試験?
「本来は紹介・推薦した者が、推薦された者の能力や身柄を保証するはずなのです。それが形骸化してしまった結果が、マティアス・バロワン殿の無能ぶりと素行の悪さです。」
もう“無能”という言葉には突っ込むまい。なるほど。本来の目的である能力や人柄で判断するのではなく、単なる身内贔屓で推薦されて文官になったのが彼で、その末路が厩舎行きというわけか。
文官として王宮で働かなくとも、貴族ならば領地の運営に専念するという道もあっただろうに、何がしたかったのだろう。っと…そうではなくて、推薦制度の見直しという話だった。
「それでしたら、紹介状や推薦の有無に関わらず、一定水準の試験を設けてはいかがでしょう?」
「試験?それって語学や計算の習熟度を測る、あれかい?」
殿下が嫌そうな顔で尋ねてくる。王族ともなると、求められる教養は貴族のそれよりもレベルが高いはず。だとすると、よほど厳しい先生だったのだろうか、それとも単に勉強量が多くて大変だったのだろうか。
「それでしたら、主に平民出身の志願者には実施していますよ。最低限の読み書き計算ができるか、程度ですが。後は貴族出身の者も含めて全員に、個別に面談を行って適性や性格を判断しています。」
「僭越ながら、それでは不十分かと思われます。」
私の言葉に、じっとこちらを見つめ返すレイモンド様と殿下。そんなに真剣に聞かれると緊張するのだが、言い出した以上は最後まで話さなくては。
「騎士に騎士道という精神があるように、文官には文官としての理念や心構えがあるはずです。例えばですけれど…予算が足りないからといって安易に税を増やすのは、民のための文官としてあるべき姿ではありません。そうした課題…実際に文官が直面した課題だとなお良いのですけれど、課題をいくつか出題してみるのです。その答えから、試験を受けた方が文官に向いているかどうかを判断してはいかがでしょうか。」
言った。言ってしまった。
「「………」」
うぅ、沈黙が痛い。お二人とも、私の意見について真剣に考えているが故の沈黙なのだろうけれど。所詮は司書上がりの小娘の戯言と思われているのではないだろうか。私だってそう思う。どうしよう、不安で息ができなくなってきた。
と、そのとき。先に口を開いたのは殿下だった。
「いいね、それ。」
え?
「ええ、なかなか面白い案です。」
ええ?
「実際に文官がどのような仕事をしているのか、知らずに志願してくる者も意外と多いのですよ。試験で出題すれば志願者は職務の内容に触れられますし、こちらはそれに取り組む姿勢や考え方を見極められる…ふむ、悪くないですね。早速草案を作成したいのですが、ジュリアの話をもっと詳しく聞かせていただけますか?」
「それ、是非混ぜてほしいな。その草案、僕も連名にして提出しよう。」
な、何だか話が大ごとになってきた。ほんのちょっとした提案のつもりだったのに…
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