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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
森の詩人

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十九話:恐怖の刷新

 俺は恐怖によって人を縛る事はしない。

 何故なら恐怖で人は縛れないからだ。恋人、友人、あるいは正義、大義。人には恐怖よりも苦痛よりも優先するものがある。

 人は苦痛や恐怖に屈服しない。ただ抗うことの出来ないそれに、敗北する事はある。

 一見屈服した様に見えるそれは、再起の機会があれば立ち直る程度のものでしかない。


 だから俺はできうる限り恐怖で人を縛らない。


 「それで?依頼主はあの城の城主、リーリル公爵で間違いないな?」

 「……」


 死んだ目で地面を見つめるリンは、ノロノロと遠目に見える城を見て、ゆっくり頷いた。


 抱えているチックが目覚める様子は無い。オーガや隠れていた魔術師を殺してから二日弱経過している。最後に薬を飲ませたのは丸一日前、そろそろ目覚めるかもしれない。精霊は二度ほど目覚めかけたが都度気絶させた。


 「リン、お前を拷問した奴についてもう一度聞かせろ」

 「……ぁ……う、そ、それ、は……」


 カチカチと歯を震えさせるリン。

 その身に刻まれた恐怖は色濃く、余程の所業を受けたのだと分かる。


 だがしかし、人は恐怖には屈服しない。何故なら、恋人であったり、友人であったり、大義であったり、正義であったり……あるいは、また()()()()()だったり。人は過去に受けた恐怖などというものを凌駕する事ができるのだから。


***


 俺はチックを担ぎながら、城門に真っ直ぐ向かっていた。

 リーリル公爵のいる城、バレン城は山間にある要塞めいた城である。華やかさは無いが、機能性に優れ、攻めにくく守りやすい。

 国境沿いに建てられたその城は本来国同士の戦争に用いられる物だったが、帝国が国家を統一したためもはや無用の長物となっている。一応鉱物の採掘拠点としても使われていたらしいが……。


 今日日戦争なんて起こらない。リーリル公爵がこんななんの役にも立たない砦にいるのは、彼が罪を犯し、追放されたためだ。

 そしてそんな城に俺は真っ直ぐ向かっている。


 城の周辺は木々が伐採されており、城下町……町というほどの規模ではないしほとんど使われていない様だが一応点々と建物がある。

 道なりに進めば城門に到達する。だが城門に着くより先に、俺を見つけた衛兵が声を張った。


 「そこのお前!止まれ!」


 当然俺は気にせず進んだ。そっちの方が話が早いからだ。


 「止まれ!聞こえているか!?止まれ!」


 衛兵が数人城門から現れる。魔術師が数人、魔術を用意している。


 「止まれ!最後の警告だ!こちらの指示に従えないのであれば魔術を放つぞ!」


 お行儀が良い、それに人数も練度も良い。腐っても公爵の部下か。

 今ここで争う意味は無い。ひとまず立ち止まった。


 「……」

 「旅の者か!?一体ここに何の用だ!」


 城門までの距離はそれほど無い、少なくとも相手の顔くらいは分かるだろう。

 俺は持っていたチックを持ち上げ、大きく掲げた。

 喉を鳴らし、チンピラらしく声を張る。


 「そんなかっかすんじゃねえよボケ共!てめーらの城主様からの依頼を果たしに来たんだよ!」

 「……なに?」

 「依頼されたエルフの女だ!さっさと報酬を寄越せ!」


 衛兵は訝しげに俺を睨んだ。

 さて、このままチックが捕らわれれば俺の作戦の第一段階は成功だ。

 俺の考えた作戦……仲良し作戦がな。


 「その様な依頼は知らされていない!ふざけた事を言うな!」


 衛兵は怒りを滲ませ声を上げた。

 ……依頼は確かにあった筈だが……チックへの慈悲か?リーリル公爵のエルフ嫌いはこの衛兵も知っている筈だ。

 それが嫌いの域を超えて、憎んですらいる事も、恐らく知っている。

 そんなリーリル公爵に贈られたエルフの末路なんて碌な物ではない。なるほどな。


 「んじゃあ、コイツはいらねえって事で良いな?」


 俺は剣を抜いてチックの首に当てた。

 衛兵が目を見開く。


 「ま、待て!」

 「なんだよ、やっぱりいるのか?」

 「……そ、その様な無意味な事はやめろ、その少女になんの罪がある」


 俺は剣をそのままに、衛兵に凄んだ。


 「んならてめえ、依頼があった事を認めてくれよ。ええ?」

 「……わ、分かった」


 衛兵は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。

 ……一旦了承してチックを回収する気だな?クソ面倒臭い……。


 「報酬は明日で良いぜ、また来る。それまでに金を用意しろ」

 「……」

 「もし、金が用意できなかったら……」


 俺は炎の弾丸を三つ生み出した。


 「ッ!!ーー防御用意!!!」


 一目でその炎に秘められた魔力を見抜いた衛兵が叫ぶ。俺は三つの炎弾を城門に向けて放った。


 衛兵の後ろから魔術師が数名現れる。

 氷、水、無属性魔術を用いて魔術結界を張り……。




 炎が着弾した。衝撃と熱が解放される。音と振動は着弾距離から離れている俺でもしっかりと感じられた。

 間髪入れずチックを投げ飛ばす。爆煙により視界が遮られているうちに木々に潜み、最後に叫んだ。


 「もしも報酬を払うつもりがねえなら……もしもこの俺を騙そうっつうなら……!覚悟しろよっ!!テメえら全員焼き殺してやるからよぉ!!ヒヒッ……!ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 最後に高笑いを残して、俺は姿を消して隠れ潜んだ。

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