買い被りすぎです
手紙を読み終えて顔を上げると、丁度レイモンド様と目が合った。まさか手紙を読む間、ずっとこちらを見ていたのだろうか。だとすると何だか恥ずかしい。誤魔化すように視線を逸らし、小包を手に取る。
「いただいたお茶は、明日の休憩の時にお淹れしますね。イチゴはどういたしましょう?」
「差し支えなければ、ジュリアが持ち帰ってください。」
「よろしいのですか?」
「ええ。どうぞ召し上がってください。」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ。」
せっかくなので、イチゴを使ったお菓子を作ってお茶菓子として持って来よう。日持ちを考えると焼き菓子にするか、いっそジャムにしてもいいかもしれない。
「ところで、手紙を読んでわかったでしょう?ジュリアはトルマ王国に、二つの流行を生み出したのですよ。」
二つの流行というと、お揃いのドレスとイチゴのお菓子のことだろうか。しかし、私がそれらの流行を生み出したというのはちょっと無理がある。
「それは違いますわ。お揃いのドレスを流行させたのはラインハルト公爵夫人とご息女です。よほどお気に召したようですから、公爵のお見立てが良かったのでしょう。」
そう、私は“お揃いのプレゼント”を提案しただけで、実際にそれを流行させたのはラインハルト公爵家の方々だ。
「マカロンとタルトのレシピを考案したのはロベール伯爵家のシェフです。そして、実際にそれらを作ってトルマ王国に広めたのは、ラインハルト公爵とトルマ王国の菓子職人の方ですわ。」
「そのお菓子をお茶会で披露したのは他でもない、ジュリアだったはずです。」
なぜこんなにもムキになるのだろう。相変わらずレイモンド様は淡々と仰るから、真意が読めなくて困ってしまう。
「ええ、“内輪のお茶会”にお茶菓子としてお出ししただけですわ。そのお菓子に注目してトルマ王国で流行させたのは、私ではなくラインハルト公爵でしょう?公爵が何もしなければ、イチゴのタルトもマカロンもあのお茶会の席で供されるだけで、日の目を見ることはなかったはずですもの。」
「本当に、自分の手柄だとかそういったことには興味のない方なのですね。その無欲さこそが、貴女らしさとも言えるのでしょうが。」
そんな崇高な精神などではなく、単に事実を述べただけである。私の言葉や行動はあくまでもキッカケにすぎず、それらを大成させたのはラインハルト公爵の尽力の賜物なのだから。
前々から思っていたのだが、レイモンド様は私のことを過大評価しすぎではないだろうか。褒めていただけるのは嬉しいし、誇らしい気持ちは多少なりともある。あるにはあるのだが、あまりに買い被りがすぎると、反応に困ってしまう。
一旦話題を逸らそう。
「ところで、バロワン侯爵とご子息のご様子はいかがですの?」
「当初は職務を放棄したり厩舎で働く方々と衝突したりと問題もあったようです。が、今では文句を言いながらも、少しずつ馬の世話をしているようです。あの様子では、文官への復帰は程遠そうですね。」
「そうですの。今の不遇を嘆いていらっしゃるのでしたら、レイモンド様やダントン侯爵を恨んでおいでかも知れませんわ。念のため、身辺にはお気をつけくださいな。」
「お気遣いありがとうございます。貴女も身辺には注意を払っていて下さい。」
―――――この数日後、不安は的中した。
いつものように私はロベール伯爵家の馬車に乗り、帰途についていた。
突然馬がいなないて馬車が止まり、何やら怒号が聞こえてくる。
何事かと外を覗こうとすると、同乗していた侍女のライラに止められる。その直後、御者のベンの声が響いた。
「出てはなりません!賊に囲まれています!」
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