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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
森の詩人

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二十話:自業自得

 衛兵は投げ捨てられたチックを見つけ、葛藤の末城に運び込んだ。

 俺は闇魔術により影に潜み、こっそりとその跡を付けて行った。


 薄ら暗くなってきた城の中には人はあまりおらず、曲がりなりにも公爵が城主とは思えない。

 この城の城主であるリーリルはエルフ排斥派であり、差別主義者である。人望もあまりなく、ぶっちゃけ老害である。

 若い頃はそれなりの貴族だったらしい。


 リーリルがチックを見つけても一日二日で殺してしまう事は無いとは思うが。万が一チックが死んでしまっては元も子もない。

 仲良し作戦はまだ終わっていないのだ……。


 俺は魔術で作った影を広げ、壁を這いながら進んだ。衛兵の指示を盗み聞いたところ、どうやら地下牢に入れるらしい。

 周辺を警戒しながらチックを運ぶ衛兵を追跡する。


 この城の兵士はどいつもこいつもボンクラだ、見つかる事は無い。俺が警戒しているのはリンから聞き出した『死体の様な少女』である。

 特徴的な外見に、そいつが拷問に用いた道具からその正体には察しがついている。


 そいつは他者を呪い、恨み、殺す者。俺と同じ帝国七英傑が一人、『呪詛師』メイジー・メイジーだ。

 もしも奴がいるのなら、それは国読みの命令だろう。帝国七英傑は大体国読みが動かしている。そして国読みの命令という事は、今回の俺やチックの動向も、全て奴の思い通りの可能性が高い。


 今回でチックは『覚醒』を成すかもしれない。そう思えば少し気が楽になった。と同時に、少し、ほんの少しだけ、心の隅にモヤモヤとしたものが浮かんだ気がした。


***


 仲良し作戦の内容は単純だ。これでもかというくらい単純だ。


 チックの離反原因は精霊との契約を行った事により、他者の嘘を見抜き感情を類推する事ができるからだ。

 俺の内心、心情を知ったのであれば、一種の人間不信に陥るのも理解できる。俺は基本的にチックを馬鹿にしているし見下しているからな。


 だがしかし、俺はチックを騙したり、嘘で誤魔化した事は実は無いのだ。そりゃあ俺はチックの事を救いようのない馬鹿だと思っているが、かといってチックの事が嫌いなわけではない。




 時刻は深夜。チックが地下牢に運び込まれてから半日程。チックはとっくに目を覚ましているが、脱出は出来ない様だ。

 ずっと地下牢の入り口を見張っていたが、リーリル公爵は来なかった。


 だがチックはさぞ恐怖しただろう。目が覚めたら薄暗い牢屋の中で、脱獄も出来ないときたら。

 俺が救ってやろう。そして俺がチックを仲間だと思っていると、一緒にいて楽しいと伝えてやろう。


 チックが牢屋に入ったのは俺のせいだが、チックがその思考に至って俺に質問しなければ全く問題無い。

 馬鹿で阿呆な子供を転がすのなんて、赤子の手を捻る様なものである。


 俺は適当な衛兵を気絶させ、その服を奪いとった。

 衛兵を倉庫に隠し、倉庫の鍵を壊して扉を開かなくする。


 そして俺は堂々とチックの捕らわれている地下牢へと進んだ。


 コツコツと、足音が反響する。

 中には見張りが一人、退屈そうに欠伸をしていた。


 足音に気づいた見張りが振り向くより先に、俺は見張りの頭を殴りつけて気絶させた。

 見張りが倒れる音が地下に響く。


 気絶している見張りから鍵を奪い、チックの捕らわれている地下牢の前に進んだ。


 奥で息を潜めているチックに、俺は指先で炎を出して明かりを灯しながら笑いかけた。

 突然光を灯されたチックは眩しそうに顔を手で覆った。足元には食器がある、食事が出されていた様だ。

 足枷を付けられているが、その拘束は魔術師相手にしては非常に軽い。

 ……哀れな被害者に対する最低限の拘束、といったところか?


 「よう、チック……待たせたな」

 「……ライル?」


 チックの声は、予想と反してそれほど焦ったものの様に聞こえなかった。


 「……なんでここに?どうやって……?」


 その質問は想定済みだ。


 「……そこの服の裏地、見てみろ」


 チックは俺の促した通りに服を探ると、中から木で出来たアミュレットを見つけた。


 「これは……」

 「人探しのアミュレット……俺のお手製だ。少し前から着けてたんだ。勝手にやってすまん」


 ちなみに少し前とはリンがチックを気絶させた後くらいのことである。チックは嘘を見抜ける。故に俺の言葉を信用せざるを得ない。そこに語弊があっても、精霊はそれを認める事ができない。


 「……それは」

 「すまん、お前の為なんだ」


 不服そうに眉を顰めるチックに被せる様に告げる。

 チックの為であるというのは詭弁であるが、嘘ではない。チックだって人を信用出来ないのは辛いだろう。俺が欺瞞に満ちようと、チックにとって信頼できる人間になる事はチックの為になる。


 「……」


 チックは不満を露わにしながらも、それ以上追求してくる事は無かった。当たり前だ。俺の言葉に嘘は無い。

 普通に考えてそれが嘘でないからなんなんだという話ではあるが、嘘ではないと理解できてしまうチックでは俺を追求する事はしない。


 「……そっか」


 チックはそう呟いた。それ以上追求する様子は無い。

 その顔に不可解さを露わにしている。俺の感情を読んだのか?どういう感情だろうか?上機嫌で陽気?チックへの嘲笑?

 それがなんであろうが……チックは嘘を見抜けるという一点のみで、俺を信用せざるを得ない。


 息を整える。そして満を持してチックへの仲間としての思いを伝えようとして。


 「ライル……隣の牢に捕えられてる人を、助けて欲しい」


 チックがどこか申し訳なさそうにそう口を開いた。


 「……?隣の牢屋?なんでだよ。俺罪人は助けたくないぜ」

 「……罪人じゃない。僕と同じ様に捕まった被害者だ」


 正直どうでも良いが……ことさらに断る理由も無い。何よりチックの機嫌を損ねるのは良くないだろう。


 「任せろ」


 チックの言われるがままに隣の牢へと歩を進める。

 隣の牢は部屋の入り口から距離があり、ほとんど何も見えない程に暗かった。

 指先に火を灯し中を覗く。


 「……っ!?なんの用だ……!」


 光に弾かれる様に反応した中の人間は、チック同様長い耳を持つエルフの男だった。

 上裸で傷だらけの肌を曝け出し、短パンは擦り切れて血の跡が残りボロボロ。片目は光を失い、髪はボサボサだ。

 痩せ細り今にも死にそうな気配だ。この場の劣悪な環境が見て取れる。


 「大丈夫か?平気か?」


 俺がそう問いながら牢屋の鍵を開けると、男は訝しげな表情を浮かべた。

 ……聞こえていない?


 「耳。聞こえるか?」

 「……」


 男はなおも警戒した様子を崩さない。返事をする様子も無い。

 なるほどな。


 俺は気にせず男に歩み寄り、手をかざした。

 魔術でも放たれると思ったのか、その場で丸くなり背を向ける男に治癒魔術を使用する。


 全身の傷を始め、なんらかの理由で聴力を失った耳も、白濁した目も。

 数秒もそうしていると、男は回復した。


 痩せ細った肉は流石に治せないが、失った血や足りない活力までなら生成出来るし欠損も治せる。

 俺の治癒魔術で治せないのは馬鹿と病気だけだ。


 「こ、これは……!?」

 「耳、聞こえるか?」

 「……!っあ、ああ、聞こえる。おま、いやあなたは一体?」

 「誰でも良いだろ。話は諸々終わってからに……」


 そこで俺は気づいた。男が背に庇っているものに。

 恐らく男の衣服であった布に包まれたそれに。

 男はそれを持ち、俺の目の前に差し出した。


 「お願いします……!どうかこの子にもその術を!」

 「……ああ」


 赤子だった。それも小さい、とても小さい子供。生後まもないだろう。まだ目も満足に開いていない。


 赤子に治癒の魔術を掛けながら内心で舌打ちをする。

 一目見て分かった。この子供はダメだ。助からない。


 治癒の魔術を終え、さっきよりも幾分様子がマシになった赤子を男が抱き寄せるのを見てから牢屋を出てチックの元に戻る。


 「チック」

 「ライル、彼の具合は――」

 「帰るぞ。アレはもう駄目だ」

 「え?」


 そう言ってチックの足枷を魔術で破壊する。迅速に行動しよう。余計な考えをさせない様に。


 「ちょ、ちょっと待ってくれ!駄目ってどういう事!?何が――」


 説明をする気も起きなかった為チックを無理やり担いだ。


 「うるせえ、駄目なもんは駄目だ」

 「説明に……なってない!」


 言うと同時にチックが魔術を発動する。風の塊が俺とチックの間に現れ、引き剥がされる。

 チックが中空を舞い着地し、俺を睨んだ。


 「ライル!何が駄目なのかちゃんと説明してくれ!」

 「……チッ」


 面倒な事になった。非常に面倒な事になった。

 説明は出来る。赤子は病気だ、たちの悪い風邪か知らんなんかか。俺の治癒魔術では病気は治せない。というか何かを体内から排除する行為全般が出来ない。

 食中毒やらなんやらはただ体を元に戻すだけでは完治しない。それを治せるのは聖女くらいだ。


 だがしかしあの赤子を助ける事が出来ない訳ではない。俺が赤子を持って脱出して最寄りの街で医者を探せばなんとかなるはずだ。なんとかなってしまう。

 その場合移動速度を落とさない為に連れて行けるのは赤子だけ。最寄りの街まで行くのにほぼ丸二日かかるだろう。


 俺の移動方法は魔術による爆速移動。当然俺以外の人間を抱えたまま行えば内臓が混ざって死ぬ。なので移動と同時に治癒魔術を発動する事で延命させる必要があり、魔力の回復なども含めてどれだけ急いでも二日かかる。

 帰りは半日もあればそれで良い。だが往復で二日半、その間チックを放置するのは完全に無しだ。

 どう考えても碌でもない結末しか思い浮かばない。


 しかしチックは赤子を助けられると知ったらその手段を取らせようとする。チックは馬鹿な自己犠牲で悲劇のヒロインぶって自分に酔うクソ女だからだ。

 唯一の道はチックに事情を話さず、ただ俺には訳があるのだと言ってチックを無理矢理助け出す事。だがそれも今不可能となった。チックは事情を聞かなければ満足しないだろう。


 衛兵に事情を話してチックの安全を保証してもらうか?突然現れた俺という不審者の言う事など聞けないだろう。

 一旦チックを森に置いて待機させるか?リンならまだしも二日半もチックを森に放置は論外だ。死なれたら困る。

 二日半なら問題無い可能性はあるか?駄目だろうな、俺が翌日に報酬を受け取りに来ると脅してしまった。何を払えば良いのかそもそも依頼があったのか確認するためリーリルには必ず話が通るだろう。


 詰みだっ……!クソが!想定が足りなかった!

 もっと慎重に動けばッ……!俺がもっと慎重に動けば回避できた筈だ……!


 「……ライル?事情を説明してくれないか?」

 「……」


 言い訳……リカバリーしろ。状況は極めて不利、だがしかし俺ならば……勝てる。


 唾を飲み心を落ち着ける。俺ならば出来る筈だ……!自分を信じろ。なんとかしてチックを説得するッ!

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