覚悟
「ジュリア・ロベール伯爵令嬢、我が息子レイモンドの婚約者殿…ですね。」
「はい。」
オーギュスト様――先代公爵様が、レイモンド様と同じアイスブルーの瞳でこちらをじっと見つめてくる。
「レイモンドには以前から多くの縁談が寄せられていたのですが…それはご存じですか?」
「ええ、存じております。」
「そうですか。そんな中から選ばれたのが貴女である、と…なるほど。」
どういう意味だろうか。もしかして、この婚約に異議がおあり…とか?
「ジュリア・ロベール伯爵令嬢。貴女には、覚悟はおありかしら?このヴィレット公爵家を背負って立つレイモンドを妻として陰から支え、苦難や困難を超えていく手助けをする覚悟が。」
そう尋ねてきたのはアンリエール様だ。愛らしい容姿だが、その琥珀のような瞳には強い意志が宿っているのがわかる。私がレイモンド様の婚約者として相応しいか見定めようとしていらっしゃるのだろうか。
「いいえ――僭越ながら、私はレイモンド様の陰や後ろではなく、隣に並び立てる妻でありたいのです。」
ここは本来“はい”と答えるべきなのだろう。しかし、私はそうしなかった。アンリエール様は表情を変えないまま、私の言葉に耳を傾けている。
「私の両親のように、互いに認め合い、尊敬し合える対等な関係が私の理想の夫婦です。ですので、私はレイモンド様と共に支え合ってこの公爵家を背負って立つと、そのような覚悟をしております。」
言った。言ってしまった。婚約者の母君にして先代公爵夫人、それも初対面の方に対して、言い返すだなんて無礼もいいところだ。
しかし、ここで自分を曲げたり偽ったりする方が不誠実だろう。自分を偽らない――それが私なりの最大限の誠意だ。
アンリエール様から目を逸らせないまま緊張して固まっていると、ふっと彼女の表情が和らいだ。
「よくぞ言って下さいましたわね。それでこそ、レイモンドの選んだ女性ですわ。ええ、ええ、これからの女性はそうでなくてはね。とても素敵なお考えだわ。」
どうやら、私はアンリエール様に試されていたらしい。私の出した答えが正解だったのかはわからないが、及第点は貰えたようだ。
「ねえあなた、もう構わないでしょう?これ以上意地悪をして、ジュリアちゃんに嫌われたくありませんわ!」
んん?なんだか雰囲気が…だいぶ変わったような。というか…ジュリア、ちゃん?
「ああ、そうだね。もう構わないよ。」
「やっとお許しが出たわ。まあまあまあ、こんなに緊張してしまって!ごめんなさいね?ロベール伯爵家ということは、アンナ様のご息女ね?エメラルドのような瞳、プラチナブロンドの髪、そしてこのお顔立ち、本当によく似ておいでだわ!」
アンリエール様がもの凄い勢いで眼前まで迫ってきて、早口で捲し立てる。彼女は母と懇意だったのだろうか。
「こらこらアンリエール、ジュリア様が驚いているだろう。少し落ち着きなさい。」
「だって、レイモンドがようやく婚約を決めて、そのお相手に会わせてくれましたのよ?それもアンナ様のご息女!せっかくですもの、沢山お話したいじゃありませんの。」
「それを言うなら私だって、ジュリア様と沢山お話したいですわ。独り占めはよくありませんわよ、お母様。」
んんん?これは一体どういうことだろう?
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