表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番外小話置き場  作者: わやこな
ミヤスコラ学園の話
29/43

小さな企みとお節介


『ナーナティカのかんしょう』本編後の一幕。

ジエマのお願い聞くマシーンテトス。



 うららかな日差し。

 ほがらかな気候は、暖期を象徴する穏やかさを感じる。

 風になびく若々しい草葉に、ほころぶ色鮮やかな花々。鳥も虫もにぎにぎしくその訪れを喜んでいるようだ。


(……いや、目の前の存在を祝福しているんだな)


 ふ、と表情が緩む。

 どうにもいけない。テトスは自分が出来る限りの愛想を総動員して、微笑んだ。


「それで、俺に話とは」


 声もひと際よく聞こえるようにする。対面する彼女にはそれをするだけの価値と敬意と愛情があった。

 テトスの問いかけに、向かい側のベンチにちょこんと腰かけたジエマは顔を上げた。


(相変わらずの麗しさだ)


 場違いな感想を抱いてじっと見つめる。

 先ほど見た花の色のように柔らかな赤の瞳。長いまつ毛が宝石を守るみたく囲み、緩やかに上下する。

 自分の身近にいた女性、双子のナーナとは比べ物にならないほど魅力的だった。

 万物の恵みを司る人智を超えた存在だと言われても、テトスはそうかもしれないと納得しただろう。昼下がりの東屋にたたずむジエマは、一等美しかった。

 やがてジエマは閉じていた口を、意を決したように開いた。


「あの、まずははしたなくお呼びしたことをお詫びいたします。ですが、どうしてもお伝えしたくって」

「なんでも仰ってください」


 恋に浮かれたテトスは即座に返した。ジエマは目を丸くしたが、それでもわずかなりとも安心したらしい。肩肘はっていた態度は和らぎ、ゆっくりと両手を組んだ。


「チャジア様、ありがとう存じます」


 ふわりとほころんだ笑みに目を奪われる。テトスにはジエマが輝いて見えた。彼女の護衛らしき人物が端にいたが、そんなことはどうだっていい。視界に入れなければ二人きりである。


「あの、弟の……ヨランのことなのです」

「ヨランが、なにか」

「チャジア様は、ご存知かもしれません。ヨランは、ナーナティカさんのことが好きだと」


 言葉が右耳から左耳に通り抜けた。

 テトスは聞き間違いかと思って、にこやかな表情のままで「うん?」と返した。

 ジエマはその返しに、ぱあっと目が輝いた。


「まあ! チャジア様もご存知でしたのね。もしかして、ヨランが貴方様にもご相談を? チャジア様は頼りになる御方だと話していたから、そうですのね?」

「そんなところです」


(ジエマさんが、俺を頼りになると!)


 すっかり疑問は吹き飛び、テトスはしたり顔でうなずいた。


「こんなこと、きっとぶしつけないらぬ世話だと……私も承知をしておりますわ。でも、私、ナーナティカさんが好きですもの。大事なお友だちだもの。そんなナーナティカさんとご縁があるなんて、私、嬉しくって」


 きらきらとした希望に満ちた顔がまぶしい。

 テトスはただただうなずくだけの自動魔道具のようになった。


「チャジア様は、ナーナティカさんとご家族だとヨランから聞いていますわ」

「はい」

「ですから、弟のことを見守る協力をいただきたいのです」

「はい」

「ナーナティカさんのお気持ちもありますもの。無理強いはいたしません。チャジア様にはヨランと同じ殿方として、少しだけでもお力添えをしてはいただけませんか?」


 胸元で両手を組んで、テトスを伺うジエマの瞳に、もはや否定は出てこない。


「はい、喜んで!」


 反射で応えて、胸をこぶしで軽くたたいてテトスは請け負った。









「……ということがあったんだが、どうしたらいい」


 つらつらとテトスは話し終えると、しらっとした顔でこちらを見てくる二人組を見返した。

 図書館の馴染みの学習小部屋。

 貸切った部屋の中で、定位置に座った男女はまったく同じ感情をもった顔をしている。


「どうするもなにも、まず本人に言うのはどうなの」


 真っ先に呆れた声を出したのは女のほう。双子の妹、ナーナことナーナティカだ。

 ナーナはテトスと同じ青い瞳を細めて口を曲げた。


(同じ女性とは思えない存在だな。いや、ジエマさんが特別だからか)


 そんなテトスの考えを見通したのか、さらにナーナの眉間に皺が寄る。


「そんなこと言われても困るわ。ヨランもでしょう」

「ああ……いえ。えっと、はい」


 ナーナに振られて、ヨランは煮え切れない言葉を発した。

 姉のジエマの面影を感じさせる赤い瞳を伏せて、深い溜息が飛び出す。


「なんか、そういう風に思ってそうだなとは、寒期休みから察していました。でも、まさか」

「ジエマって、結構思い込みが激しいタイプなのかしら」

「あまり人と交流しないので、我が姉ながら夢見がちだとは思います」


 ナーナの言葉に、ヨランが同意する。テトスはそれを見て、頬杖をついた。


(察しの悪いナーナはともかく。ヨランもわかっているんだかどうだか)


 寮を越えて交友がある異性。それもよく一緒に行動している。

 テトスがナーナと親類であるのは、知る人は知っている情報だ。テトスの友人やナーナの友人から話にものぼっているはずだし、別段秘密にもしていない。

 それに、これでナーナはそこそこに人気がある。テトスにわざわざ「ブラベリと付き合っているのか」と聞いてくる奴もいる。一切を否定してきたので、おそらく勘違いする奴はそういないはずだ。


 では、ヨランはどうなのか。


(人の恋はわからんな……ナーナに対して、それなりではあると思うが)


 ジエマの頼みでなければ、テトスはこうして人の恋路に頭をつっこむなんてごめんだ。

 まどろっこしくて、面倒くさい。

 しかし一挙両得の機会であった。

 仮に、ヨランがナーナとくっついてしまえば、それを機会にジエマとお近づきになれるのは間違いない。

 ジエマも喜ぶ。テトスも喜ぶ。ついでにナーナとヨランも喜ばしいことになる、かもしれない。いいことづくめではないか。

 うん、とうなずいてテトスは口を開く。


「ともかく。ジエマさんに協力すると言った手前、成果がほしいんだが」

「ティトテゥス、あなたね。それは勝手すぎるんじゃないかしら」

「いや、一番手っ取り早いだろ」


 それにテトスは無策で話を振ったわけではない。睨むナーナを見返して、頬杖をやめて人差し指を立ててふる。


「期末の学園祝賀会。パーティー。相手は?」


 ナーナは黙り込んだ。ヨランも考えるように視線が動いて止まった。

 中立特区のこの学園、ミヤスコラでは、創立記念を祝う会が毎年行われる。

 内容は学習成果の発表や、寮の友好をはかるという名目で学園全体のパーティーがある。食堂には素晴らしい料理が並び、浮かれた生徒たちであふれかえる……とは次期寮監督生となるヴァーダルの言だ。

 そこで重要なのは、儀礼としてダンスをペアで踊る時間があるということだ。テトスのいた辺境でもそうだったが、古くからの慣習はここ中立特区でも同じらしい。


(つまり否応なく男女ペアが必要)


 自寮であるカラルミスでも、一緒に過ごそうと告白して新たな恋人たちが成立し始め、すでに出来上がった恋人たちは盛り上がりに盛り上がっている。それはナーナのヒッキエンティア寮や、ヨランのコウサミュステ寮も同じだろう。

 テトスはちゃっかりジエマと過ごすつもりなので、あえてフリーを貫いている。あとでナーナたちを見守るために過ごさないかと聞いてみるつもりなのだ。


(なので、お前たちがそうしてくれないと俺が困る。ナーナ、お前に男の影がないことはわかりきっている。合理的判断でヨランを選ぶはずだ)


 にやにや笑うと反応がうるさいので、じっと返事を待つ。

 ナーナは口元に軽く握った片手をあて、そろりとヨランを見た。ヨランも黙っていたが、薄々理解したのかナーナを見てぱっと耳が赤くなった。


「ヨラン、相手はいる?」

「……いいえ」

「よし。決まりだな」


 テトスが答えを急ぐと、ナーナは眉をひそめてヨランに言った。


「なんだか、無理強いをしたみたいでごめんなさいね。あとでこの馬鹿は締めておくから。ヨラン、本当に嫌だったら言ってちょうだい」

「えっ、いえ。そんなことはちっとも。こちらこそ助かります」


 ヨランが首を振る。


「僕らの学年は初めての会ですし、ナーナティカなら安心できますから」

「あら、そう? 私もヨランなら嬉しいわ。モナにもどやされていたの。早く相手を見つけなさいって」


 小さくナーナが笑う。途端、ヨランはまごまごしてうなずいた。


(……もうこれ達成でよくないか?)


 テトスは眺めながらぼんやりと思う。


「そうとなると儀礼のダンスねえ。補助の魔法とかかけてもいいのかしら」

「出来る限りのフォローはします。辺境とは違う作法があるかもしれませんが、どうしますか? 練習するなら付き合いますよ」

「それもそうね。都じゃ当たり前だって講義もないし。モナたちに聞くのも大事だけど、実際にやってみる練習もいるわよね。ありがとう、ヨラン」


 真面目に段取りを組み立てはじめた二人を眺める。テトスは腕を組んだ。


(これでよくないか?)


 自身の卓越した身体能力をもって、テトスは音もなく椅子から立ち上がり部屋を出る。一瞬、ヨランと目があったが励ましのサインを送って部屋を出た。

 ヨランには半眼で見られたが、そんな目で見られる筋合いはないはずである。よって、気のせいとテトスは思った。


 そして足取り軽く、自寮に帰った。

 同室者の不審な視線を無視して、自分の机から美しい便せんを取り出す。丁寧に伺いの文章を書き上げて、テトスは胸を張って渡りをつけに行くのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ