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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
森の詩人

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十七話:トラップ

 街の北には深い森が広がっている。多少開拓が進んでいるとはいえ、少し街壁から離れればもうそこは獣の領域だ。

 地面は歪で、木々により空はほとんど見えない。暗く不気味なその森は、街が出来た頃よりも深く、噂によれば人の開拓も何のその、未だ広がり続けているらしい。


 「リン!ちょっと速度を落としてくれないかい?」

 「何?別について来れるでしょ?」

 「それはそうだけど……モンスターか、獣でも出たら危ないよ」


 チックが普段のば……おおらかさを感じさせない慎重な姿勢を見せた。案外ビビりだし、怯えているのかもしれない。

 俺の前なら間違いなく強がりを言っているところだが、リンとは親しいのだろうか?素を出している様に見える。


 「大丈夫よ、まだ浅いし、道も一応ある」

 「でも……」


 俺というブレーキがいないせいか?考えてみれば、チックに無茶をさせた事……というか、チックよりもば……勇敢な奴とチックを絡ませたことは無かった。意外と自分よりば……向こう見ずな奴がいると冷静になるのかもしれない。


 「この辺りなら危険な動物も少ないし、モンスターも出ないわ」


 俺は足元に転がっている息のしていない狼を見下ろした。

 ツノを持っていて、そこを起点として土魔術を使用する危険度Aランクの獣、ウォルドウルフである。

 危険度は群れを想定しているため、単体であればチックでも容易に対処できるだろうが……ちょっと不用心すぎるな。


 「ほら行くわよ!それとも怖い?」

 「こ、怖くなんて、ないさ」


 チックが声を震わせながらリンを見返す。リンはそれを見て不機嫌そうにしながら、前を向いた。


 「なら行くわよ。見せたいものはもう少し先だから」


 リンがそう言って森の奥深くへと進んでいく。

 チックもそれに続いた。俺も周辺の警戒をしながらこっそりと着いて行った。


***


 それから十分ほど、それなりの速度で進んだリン達は、森の浅部を抜け、それでも歩き続けていた。

 辺りに人の痕跡は無く、道も無い。あるのは道の様に見える何かか、獣道のみだ。


 俺はウォルドウルフの死体を土に埋めながら、ため息を吐いた。

 ……いくら何でも多すぎる。ウォルドウルフは群れるが、それにしてはまばらで、かといって偶然にしては頻度が多すぎる。

 多様な獣が襲ってくるならまだしも、襲ってくるのはウォルドウルフと、他はトレントが一体いたくらいだ。


 罠か。目的はチックの消耗か?獣寄せのアミュレットでも持って捕獲したウォルドウルフを放てば自然と今の状況になる。


 「……リン、あの」

 「うるさい。もうちょっとだから」


 リンが明らかに平静を失った様子で返す。焦っているな?そりゃあ仕込みの狼を俺が殺してしまったわけだから焦りもするか。


 「周辺で獣……多分狼の気配が次々消えて行ってるんだよ!何かおかしい、()()()がいるんだよ!」


 チックも同様に平静を失った様子で捲し立てる。焦っているな?俺は気配を消せるが狼はそうではない、仕留める前にチックに捕捉されてしまうのはある程度はどうしようもない。

 完全に想定外だ……。


 「ぼ、僕たちも狙われてる!きっとそうだ!このまま殺される!!」


 チックが怯えを見せ、カタカタと震えている、顔を真っ青にして辺りに視線をやり警戒をしている。

 ……そ、そこまで怯えられるとは……。


 「うるさい!!どの道もう戻れもしないでしょう!?」

 「う、で……でもぉ……!」


 チックは半泣きになりながらも前を行くリンに着いて行った。一人にされるのが怖いだけかもしれない。


 それから数分、二人は無言で歩いた。時折チックがびくりと身を震わせて辺りを見渡すぐらいで、本当に何も起きなかった。

 ウォルドウルフも来ない。品切れか……?


 俺がそう考えていると、不意にリンが立ち止まる。


 「……こっち」


 リンが枝をどかし、茂みを抜ける。チックもそれに続いた。

 俺は木の上に登りバレない様に続いた。


 そこにあったのは小さく開けた広間だった。

 辺りは木々が無く、中央には辛うじて家があったと思える跡地がある。

 基本的に木で覆われている空から陽が降り注ぎ、どこか清涼な空気を感じさせた。


 家の跡、恐らく玄関があったと思われる場所に、大男が座っている。

 赤い体表に角、筋骨隆々とした肉体は力強さを感じさせる。

 オーガだ。ちなみに胸は男にしてはある。


 木々に紛れながら辺りを見渡し、気づく。俺だけではない、多くの人間が俺と同じ様にこの広間を囲んでいる。

 待ち伏せか……!


 「ま、待たせたわね」

 「……いいや?予定より早い」


 知り合いを見つけた安堵からか、リンの声色は少し柔らかかった。

 対するオーガは冷静だ。リンの後ろのチックにちらりと目線を向けつつ、その素振りを見せない。


 「テスタ、今日ここまで来てもらったのは話があるからなの。彼は知ってる?」

 「……いや?」


 リンは横にずれ、チックとオーガを対面させた。そのまま後ろに数歩下がり、チックの後ろに。


 そして懐からナイフを、鞘に収めたままのナイフを取り出し、掲げた。

 そうしてそのままチックの頭部、そのてっぺんに向けて、思い切り振り下ろした。

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