リーリルバリア!」

 「!?」

 「バリア無効!」


 咄嗟に前に出したリーリルはトールにどかされた。なにぃ!?


 「たー!やー!はー!」

 「フンッ!ハアーッ!」


 気の抜けるような掛け声と共に拳を交える。

 ペチペチと殴り合っている最中、メイジーが呆れた様子で口を開く。


 「……楽しそうだね」

 「はあー!あちょー!メイジーちゃんも!参加する!?」

 「メイジー・メイジーだ。やめとくよ……そういえばカーライル、ちょっと聞きたいんだけど」

 「なんだ?」

 「リーリル、なんで生かしてるの?キミはぶっ殺すと思ってた」


 メイジーの突然の問いに、俺は思わず動きを止めた。

 トールのチョップが頭に当たる。


 「……?どったの?カーライルちゃん」

 「……国読みは、リーリルについて言ってなかったか?」

 「聞いたよ、どうでも良いってさ、ボクに殺せとは言わなかったけど、殺しても殺さなくても良いって」

 「そうか」


 俺は剣を手に取り逃げ出そうとしているリーリルへ距離を詰め腹部を刺し貫いた。

 大木に叩きつけられ、血を吐くリーリルの顔は驚愕に満ちている。


 「グゥ……ぁ、き、貴様ッ!」

 「ヒッ……!」

 「ちょっとぉ!リンちゃんの前で何してんの!」

 「野蛮だな」


 俺はリーリルを魔術で固定し、木に縫い付けて剣から手を放した。

 空いた両手を握り、リーリルを殴る。


 「ガッ……ゲェ……ま、待ッ!」

 「待たねえよボケ」


 何度も何度も拳を振るう。すぐに殺しはしない。


 「カーライルちゃんさぁ……リンちゃんが見てるでしょ?せめて予告してよ」

 「知らねえよ」

 「ひどい奴だなキミは」

 「お前が言うなよ」


 自分もリンに洒落にならない所業をしているくせに、メイジーは自分が言っていることがおかしいという思いがないらしい。

 チラリと視線を向ければ、トールはリンの目元を隠し、リーリルの惨状を見せないようにしていた。


 視線を戻す。まだ二十発も殴っていないが、歯は折れ頬は裂け血だらけ、鼻血を垂らし、その眼光は弱々しい。


 「どうしたリーリル。『怪老』リーリル。仰々しい二つ名に反して弱虫ちゃんなのか?」

 「……う……な、なぜ……!」


 声は小さく、歯抜けなこともあってまともな音の体を成していなかった。それでもなんとか聞き取り、意味を理解する。


 「なぜって……復讐だよ、ほら、お前の起こした戦争で同僚……帝国七英傑のアイツが死んだろ?」


 リーリルは不可解そうに、理解の出来ない物でも見るかのように俺を見た。


 「分からねえって感じだな。いや実際、さっきまで殺す気は無かったんだ」


 元々死刑にはするつもりだったが、今この場で殺す気は無かった。

 なぜならそれが国読みの意向だとばかり思っていたからだ。

 国読みの奴の未来視は完璧で、チックがリーリルを殺さなかった時点でその行動も国読みの思い通りなはずだ。


 殺させなかったという事は生かしておく価値があると思っていたんだが……。


 「でもなぁ……お前、死んでも良いらしいからな」

 「……!」


 まあなんというか、報いを受ける時って事だな。


 「ああっ、い、いやじゃっ!いやじゃあ!金ならあるっ!命だけは!」

 「おいお前ら金だってよ!」

 「持ってるから良い」

 「私お金いらなーい。リンちゃんは?」

 「えっ、あの……いらない、いりません……」


 ケラケラ笑いながらリーリルを見る。笑えるくらい震えてるリーリルは顔一杯に恐怖を浮かべていた。


 「ハハハッ……なんて顔だよ!笑えよ!」

 「……ハッ……ハハ……」


 リーリルがぎこちなく笑った。

 飽きた。クソつまらねえなコイツ。


 俺は剣を抜き、大きく上段に構えた。

 剣による支えを無くし、リーリルはその場に膝をつき、倒れる。

 地面に倒れるリーリルの首は、どうしようもないほど隙だらけだった。


 鮮血が跳ねる。血潮が地面を染める。

 静寂の中、事態に気づいたリンの悲鳴がうるさかった。

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