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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
森の詩人

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二十四話:決着はド派手に

 俺の剣が容易く打ち砕かれ粉々になる。

 辛うじて軌道を曲げたトールの拳が俺の頬を掠めた。


 「アハハッ、すごいすごい!」


 笑うトールから半歩距離を取り、石剣を二振り生成、片手で剣を構え迫り来る拳を逸らし、もう一方の剣を無手で操りトールの頭に叩きつける。

 破砕し粉々になった石剣二つを捨て去り、風の魔術により高く飛び上がる。


 粉砕された石剣の破片を引き寄せながら空中を数歩後ずさった。


 鋭く伸び槍とかした周囲の黒スライムが俺を狙う。

 流法で逸らしながら空を踏み締め留まりつつ石剣の破片を一点に集中させた。


 優先順位は黒スライム。今のトールはそれほど脅威ではない。


 石剣の破片を射出し床に満ちている黒スライムを破壊する。

 ついで指先に魔力を込め他の黒スライムを狙う。室内の床は黒スライムで埋め尽くされている。的には困らない。


 黒スライムが槍となり俺目掛け射出される。流法で横に逸らし、そしてそれと同じタイミングでトールが跳び上がり俺へ拳を放った。


 炎の魔術で回避する。空中機動ならば俺にかなりの分がある。

 適当に回避して上から風を叩きつけてトールを打ち落としつつ、周囲の黒スライムを狙う。


 「トール、ちょっと真面目にやってよ」


 呆れた様な声を出すメイジーを、俺は内心で嘲笑した。


 確かにトールは今本気を出していない、それは奴のポリシーによるものだ。

 やる気が湧かないだの気が乗らないだのクソみてえな言い訳でトールはいつも不真面目だ。

 かつて俺と一緒に任務に当たった時もそうだった。トールはピンチにならないと本気になれない気分屋で、何を言われようと本気を出さない女だ。


 俺はこのままトールを追い詰めず、のらりくらりとやり過ごす。まず狙うべきはメイジーだからな。


 俺がそう余裕をこいて周囲の黒スライムを駆逐していると、俺の耳に信じられない言葉が聞こえた。


 「そうだね、ギアを上げよっか!」


 俺の一瞬の衝撃の内に、跳び上がったトールが天井に着地した。

 天井を踏み締め、力を解放する。

 俺は直前で爆炎を発生させ、飛来するトールを回避した。


 黒スライムに満ちた床に轟音を立てて着地するトールは、俺を見て笑っている。


 ……おかしいだろそれは!


 空中浮遊を解除して重力に従い落下する。着地点の黒スライムを流法でどかし、機敏な動きで着地点の先に割り込んだトールと俺の間に圧縮された空気を発生させ炸裂させる。

 トールは全く堪えた様子が無いが、俺は風に吹き飛ばされ距離を取る事に成功した。


 移動先の黒スライムを再び流法でどかしながら、吹き飛ぶ勢いそのままに流法を応用して地面を滑る様に移動する。

 そのまま迫り来るトールを無視して周囲の黒スライムを狙おうとして、途中でやめた。


 魔術の使用を停止して肉体強化に魔力を回す。

 地面に着地し移動を停止、床を踏み締め跳び上がり、トールを飛び越しながらついでに頭を蹴りつける。


 空中でバランスを崩しつつもなんとか着地する。さっきトールを蹴り付けた足が痛みを訴えた。

 いつのまにか折れていた足を治しつつこの一瞬で反転、肉薄してきたトールの拳を避けながら周囲の黒スライムを流法で逸らし、トールに拳を返し数発打撃を喰らわせる。


 トールの肉体はびくともしない。地面でも殴っているかの様な感触は、トールの質量、重さが増している事を如実に表していた。


 トールの拳に腕を合わせ、横に全力で逸らす。

 カウンターパンチは放たず、距離を取ってから身体強化を解除、流法を強化する。


 俺を中心として半径10mの範囲で魔力を球状に回転、床の黒スライムを弾き飛ばす。


 「トール……てめー何マジになってんだ?いつもの不真面目でやる気のないお前はどこに行った?」

 「いやいやカーライルちゃん、おかしな事を言わないでよ、私はいつだって真剣だよっ!」


 嘘つきが……!


 トールは俺の流法の範囲外、黒スライムが床にある地点で立ち止まっている。

 それ以上に踏み込んではこない。当然と言えば当然だ、トールの現在の質量は人のそれを超越している。

 黒スライムでの補助がなければ床が抜ける。


 トールがこちらに来るには闇魔術による質量の()()を行わなければならない。その場合身体強化に回す魔力が減る。


 その状況なら流法に四割の力を込めている俺でもトールに勝てるか……?

 いや……勝てるッ……!


 「来ねえのかチキン」

 「私がチキンならカーライルちゃんは亀かな?一生殻に篭ってるつもり?」

 「俺は有能でイケメンな王だよ、王ってのは城にいるもんだろ?」

 「良く言いすぎでしょ」


 二人でヘラヘラ笑い合う。

 トールが攻めてくる様子は無い。やはりと言うべきか、俺の流法の内側であればトールも勝つ自信は無いらしい。


 「そんなに長続きしないでしょ、ソレ」

 「お前も、俺がこのままじっとしてると思ってるわけじゃないだろ?」


 本来の質量を取り戻し、魔力の全てを身体強化に回すトールを相手にするのは相当に苦労するはずだ。

 まず無力化すべきはメイジー。そこは依然変わらない。


 魔力は……トールの言う通り、この流法は効率が悪く、丸一日しか持続出来ない。

 更にその上トールの妨害、メイジーの黒スライムへの対処も込みで考えなければならないわけだが。


 殺せる。


 確信と愉悦を持って一歩進む。

 それに反応したトールが半歩下がり、メイジーの方へ歩みを進め。


 「ライル!」


 不意に、入り口から声がした。

 弾かれる様にそちらを見る。そこには床を埋め尽くす黒スライムに驚愕しているチックがいた。


 同時に背中に凄まじい死の気配を感じる。

 トールが飛来して来ていた。その質量は到底俺の流法で逸らせるものではなく、それでもなんの不自由もしていないのは単純、床に足を付けていないから。

 一瞬止まり、魔術による爆炎で後ろに移動。爆炎を掻き分けて抉り上げられたトールの拳が俺の顎を掠め、鼻先を削ぐ。


 床に着地する、移動の勢いを床に逃しながら、床に着地し、尚も進もうとするトールに風の魔術を放つ。

 追撃は無かった、トールは俺の魔術をそれほど脅威には思っていない様だったが、それでも流法の範囲外、黒スライムの上へ退避した。


 削れて完全に無くなった鼻先から血が流れる。遅れて痛みがやって来た。

 トールは自分の拳を……俺の血がついた拳を感慨深げに見ている。


 「当たった……当てれた……」

 「ハッ……一発当てれたくらいで何浮かれてんだよ」


 言いながら、入り口を横目で見る。チックは黒スライムに押し潰されて無力化されていた。精霊が奮起しているが、あれは無理だろう。


 「……カーライルちゃんさ、もうちょっと私達を信頼しても良いんじゃない?」

 「あ?」

 「今の、普段のカーライルちゃんなら絶対避けれたでしょ」


 トールが悲しそうに眉を顰める。


 「赤地に青の水玉、でしょ?赤地はお互い本気で、青の水玉はお互い、お互い以外を守って戦う。違う?」

 「合ってるぜ」

 「ならあの……テスタちゃん?だっけ?あれが来ても気にしなくて良いじゃん。私達はあの子を殺さないんだからさ」

 「……説教か?」

 「そうだよ?私、もうちょっと信用されてると思ってたんだけどなぁ……」


 アホな事を抜かすトールに、俺はなんと返そうかと考え……。


 突然、全身の力が抜けた。原因は知っている。


 「毒、回ったね」


 流法が乱れる。膝を突く。視界が揺れる、気分が悪いし吐き気がした。

 それら全てを無視して魔術を全力で発動、後方に移動する。

 合わせて放たれたトールの蹴りは、俺の顔面スレスレを掠めた。


 乱れた流法を突破して黒スライムが俺を襲う。俺は付けていた指輪の魔力を解放、風を巻き起こす。

 俺を中心とした竜巻が天井まで伸び上がり黒スライムを吹き飛ばした、足元の黒スライムを吹き飛ばされたトールは竜巻から抜け出す。


 何もいなくなった竜巻の中心点、破滅的な風が唯一及ばない台風の目の中で、俺は治癒の魔力が込められた指輪に力を込めた。




 トール・ハフマンは毒を使う。奴のメリケンサックはただの打撃武器ではなく、杖である。俺は当然それを知っていた。


 毒は俺の治癒魔術では治せない、それはトールも知っている。


 俺は油断なんてものをした事が無い。チックを見て隙を晒したのはわざとだ。


 ……不死鳥(フェニックス)という魔物がいる。その鳥は不死であり、たとえ毒に侵されようと、()()()()()()()()()()()()()魔物である。




 ――俺は炎の魔術を発動した、魔術の対象は今現在の俺の身体、そして今発動している竜巻。

 視界が赤に染まる前、俺は指輪を起動し治癒の魔術を解放する。


 俺の全身を炎が包んだ、今まで感じた痛みの全てが些末に思える程に痛い。


 「―――――――!!!!」


 叫ぶ、臓腑の内の全てが痛い。自分が今何をして、どうなっているのか分からないし何も聞こえない、でも叫ぼうと頭で考える。


 「――――――――――!!!!!!」


 痛み、痛み、痛み、永劫に思える程に絶大な苦痛、時間の感覚が消し飛ぶ絶望。


 「―――――――――――――!!!!!!!」


 何もかもが、消え去って、意識を失い、痛みで覚醒して。

 明滅する意識の最中、不意に痛みが消え去る。


 「ぐがあああぁあああああ!!!!」


 未だ全身に残っているかの様に思えるあの痛みは、気づけばすっかり消えていた。

 折れてぐちゃぐちゃになった心を繋ぎ直し、やるべき事をやる。


 全身の汗を無視して、魔術で石剣を生み出し、立ち上がった。

 目の前には燃えた竜巻が、炎の壁がある。しかし確信があった。


 トールは俺が毒の治療が出来ないと思っている。今の竜巻が、俺の苦し紛れの抵抗だと、思うはずだ。


 果たして俺の思考は正しかった、炎の壁をぶち抜いて、トールが現れた。

 その質量は風に飛ばされない最低限であり、竜巻により飛ばした黒スライムが無くとも床に立てるギリギリの質量だ。


 「――は?」


 アホ面を晒すトールの頭に剣を叩きつける。

 砕けた石剣を捨て、拳を握る。今の俺は流法も魔術も使ってない。完全に全ての魔力を肉体強化に用いている。

 側頭部から血を流し、ふらつくトールを殴りまくる。


 柔らかい、普段のトールよりもずっと殺しやすい。

 俺の頭にさっきまでなかった選択肢、まずトールを無力化するという選択肢が浮かぶ。


 トールがたまらず後ろに跳ぶ、台風の目の外、炎が吹き荒れる竜巻に入っていく。

 俺は指輪を破壊し、竜巻を停止した。


 顔を歪めるトールに距離を詰め、未だ残る竜巻の残滓を無視して殴打を続ける。

 肋骨、腕、顎、手。

 骨を砕く感触をその手に感じながら、最後に放った拳が不意に止まる。

 トールの足元に黒スライムがいた。


 闇魔術による質量の軽減が解除される。みるみるうちに本来の質量を取り戻し、身体強化に魔力を回す事で硬く、頑丈になっていくトール。

 俺の背後、今まで竜巻で近づけなかった黒スライムも俺に襲いかかる。

 俺は大ぶりな動きで拳を構え、トールを殴りつける……振りをしながら、一番最初、メイジーに投げた剣を操作した。


 剣が一人でに浮かび、メイジーを狙う。

 結果は見えなかった。ただ周囲の黒スライムが消え去った。


 トールの顔が再び驚愕に満ちる。床がみしりと音を立てる。ギリギリのところで質量を軽減させたトールを前に、俺は嗤った。


 「これでッ……!」

 「あーあ」


 俺の拳が向かうより先に、トールがつまらなそうにこちらに指を向けていた。


 「『炸裂しろ』」


 その瞬間、俺は……否、俺の周辺の空気は爆発した。

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