朝議の後
「―――という訳で、彼らの処遇は朝議の席にて、満場一致で決定しました。しかし、当のバロワン侯爵が承服せず、あのような騒ぎになってしまったのですよ。」
「全くレイモンドときたら、そんな面白いことを企んでいたのなら、僕にも教えてくれればよかったのに。」
お茶のカップを片手に、悪戯っぽく笑いながらそんなことを仰る王太子殿下。そんな殿下の様子に呆れたようにため息をつきながら、レイモンド様が続きを話す。
「それでは殿下が公正な判断を下せないでしょう。ダントン侯爵からの正式な苦情を、正規の手順で処理する必要があったのですよ。そうでないと、私刑だなんだと言われかねませんからね。ですから、ロベール伯爵にも黙って見ていていただいたのですよ。」
「ふぅん…ま、そういうことなら仕方ないかな。」
言葉の割には、殿下はまだ納得していらっしゃらないご様子だ。
「それにしても、厩舎で馬の世話とは、随分と愉快な人事だね。あの親子は確か、どちらも文官だったはずだろう?」
愉快な人事、だなんて。当人たちにとっては大事件だろうに、まさに人事はヒトゴトである。
「ええ。マティアス殿に関しては、いい加減受け入れられる部門がないとのことでしたし、丁度いいと思いましてね。あの二人が抜けた程度で、業務が滞るようなこともないでしょう。」
「そうだね。無能で高慢ちきと悪名高い者たちが抜けるんだから、むしろ業務が捗るんじゃないかな。」
「そんなに問題のある方々でしたの?」
「ああ、ジュリア嬢はこの間まで図書館に篭っていたから知らないのかな。仕事の出来なさと態度の悪さは、文官の間では有名だったんだよ、彼ら。」
先ほどのむくれ顔が打って変わって、嬉々として話しだす王太子殿下。人の不幸は蜜の味とは言うけれど…もう少し隠すべきではないだろうか。
「バロワン侯爵は高慢というか傲慢というか、どうも自分が“名門貴族”であることを鼻にかけている様子でね。仕事上では自分よりも地位の高い相手――部門長や長官たち――に対しても、自分より爵位が低い相手には随分と居丈高な態度だったと聞いているよ。」
「外務長官であるロベール伯爵に対しても、高慢な態度でしたね。伯爵は歯牙にもかけていない様子でしたので、見ていて滑稽でしたが。」
お父様ならやりそうだ。相手を小物と判断したなら、何を言われてもどこ吹く風。むしろ何を言っても平気な顔をしているので、相手の方がムキになる。その様子が面白いのだと笑っていたっけ。
「マティアス殿は問題を起こしては部門を転々としていてね。レイモンドが言った通り、いよいよ引き取り先が無くなってきていたくらいさ。全く、どうしてあんなのが文官になれたのか、本当に不思議だよ。」
お兄様が言っていた通りだ。そんなに有名だったとは…ジェラルド様の情報網には引っかからなかったのだろうか。
「一応は名門侯爵家ですからね。確か父君のバロワン侯爵の推薦だったはずですが…今後は採用の推薦制度を見直す必要があるかもしれませんね。」
「見直す…と仰いますと?」
「紹介や推薦による採用というのは、もともとは埋もれている優秀な人材を発掘するための手段でした。“この人の能力や人柄は私が保証する、だからぜひ雇ってやってほしい”という風に。」
「ジュリア嬢が図書館司書から王太子補佐付になったのも、レイモンドとクラウス殿の推薦みたいなものだからね。」
「殿下。」
「おっと、怖い怖い。悪かったからそんなに睨まないでくれよ。」
茶々を入れる殿下をレイモンド様がたしなめる。殿下も慣れたもので、肩を竦めて軽口を返し、お茶を口へ運ぶ。
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