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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
紅蓮の魔女

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十話:マーダープラント

 トラウマから立ち直ったメアリーは最近の不機嫌さを感じさせないくらい明るくなった。

 市場に戻って、俺の手を引き快活に笑みを浮かべている。


 俺を嫌っていたはずでは……?とも思うが、まあ、本当の所は俺を嫌っていなかったとか、そんな所だろう。

 何らかの事情があって俺に嫌われようとした、一体その理由とは……?


 さっぱり分からない。

 そんなもの俺に相談してくれれば解決してやるのに……。


 「ライル見て、干しイカがあるわ」

 「赤いイカか?」


 メアリーが露店の一つに指を刺して言う。

 それはタコだった。


 「足が沢山あったわ、イカよ」

 「……そういや内陸の出だったか。ありゃタコだ。イカじゃあない」

 「そうなの?」


 メアリーの出身国、魔道国家ナラは内陸国である。逆に何故イカなど知っていたのかが不思議だ。

 ナラの名産は牛だったかな……?メアリーへの贈り物に良いかと思ったが、牛肉は高いし、こんな市場では売っていないか。


 「一匹……?一個?貰おうかしら」

 「干しタコなんて買って何に使うんだ……魔道触媒として取引はされるが、実際の所タコに魔道的効果は無いぞ、メアリー」


 俺がそう言うと、メアリーはキョトンとした顔でこちらを見つめ返した。


 「……何にって……食べるつもりだけど」


 蛮族か?或いはよほど食うに困ってるのか?

 ゴブリンだって喰わんだろうあんな不気味な生き物……。

 なにせ色は赤だし足は柔らかい触手が八つ、全身をぬるぬるとさせながら這いずり進む気色の悪い生き物だ。これを美味しそうだと思う奴はいないし、絶対健康に悪い。


 「……別にお前の趣味を否定はしないが……なんだ、もうちょっとマシな物食ったらどうだ?」

 「なあ!?は、はあー?べ、別にみんな普通に食べてるわよ!」

 「ああ、まあ……そうかもな」

 「何よその目!」


 類は友を呼ぶという奴か?貧乏人には貧乏人コミュニティがあるんだろうが……メアリーはそんなに貧乏でもないし、たかられている可能性の方が高いか……?


 「メアリー……友人がタコを食ってる所なんて見たことあるか?」

 「私テスタとトーファくらいしか友達居ないわ……でも、誰でも食べるわよ、テスタが言ってたし」


 それはチックの嘘だな、あいつはまたしょうもない嘘を吐いて……。

 いや、それともまさかあいつタコを本気で食い物だと思っているのか?うーむ、俺はチックのバカと嘘どちらを信じるべきか……。


 俺が全く信じていない事が分かったのか、メアリーはため息を吐きつぶやいた。


 「もう……いいわ、今度確かめるから!」

 「ああ、まあ……そうだな」


 俺は曖昧に頷いた。

 メアリーは気にした様子もなく、次々と面白い物を見つけていった。


 「ライル、あの指輪綺麗だと思わない?」

 「綺麗だが、何の効果も無いぞ?」

 「ライルライル、あの服、カッコよくない!?」

 「男物じゃねーか、お前には似合わないぞ」

 「何で私が着るのよ!」

 「ライル!踊る人形だって!」

 「ゴーレムか、あのサイズであの複雑な踊りを仕込むのは苦労したろうな……」




 そんな風に露店を眺めていると、ふとメアリーが立ち止まった。


 「ねえライル……私、黒猫って良いと思うのよね」

 「あーん?」


 いつの間にかメアリーが露店の一つに近づき、檻を覗いていた。

 ペットショップらしい。猫やら犬やら、小さなトカゲに、謎の植物も売っている。

 ……これは……。


 「可愛いわね……健康そうだし……」

 「お客さん!ようこそおいでくださいました!ペットをお探しで?」


 メアリーに気づいた店員がにこやかに近寄ってきた。

 顔に傷があり、無駄にガタイが良い。荒くれ者特有の雰囲気を纏っている。それなのに下手に出ているから気味が悪い。

 周囲を見渡し、ペットの状態を見る。いずれも肉つきがよく、毛並みなんかは良く手入れをされている様に見えるが、どうにもチグハグだ。

 少し観察すれば雑に扱われたと分かる奴もあれば、いやに丁寧に世話をされている奴もいる。


 ……盗品か、非合法ペット。

 躾のなっていない野生の獣と、どこかから盗んできた獣と……そんな所だろう。完全に違法だ。


 メアリーは目を輝かせてネコを見ているが……多分そいつは誰かのペットか何かだぞ。


 「使い魔欲しかったのよね……」

 「コラ、どうせお世話出来ないだろ、駄目だぞ」

 「出来るし……私そういうの得意よ」

 「今までペットを飼った経験は?」

 「無い」


 論外じゃねーか馬鹿か?


 「駄目だな、生き物を飼うんならちゃんと責任を持てなきゃいけないんだ。諦めろ、最初はネズミとかから始めると良いぞ」

 「そっかぁ……」


 メアリーが檻に手を振り中のネコに別れを告げる。店主は俺たちに買う気が無いと分かったらさっさと奥へ引っ込んでしまった。

 ……俺は店の中の檻の一つを見た。中にはくたびれた植物があり、檻の隙間から地面に蔓を伸ばしている。


 「ライル?行かないの?」

 「ああ、今行くよ」


 俺はメアリーに返事をして、檻から視線を外した。

 ……あれはマーダープラントの幼体だ。地面に蔓を刺していたのは、恐らく親を呼んでいたのだろう。

 マーダープラントは上位の魔物だ、植物なのか生物なのかは分かっていないが、冬の間は冬眠を行う。

 眠っているマーダープラントから子供をくすねたのだろうな。きっとこの市場は地獄になる。


 店主もその危険性を知らないだろう。騙されたのか、安銭で雇った馬鹿が持ってきた爆弾をそうと気付かず貰ったのか。

 どちらにせよ碌なことでは無い、が、俺の知るところではない。


 「ライル、剣が売ってるわよ」

 「んー、今ので不足がねえからな……んな事よりあれとかどうだ?肉の塩漬けだ、美味そうだぞ」

 「何で街でわざわざ保存食を食べるのよ、もっと美味しいものあるでしょ」


 メアリーの言う「もっと美味しいもの」というのは野菜やら果物である。趣味が合わねえ。

 干し肉は美味しい、野菜も、別に不味くはない、だが好きかと言われると……理解できん。


 俺がまだ見ぬ肉に思いを馳せていると、地中の奥深くから音と振動がした。

 ……意外と早い……というか、タイミングが悪かったな。




 突然の破壊音、衝撃が轟く。爆発でも起こったかの様なそれは、さっき立ち去ったペットショップを吹き飛ばしていた。


 「ギピイイイィィィ!!」

 「ま、魔物だー!」


 メアリーの手を握った。人々が街中に突如現れた魔物から逃げる。

 悲鳴、怒号、混乱、俺は咄嗟にメアリーを引き寄せた。

 メアリーのトラウマを刺激するかもしれないと思ったからだ。


 「わ……!ちょっと、突然何……?逃げないと……」


 腕の中のメアリーは、不思議そうにこちらを見上げた。

 ……思ったよりも平気そうだ、パニックになっている様子も無い。トラウマはあくまでも炎であり、悲鳴や怒号は関係ないのか?

 ……なら、使えるかもしれない。


 周囲の人間があらかた逃げ終わり、あたりに人影は残されていない。崩れた露店の下に人が一人気絶しているのと、ペットが未だ檻の中にいるぐらいだ。

 マーダープラントは我が子を捕えている檻を壊そうとしている。もうしばらく猶予がある。


 「メアリー、奴を倒せ。俺はあの魔物を呼び出したバカをとっ捕まえる」

 「……え?い、いや、無理無理!私にはそんな……」

 「いいや大丈夫、お前なら奴を殺せる。あんなのただの植物だ、絶対大丈夫。信じてる」


 メアリーの肩を掴みまっすぐその目を見つめた。


 「わ、私には……」


 メアリーはそこで言葉を止め、かぶりを振った。

 自分の頬を強く叩き、こちらを見返す。その目は強く輝いていた。


 「分かったわ」

 「ああ、頼んだ」


 俺はメアリーを離し、市場の外、ペットショップの店員が居る場所へ向かった。


***


 翔び去るライルを見送って、メアリー・ヒィは腰から片手杖を抜いた。

 メインの長杖は持ってきていない。メアリーは体内魔力の関係上、一度杖を介さなければ炎以外の魔術は扱えなかった。


 杖は片手杖と中指に嵌めた指輪型の二つのみ。

 マーダープラントは檻を破壊し終え、我が子を大事そうに抱えている。

 あんなものライル・ベアフットであれば容易に倒せる。

 だが……。


 (ライルに頼ってばかりじゃ、いられないもの……)


 メアリーは魔力を込め杖を向けた。マーダープラントは、そこでようやくこちらを認識したのか。子供を地面に降ろし、顔と思しき箇所をこちらに向ける。


 メアリーは巨大な氷の槍を放った。

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