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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
紅蓮の魔女

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二話:森の詩人

 俺は窓を開け放ち、そこで深呼吸していた。

 部屋の中には俺一人、メアリーは帰した。


 パーティーを抜けろだとか、なんだとか、すぐには返事を出来ないと言ったのだ。

 あの場では一応納得していたが、あの様子では近日中に返事を求められるだろう。


 どうにかしなくては……俺は深呼吸しながら考えた。

 息を大きく吸い、吐く。

 ふと思い立って口に軽く手を当ててゆっくりと息を吐いた。


 そして今度は鼻で息を吸う。


 ……分からん。


 俺がそうしていると、突然ノックの音が鳴った。


 「ライル?入って良いかな?」

 「ああ、良いぞ」


 ギイと扉が開く。そこにいたのは耳の長い少女だった。名前はテスタ・チック。

 長い金髪に、スラリとした手足。見た目からしてまだ子供だが、将来はとてつもない美人だろう。

 美人薄明とは言うが、コイツは今の状態で既に俺よりも遥かに年上だ。エルフの中ではまだ子供、という事らしいが。

 ちなみに胸も尻も無い。つまらない身体だ。


 「フフ……待たせてしまったかな?」

 「いや?全く」

 「え?そ、そう?」


 髪をかき上げ無駄に格好つけた声を出す。

 もったいぶった仕草を好み、自らを常に高く見積り、自信に溢れ、その癖妙に周りの目を気にする。

 まあなんというか、人生には誰しもそういう時期があると言うべきか。早い話が厨二病だ。


 長い付き合いだ、まともに付き合っても苦労するだけだと知っている。


 「ほら、座れよ」


 俺は普通の椅子に座り、脚を組みながら酒樽に座るよう促した。


 「フフ……」


 チックが酒樽に腰を掛ける。どうせ樽に座るのもちょっとカッコいいとか思ってんだろ……?分かるよ、そういう少しおかしな事したいよな?


 脚を組む俺を見てすかさず自らも同様に脚を組み出す。そういうのを後でこっそり真似するんじゃなくて目の前でやり出すのはある意味尊敬できるかもしれない。


 「それで?なんの用だよ」


 想像していたより刺々しい口調だった。

 自分でも気づかない内にイライラしているのかもしれない。

 八つ当たりは……まあ、コイツなら別に良いか。


 「フフ」


 チックは華麗な(少なくとも本人はそう思っている)笑みを浮かべながら、目を逸らし髪をかき上げる。

 前髪が邪魔そうだ。だがコイツは床屋でわざわざ前髪の長さを指定している事を知っている。


 髪をねじねじ触りながら、正面の俺から目を逸らし物憂げなため息を吐いた。


 ……なんだ?コイツ、言いにくそうだ。お、お前はそんな空気の読める奴じゃないだろ?

 お前はメアリーが怪我で苦しんでる時に「良かった……顔は無事だったね」とか言っちゃう奴だろうが!


 あとコンプレックスを面白おかしく吹聴するデリカシーの無さも最悪のバカだ。おかげでメアリーは胸と胸の間にほくろがある事を街中にバラされた。

 後で「そんなの気にするのはおかしいよ、だから敢えて広めて誰も気にしてないって証明しようとしたんだ!」と言い訳していたが。冒険者のバカは第三の乳首を持つ女とメアリーをあからさまに嘲笑した。

 本人が吹っ切れて気にしなくなったから良かったが、アレは三年近く経った今でもドン引きだ。


 精神的に成長したのか?否……エルフはそんな簡単に変わらない。人間じゃないからだ。精神の構造が完全に違う。全く別の動物だと思った方が良い。

 チックは未だ子供だ。他己評価が苦手、自意識過剰、思い込みが激しい、客観視できない、感情で結論を出す。


 エルフ的には10歳も行っていない。100年は生きているはずだが、精神的にはクソガキだ。

 人間の子供であれば大人になればなくなる短期的な欠点も、エルフにかかれば数十年単位の病だ。


 そんなチックが、今、言い淀んでいる。言葉を探しているのか、あるいは言いづらいのか。成長したのでは、ない。ならば……()()()()()()()()()()()()()()を言おうとしているのだ!!


 「フフ……いいさ、覚悟を決めたよ」

 「……ああ、言ってみろ」

 「ライル、君にはパーティーを出ていって欲しい」


 ……。


 「……」

 「……」


 シンと静まり返った。お互いに口を開かない。

 俺は慎重にチックの様子を伺っていたが、数秒程チックと目を合わせて、気づく。

 もう言いたい事は終わったらしい。


 ……それだけか?なんでその程度を言い淀んでいたんだ?

 いや……十分衝撃的ではあったが、その程度を躊躇うほどデリカシーのある奴ではない。


 「理由は?」

 「君が嫌いだから」

 「何故?」


 チックは先程とは違い表情を殺し、無感動な瞳で俺を見ている。

 頭に上る激情を抑え、なるべく冷静に、決して感情を表に出さないようにチックを見る。


 「言わなきゃいけないのかい?」

 「人を嫌うのならせめて説明しろ」


 なんの理由も無いというのもあり得なくはない。子供の考える事など分からない。無軌道。無秩序。非合理。

 燃え上がるような怒りを覚える。俺は嫌われるような事は……まあしてるが、今までやってきた尻拭いと、売ってやった恩で帳尻を……いや、帳尻は合わない。俺は感謝されるべきだ。


 人と衝突する事もあるが、それでも人と関わりたいとも言っていたチックを、俺は好きにさせた。コイツの代わりに頭を下げた。弁償した。

 何が不満だ?ふざけやがって……!


 チックは目を瞑り息を吐く。そして観念したように口を開いた。


 「いや……その、口が臭いからね」

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