戸惑い
「あの、レイモンド様?これは一体…」
先ほどのピリッとした空気とは打って変わって弛緩した様子に戸惑い、レイモンド様に視線を向ける。
「嫌な思いをさせてしまい申し訳ないですね、リア。心配には及びませんよ。」
表情も声色もいつも通り淡々としているレイモンド様。しかし、私を安心させようと肩をそっと抱き寄せるその手はひどく温かい。
…ん?肩に……手?え、あの、ちょっと近…というか触れて…んん?
ふう、ちょっと落ち着こう。これは、あれですか。ご家族の手前、婚約者の親密度アピール的な。そんなものが必要なのかはわからないけれど、レイモンド様がそう判断したのならお任せしよう。近いのは気になるけれど。
「さて…私も詳しく話を伺いたいところですが、まずは場所を変えましょうか。いつまでも立ち話をしているわけにも参りませんし。」
レイモンド様の言葉に、すかさず執事らしき壮年の男性が声をかける。
「失礼いたします、旦那様。よろしければ、皆様をダイニングへご案内いたしましょう。」
「ではオスカー、よろしく頼みます。リアは、私と一緒に。」
そう言って、私の肩に添えたままの手に少し力を込めて更に引き寄せるレイモンド様。さすがにここで逃げはしないですよ。
とはいえ、やはりこの距離感は慣れない。むしろ、パーティーでエスコートしていただいたときよりも近い。ご家族しかいらっしゃらないのであれば、このような親密度アピールをする必要はないと思うのだが…
ダイニングに到着して席に着くと、食事の前に積もる話――先ほどの件の説明――を終わらせてしまおうということになった。
「それで…先ほどの件ですが、一体どういうことなのですか?」
いつも通り淡々とした様子のレイモンド様の声。
「そうだね。ジュリア・ロベール伯爵令嬢、先ほどは失礼したね。詳しくは私から話そう。」
それに答えるのはオーギュスト様だ。
曰く―――
レイモンド様の妻、ひいてはヴィレット公爵夫人の座を射止めたがっている女性はもちろん、婚姻による公爵家との繋がりや権威を利用しようと考える貴族も少なくはない。
これまでは婚約者の座が不在であったために、貴族同士、令嬢同士が牽制し合っていた。しかしこの度、私がレイモンド様の婚約者に決定した。
それが貴族たちに知れると、思惑の外れた貴族の逆恨みや、婚約者の座を奪われたと感じた令嬢方の嫉妬など、あらゆる“敵意”や“悪意”が私に向く可能性がある。
それらの敵意に立ち向かう強さや貴族としての気高さを私が備えているか、確かめたかった。そのために、あえて硬い態度をとり、探るような質問をした。
―――ということらしい。なるほど、ごもっともである。
相手が本当に悪意や敵意をもつ人であったなら、もっと冷たく、意地悪な対応をしてくるだろう。先ほどのやり取り程度、上手に対処できなくては未来の公爵夫人としてやっていけないと思われるのも頷ける。
「なるほど。お話はわかりました。それで、リアはお二人のお眼鏡に叶ったのですね?」
レイモンド様がズバリ聞いてしまった。それも否定を許さない感じで。
私もそれは気になっていたが、自分で聞く勇気は持てない。嘘をつかないのに精一杯で、強さだの気高さだの、全く意識していなかった。
アンリエール様からは及第点をいただけたようだが、オーギュスト様はどうだろうか。
答えを聞きたいような、聞きたくないような…
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