見返り?
「皆様、今回の件ですが…こちらの罪を認めます。」
突然の発言に驚いたのは私だけではないだろう。特に侯爵家の面々は呆けた顔をしているので、この発言は完全に夫人の独断によるものだとわかる。
「お前、何を…」
「あなたは黙っていて下さいと申し上げたはずですわ。」
バロワン侯爵が何か言おうとしたが、夫人にピシャリと一蹴されてしまった。
「ええ。確かに私達バロワン侯爵家が、ならず者の男達に依頼し、ロベール伯爵令嬢の乗る馬車を襲わせました。男達に、令嬢に乱暴するよう唆したことも認めますわ。謝って済むようなことではないのでしょうが…お詫び申し上げます。」
「どういうおつもりですかな?」
お父様が冷めた目で夫人を見据えながら問いかける。
「私たちの罪を全面的に認めますわ。しかし、このことが公になってはあなた方も困るでしょう?」
困る?ああ、そうか。彼らは私が無事であることを知らないのだ。お父様は“娘が賊の襲撃を受けた”としか言わなかったから。
「困る…とは?」
ピクリと片眉を上げ、再びお父様が尋ねる。
「嫁入り前のご令嬢が男達に乱暴された、などという醜聞が公になっては、ロベール伯爵家はもちろん、婚約者であるヴィレット公爵の名にも傷がつくでしょう?」
そうするよう指示したのはあなた方なのだが、どの口がそれを言うのだろうか。そもそもそれが狙いだったのでしょうに。
「ですので、この件はここにいる者の胸に留めることに致しませんか?もちろん、私達もこのことを口外しないと誓いますわ。」
「なるほど。それであなたは、その見返りに何を望むのですかな?」
お父様の問いに、夫人の口元が弧を描く。
「まあ、見返りだなんて。そのようなこと、考えもしませんでしたわ。ただ…そうですわね。私達一家に重罪を課せば、一体何の罪かと問われ、ご令嬢の醜聞が漏れ出てしまわないとも限りません。かといって、償いもなく許される訳には参りませんわ。ですので、私達への罰を軽微なものに…というのはいかがでしょう?」
なるほど、それが狙いか。随分と直球な交渉だが、交渉ごとに長けたお父様にそれが通じるだろうか。
侯爵夫人とお父様とのやりとりを、侯爵一家は固唾を呑んで見守っている。と思ったのだが…
「お、お母様の仰る通りですわ。ロベール伯爵令嬢は、顔も見せられないほど傷ついていらっしゃるのでしょう?それなら、彼女のためにもこの件を公にすべきではありませんわ。」
短い沈黙が流れる。それを破ったのはお父様ではなく、レイモンド様だった。
「あなた方の仰りたいことはよくわかりました。ですが、そのような気遣いは無用です。」
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