責任を取る?
「それは…どういうことですの?」
「まさか、キズモノとなったロベール伯爵令嬢を受け入れ、妻に迎えると仰るおつもりですの?お可哀そうな婚約者を見捨てられないだなんて、ヴィレット公爵は冷たい方だと聞いていましたけれど、やっぱり心根はお優しい方だったのですね。」
訝しげに尋ねる侯爵夫人と、どこかズレているナターシャ嬢。
「なるほど。このような状況下で婚約破棄などされては、ロベール伯爵令嬢が今後結婚するのは非常に難しくなるでしょうな。とはいえ、今回の件がどこかから漏れれば、ロベール伯爵家もヴィレット公爵家も家名に傷がつきましょう。」
何が“なるほど”なのか。勝手に納得して勝手に話を進めるバロワン侯爵。
「おお、良いことを思いつきましたぞ。婚約者殿の今後を案じていらっしゃるのでしたら、我が家が責任を取りましょう。幸いにも我が息子はまだ独身で、決まった婚約者もない。どうだ、マティアス?」
え?
「う、うん。傷ついたロベール伯爵令嬢に対するせめてもの罪滅ぼしだ。嫁の貰い手がないというのなら、僕が貰ってやってもいい。」
あまりの不快さに、ぞわっと肌が粟立つのを感じた。何を言っているのだ、この人たちは。
責任を取る?貰ってやる?本当に加害者の自覚があるのだろうか。
「もう一度言いますが、気遣いは無用です。」
レイモンド様は努めて冷静に振舞っておいでだが、先ほどよりも更に冷え切った声になっている。真夜中なのも相まって、そろそろ部屋の窓が凍り付いてしまうのではないだろうか。
「それはどういうことですの?まさかもう婚約を解消して…?」
ナターシャ嬢の戸惑った声に、期待めいた響きが混ざる。いやいや、仮にもしそうだとしても、この状況で貴女にチャンスはないと思うのだけれど。どれだけポジティブ思考なのだろう。
「そんな訳がないでしょう。」
表情一つ変えずにバッサリと言い捨てるレイモンド様。
「そもそも、彼女はあなた方の言う“キズモノ”になどなっていません。ロベール伯爵家の優秀な護衛が賊を撃退したため、怪我ひとつ負ってはいないのですよ。従って、我々がそちらの言い分を呑む理由はない…ご理解いただけましたか?」
しばらくの間、バロワン侯爵家の一同が固まる。依頼が失敗したとはいえ、まさか私が何の被害も受けていないとは思いもしなかったのだろう。
たっぷり数十秒待ったのち、ゆっくりと口を開いたのは侯爵夫人だった。
「嘘、でございましょう?」
「おや、なぜそう思われるのですか?」
「ロベール伯爵令嬢がご無事だというなら、なぜこの場にご本人がいらっしゃらないのでしょう。」
「お母様の仰る通りですわ。ご本人がご無事なら、この場で文句のひとつでもあるのではないですか?」
そうきたか。では、期待に応えるべきだろうか?そう思い前に立つレイモンド様とお兄様に合図を送ると、二人とも了承してくれた。
深呼吸をして、レイモンド様の隣を抜け、前に歩み出る。
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