お初にお目にかかります
「ライラ、おかしなところはないかしら?」
「とてもよくお似合いですよ、ジュリアお嬢様。」
今日は土曜日、ヴィレット公爵家で食事会の日である。
鏡の前でくるりと回って服装を確かめる。ラベンダー色のシンプルなドレスと、ライラの施してくれたメイクのおかげで、ちゃんと上品で清楚なご令嬢に見える。
「ふふ、ライラのおかげで今日もバッチリね。まるで私じゃないみたいだもの。」
「そのお美しさも謙虚さも、全てがお嬢様の魅力ですけれど…お嬢様はもう少し、自分の魅力を自覚なさった方がいいですよ?」
「ありがとう、ライラ。そうね、せっかくライラが磨き上げてくれたんだもの、もっと自信を持たなくてはいけないわね。」
(お嬢様ったら、やっぱりわかっていらっしゃらない…)
◇
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
「こちらこそ、急な招待を受けていただいてありがとうございます……リア。」
驚きすぎて、一瞬思考が止まってしまった。
ヴィレット公爵家の玄関ホールで私を出迎えて下さったレイモンド様の、先ほどの言葉に。やはりというか、先日の彼の言葉に何か含みを感じたのは間違いではなかったようだ。
確かに彼は“王宮内ではジュリアと呼ぶ”と言った。それは裏を返せば“王宮の外での呼び方は自由にさせてもらう”ということだったのだろう。まさか愛称は照れくさい、慣れていないというだけの理由では、やめてはもらえないだろう。
「リア、どうかなさいましたか?」
また呼んだ。
「あの、レイモンド様、その呼び方は…」
「何か問題でも?ここは王宮の外ですし、ここにはヴィレット公爵家の関係者しかいませんよ。」
やはりやめてもらうのは無理そうだ。
「い、いえ。ただ、その呼び方をされるのはレイモンド様だけですので、慣れないだけですわ。」
そう告げると、少し考えるように間をおいて、レイモンド様が口を開いた。
「そうでしたか。それでは…慣れていただくためにも、沢山呼ぶとしましょう。」
そうきたか。こんなところでも合理的というか何というか、レイモンド様らしいことだ。
案内された先には、ご夫婦とご令嬢がいらっしゃった。え、まさかあのご夫婦が先代公爵夫妻ですか?レイモンド様の兄夫婦と言われた方がしっくりくるくらい、お若くていらっしゃるのですが。
「初めまして。私はレイモンドの父のオーギュスト・ヴィレット、こちらが妻のアンリエール。それから、娘のロザリーです。」
オーギュスト様――レイモンド様のお父様で、先代の公爵様――は茶髪で、レイモンド様とよく似た色の瞳をしている。スラリとした長身とアイスブルーの瞳は、お父様譲りのようだ。
その奥方のアンリエール様は、蜂蜜色の瞳が印象的な美しい女性だ。ゆるく編み込んだ黒髪は艶やかで、まるで年齢を感じさせない。
ロザリー様――レイモンド様の妹君で、現在15歳らしい――は、波打つ茶髪に、パッチリとした蜂蜜色の瞳をした美少女である。見比べてみると、アンリエール様の瞳の方がより深い、琥珀のような色をしているようだ。
緊張しながらも、体に染みついた淑女の礼をする。
「お初にお目にかかります、ロベール伯爵家のジュリア・ロベールと申します。お会いできて光栄ですわ。」
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