立場をわきまえなさい
「ロベール伯爵家のジュリア・ロベールでございます。このような姿で失礼いたします。」
ライラと同じ侍女の服に身を包んだまま、挨拶をする。
「なんだ、何を言い出すかと思えば、ただの侍女じゃないか。そんなミエミエの替え玉で騙されるとでも思ったのか?」
鼻で笑いながらそう言ったのはバロワン侯爵だった。今回は服装のせいもあるのだろうが、私はつくづく令嬢らしさが足りないらしい。偽物呼ばわりにも慣れてきてしまった。騎士団長以外の騎士の方々も驚いているようだが、伝えていなかったのだろうか。
「重ね重ね失礼な方ですね。彼女は間違いなくジュリア・ロベール伯爵令嬢であり、私の大切な婚約者ですよ。」
“大切な婚約者”か。婚約者に危害を加えられそうになって怒っている、というアピールのためには、そういう振る舞いも重要だろう。ポーズだと分かっていても、なんだかんだで嬉しいものである。
「ええ。私もロベール伯爵家当主として、そして父親として、その令嬢が我が娘であると保証しますよ。」
お父様の言葉の意味を理解すると同時に、バロワン侯爵の顔が怒りで紅潮していく。
「なっ…我々を騙したのか!?」
「騙すなどと人聞きの悪い。彼女を傷つけようとした連中と対峙するのですから、自衛のために変装するくらいは当然でしょう?まさか、服装を変えた程度で気づきもしないとは思いませんでしたがね。」
レイモンド様の仰ることもごもっともである。
「それで、何でしたかな?確か、娘から文句があるべきだとか何とか?」
お父様の言葉に頷き、侯爵一家の方へ向き直る。
「あなた方は、自分たちが何をしたか本当に理解していらっしゃるのですか?とてもではありませんが、反省の意思など欠片ほども感じられませんでしたわ。そんなあなた方を許せるほど、私は寛大ではございませんの。」
一息にそう告げると、最初に侯爵夫人が噛みついてきた。
「私たちは罪を認めると告白いたしました。それに、謝罪もいたしました。これ以上何を求めると言うのですか?」
「謝罪とは仰いますが、侯爵夫人?先ほどのあれが誠意ある態度だとは到底思えませんわ。“キズモノ”だの“嫁に貰ってやる”だのと…本当に心から反省していると言えて?逆の立場だったのなら、あなたはあれで許せるとでも?」
「まあ、伯爵令嬢ごときが侯爵夫人を相手に何という口のきき方でしょう。立場をわきまえなさい。」
立場をって…どの口が言うのか。
「立場をわきまえるのはそちらの方ではないですかな?先ほどから黙って聞いていれば、被害者である娘に謝罪する者の態度とは思えませんが。」
「被害者だと?実害はなかったのだから問題ないではないか!」
「そうまでして僕らを貶めたいのか!?」
「もとはと言えば全部あの女のせいじゃない!」
私とお父様に対して猛反論するバロワン侯爵家の一同。
「バロワン侯爵、実害がなかったからといって、あなた方の“犯罪を依頼した罪”が消えるわけではありませんわ。マティアス様、何か思い違いをしていらっしゃるようですが、バロワン侯爵家の名を貶めているのは、他ならぬあなた方ご自身ですわ。ナターシャ様、仰っている意味がよくわかりませんわ。私が一体何をしたというのですか?」
「何をした、ですって?よくもぬけぬけと…」
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