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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
紅蓮の魔女

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十二話:時間の支配者

 メアリーの周辺で停止する蔓を見て、マーダープラントは即座にその脅威を感じ取った。

 中心の外殻の中、無数にある目玉が赤く光る。


 その目玉一つ一つから、無数の光線が放たれた。


 メアリーは少しも焦らず、ゆっくりと手をかざした。


 メアリーは目の前の空気の時間を止める。光線はメアリーの眼前で爆発した。

 時間の止まった空気の盾は、一切の衝撃を防ぎきった。


 マーダープラントが警戒を露わにする。花弁をピンと立て、外殻を少し閉じ、完全に停止して動かせない蔓を引きちぎりメアリーから距離を取る。

 咆哮する。マーダープラントは目の前の敵の脅威を正しく認識している。二本の蔓を大きく、何かを抱く様に大きく広げる。


 マーダープラントが魔術を発動した。

 魔術を発動するには少し遠い距離だったが、マーダープラントはそれを意に介さない。

 大きく広げた腕を中心に、幾つもの光が現れる。

 星の様に瞬くそれらから、熱線が放たれた。


 熱線が命中した地面は膨張し、爆発する。メアリーを狙うわけではなく、辺りを全て消し飛ばすつもりの様だ。

 時間にして十秒、熱線は放たれ続ける。

 爆発による土煙と轟音は止む事はない。




 マーダープラントが熱線を止める。煙はすぐに晴れる。

 えぐれ、赤熱した地面が露わになっていく。


 その中心、最も激しい破壊を受けたはずのメアリーは、その周囲の環境も含めて全く変化が無かった。


 「ゴホッ……」


 メアリーは治癒魔術が使える様になったわけではない。元々受けている傷は治せない。傷ついた肉体では魔術の制御が乱れる。

 それでも尚、メアリーはマーダープラントの魔術を防ぎきった。


 メアリーが杖を構えた。半ばから折れた杖は辛うじて繋がってはいるが、決して使えない。

 メアリーが杖をギュッっと握る。折れていた杖が振動する。


 マーダープラントは一際太い蔓を二本、螺旋を描く様に巻く。

 根本から蔓を通る様に光が移動する。

 蔓の先端に破壊的なエネルギーが収束する。


 メアリーの手に握った杖が、ゆっくりとその形を直した。

 物体の時間を戻す魔術だ、いまだかつて使用された事のない時間魔術を、メアリーは早くも使いこなし始めている。

 杖に魔力を込める。


 現れた氷の槍は、太く、氷柱と表現した方が適切だ。

 マーダープラントがピクリと反応する。そして人質をメアリーに見える様に出した。


 ……メアリーはそれに一切の反応を示さず、氷柱を放った。

 氷柱が不自然に加速する。ソニックブームを巻き起こすその氷柱は、彼我の距離を瞬く間に詰めていく。


 少し遅れてマーダープラントも魔術を放った。収束、集中された熱源はマーダープラント自体を燃やしている。焼ける蔓から圧倒的な破壊の光線が放たれる。


 時間加速によって通常実現し得ない速度で飛来する氷柱を、圧倒的な破壊の塊が迎え撃つ。

 お互いにお互いを対消滅させる。

 周囲に破壊を撒き散らし、衝撃が空気を揺らす。


 氷柱の勢いは消えない。マーダープラントの熱線を刺し貫き、進み行く。

 しかし、その熱により氷解する事を防げはしなかった。


 氷柱がみるみる内に小さくなっていく。そしてマーダープラントに辿り着く前に、溶けて消えてしまった。

 辛うじて氷柱を蒸発させたマーダープラントは、蔓から力を抜く。焼けて灰になった蔓を、根本から再生させる。


 そしてマーダープラントは見た。

 メアリーが再び氷柱を、今度は三つ生み出しているのを。


 あの攻撃はメアリーにとってそれほど苦労する物ではない。

 それをマーダープラントも理解した。

 せめてもの抵抗だろう、人質を前に出し、そこで気づく。


 人質が停止している。いつの間にか、その人間の時間は止まっていた。


 メアリーが杖を振るった。氷柱が三つ放たれる。


 マーダープラントは地面を蹴りそれを回避した。脅威的な速度で飛来しようが、距離がありすぎる。マーダープラントには当たらない。


 メアリーが新たに氷柱を生み出す。

 マーダープラントは逃亡を選択しなかった。それは元来殺戮を本分とする生態もあっただろうが、もっと大きな理由はメアリーの限界だ。


 メアリーは覚醒して時間を操る事が出来るようになった。

 他の誰も使用することの出来ない強力な魔術を、メアリーは獲得した。


 しかし、メアリーが受けたダメージは大きい。

 魔術がブレる。氷柱の一つが発射されずに落下した。


 メアリーは治癒魔術を使えない。失った血は戻せないし、出血を止めることも叶わない。

 メアリーの意識が薄らぎ、その場に膝を突く。


 詰みだ。思うに、メアリーの敗因は覚醒のタイミングが遅かった事だ。

 万全の状態であれば圧倒出来ただろう。時間魔術はそれほどに強力だ。


 メアリーの魔術が解ける。自身の周囲の空気が流れ始め、準備していた氷柱は落下し、人質の時間が動き始める。







 そして、気絶した様子のメアリーの背後に、俺は立った。


 鞘に収めたままの剣でメアリーの頭を叩きつける。

 地面に倒れ伏すメアリーに治癒魔術を掛けてやりながら、俺はマーダープラントを睨んだ。


 突如として現れた俺に、マーダープラントは警戒を露わにしている。

 逃げるつもりなのだろう。植物にしては頭が回っている。


 俺は持っていたマーダープラントの幼体を前に出した




 硬直、理解、怒り。マーダープラントはすぐに叫び声を上げ、蔓を操りこちらに突進してくる。


 俺はそれを眺めながら、恐らくこの言葉を聞いているであろう人質に向けて説明をしてやる。


 「……誤算は三つあった。こんな事になる予定じゃなかった」


 俺は幼体を上に投げ捨てながら、マーダープラントに向けて跳躍した。

 迎え撃つ蔓を切り刻みながら、マーダープラントの外殻に着地する。衝撃でのけぞるマーダープラントに、俺は左手で魔術を発動しながら空いた右手で剣を振るった。


 マーダープラントが炎に身を包まれ、人質を拘束していた蔓が根本から切断される。俺はマーダープラントを蹴り、再び跳躍。空中に跳びながら途中で拘束から解放された人質を拾い、メアリーの側に着地した。


 絶叫するマーダープラントが、その身を振り払い火を消す。恐らく魔術だろう、身体全体から水が滲み出ていた。

 さっき投げたマーダープラントの幼体が空中から落下する、俺はそれを掴んだ。


 「まず一つ目、俺はメアリーの覚醒は『トラウマの克服』だとばかり思っていたんだ」


 その身の火を消したマーダープラントに、幼体を投げつけてやる。マーダープラントは一瞬その目を見開き、すぐに我が子を受け止めた。

 俺は人質とメアリーを両手で持ち、踵を返して市場を出る。


 「炎を使えばメアリーが負ける事など無い。まあついででお前は死ぬが、それはしょうがない」


 崩壊した市場の外、そこには酒場がある。若干崩れているし、中に人の気配は無いが、少なくとも人目を避けれるだろう。

 マーダープラントの幼体にかけた魔術を発動する。

 背後から爆発音がなった、マーダープラントは断末魔を上げる間も無く死んだ。


 「二つ目の誤算はお前が俺を見た事だ。陰でこっそり覗いていた俺を、お前は見つけた……俺の油断だな、反省するよ」


 酒場のドアを蹴破る。俺は未だ一言も言葉を発さない人質だった男を適当に投げつけた。

 メアリーを床に寝ころばせ、念の為眠り薬を口に含ませる。

 ……これで暫くは目覚めないはずだ。


 「メアリーの魔術に巻き込まれるか、マーダープラントが力加減をミスってお前を締め殺してくれれば良かったんだが……」


 投げ捨てた男に歩み寄る。体が動かせないのか、ぐったりとしたままだ、呼吸は出来ているが。

 男の首を掴み、壁に持たれさせるように姿勢を整えた。

 ついでに男の喉に治癒魔術を発動する。麻痺毒であるのなら、これで喋れるはずだ。


 「ぁ……あ……」


 おぼつかない様子で声を出そうとする男に、俺は最後の誤算を説明した。


 「三つ目は、メアリーが俺を追放する理由だ。聞いたか?足手纏いだからそれが嫌だったんだってさ。英雄になる俺の足を引っ張った……てな」


 正確にはそれが俺を追放する理由だと、メアリーが語った訳ではない、しかし、それ以外に理由が見つからないならきっとそれが理由だ。

 それはもう……全くもっておかしい事だった。馬鹿馬鹿しすぎて笑ってしまう。メアリーはとんでもない勘違いをしている。


 「あそこで俺がメアリーを助けちゃ結局メアリーの劣等感は変わらない。だから気絶するまで待たなくちゃならなかった」


 かつて国一番の預言者『国読み』はこう言った。

 『理解できますね?貴方がすべき事、貴方の義務が……ねえ?カーライル・マネガン?』

 魔王を倒す英傑がどうのとか、俺に並ぶ英傑になるとか。


 ーーどうでも良い。心底どうでも良い。

 凡百のカスが何人死のうが、帝国の行末がどうなろうが知った事ではない。

 メアリーが苦しもうがチックが嘆こうがトーファの故郷が滅んでも、その苦しみは俺のものではない。


 それでも、それでも俺が三人を鍛えたのは、どれほどきつい目に遭おうと文句を言わずにただ奴らのご機嫌をとったかと言えば。


 『ああ……ちなみに鍛えなければ貴方が死にます。これは……運命です、カーライル・マネガン?』


 そう言う『国読み』は憎たらしいほど上機嫌だった。俺が従うと当然の様に確信していた。

 ああ……実際その通りだった。俺は死にたくないがために、三人を鍛え、そして奴らの好感度を稼ぐために英雄『ライル・ベアフット』を演じた。


 「は……はあ……はあ……っ!」


 男の呼吸が荒く、恐怖によって乱れる。その目が俺を射抜き、瞠目する。


 「お……前っ……『剣』……!カーライル・マネガンか!!」


 男が俺の正体を言い放つ。

 メアリーはとんでもない勘違いをしている。足手纏いなんて知っている。俺は俺の目的のためにメアリーを利用しただけだ。

 そして……英雄となる俺の足を引っ張ったというのは、間違いだ。


 俺は帝国七英傑『剣』カーライル・マネガン。

 俺は既に英雄だ。ライル・ベアフットがそうでない、というだけで。

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