見られていた
「レ、レイモンド…様……」
なぜここにレイモンド様が?さっきライラに身だしなみを整えて貰っておいてよかった。
いや、それよりも――
つい先程までの自分の振る舞いを思い出して絶句する。とてもお淑やかな令嬢らしいとは言えない戦いぶり。もちろん、日頃の訓練で得たこの体術は恥ずべきものではないし、そのおかげで今こうして無事でいられるのは事実だ。
しかし、それを上司であり婚約者でもあるレイモンド様に目撃されたとなると、話は違う。あんなはしたない振る舞いを見られてしまったとなると、最悪の場合「こんなじゃじゃ馬などお断りだ」と婚約破棄になりかねない。
ど、どうしよう、どこから見られていたのだろう。
「リア、お怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫ですわ。」
「そうですか。貴女の馬車を追う不審者の報告を受けて駆け付けたのですが、ご無事で何よりです。心配しましたよ、リア。」
不審者の報告?誰からだろう?
「ご心配をおかけしました。あの…」
「どうしました?」
聞けない。どこから見ていたのですか、だなんて怖くてとても聞けない。
「あ、その、襲ってきた彼らを警備の騎士に引き渡さなくてはならないのですが…」
「ああ、それでしたらご心配なく。騎士団に連絡を頼みましたから、もうそろそろ到着するでしょう。」
「そうでしたの。ありがとうございます。」
「いえ。遅くなって申し訳ありませんでした。貴女や使用人のお2人がお強くて本当に良かった。」
え。
今、何て?
私が、強い?
ということは…見られていた?どこから?
「私が到着した時には、リアが男を1対1で圧倒しているところでした。見張りの者からその前に2人も倒していたと聞いた時には、驚きましたよ。」
うわぁ。一番見られたくない所が見られていた。石を投げたり、ナイフを突きつけたり、足技を使ったり…ああもう私ったら何てことを!
レイモンド様の反応を見る限り、じゃじゃ馬だと軽蔑したり乱暴者だと怖がっていたりする様子は見られないが…もともと無表情な彼のことなので、そういった感情もポーカーフェイスで隠してしまわれているのかもしれない。
「失礼いたします、お嬢様。ヴィレット公爵。騎士団の方々が到着なさいました。私から状況をお伝えいたしましょうか?」
ベンが話に入ってきてくれてほっとした。これ以上この話題が続くのはいたたまれない。
「ええ、お願いします。私も同席しましょう。リアは侍女と一緒に馬車の中で待っていてくれますか?できるだけ手短に済ませますので。」
「承知いたしました。言い忘れていたのですけれど、彼らには依頼主がいるようですわ。彼らの意識が戻ったら確認をお願いいたします。」
「そうでしたか。貴重な情報をありがとうございます、リア。では、彼女を頼みます。」
「畏まりました。」
返事をしたのはいつの間にか隣に立っていたライラだった。なんだかどっと疲れてしまった気がする。レイモンド様のお言葉に甘えて、少し馬車で休ませてもらおう。
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