温室でのお茶会(4)
「ああ、やはりそうでしたか。」
「やはり、と仰いますと?」
「ヴィレット公爵の様子を見ていればわかりますよ、ロベール伯爵令嬢。」
そうなのだろうか?私には全くわからなかった。
「ベルクマン侯爵の行いに対してひどく憤慨した様子や、貴女を褒めた先ほどの言葉。上司が部下を思う様子にしては少々大げさだ…貴女は随分と愛されているようですね。」
最期のひと言を、ニッコリと微笑みながら付け加えたラインハルト公爵。頬に手を当てて俯き、その言葉に照れて恥じ入ったように振舞う。
しかし残念ながら、ヴィレット様が私に向けるのはあくまでも“上司として部下を思う気持ち”でしかない。それを“婚約者らしい態度”と感じさせていたのなら、ヴィレット様の演技力はなかなかのものである。なにせ、ラインハルト公爵ほどの方の目を欺いたのだから。
「ラインハルト公爵の慧眼には感服いたしましたわ。」
「お褒めに預かり光栄です。それにしても、今の今まで隠していらっしゃるとは、ヴィレット公爵もお人が悪いですな。」
ラインハルト公爵の茶化すような言葉に、ヴィレット公爵も肩をすくめながら軽く返す。
「言い出すタイミングがなかっただけですよ。婚約したのもつい最近ですし。」
それはもう、昨日とか一昨日とかいうレベルで最近ですものね。
「それはそれは、おめでとうございます…と申し上げるべきなのでしょうが、このタイミングでの婚約ですか。もしかして、ベルクマン侯爵の件と何か関係があるので?」
ラインハルト公爵、さすがに鋭い。事情を知る人にとっては、このタイミングはやはり訳ありと感じるのだろう。
「お察しの通り、全くの無関係というわけではありませんね。」
おや、てっきり隠し通すかと思ったのだが、随分ハッキリと言うものだ。お互いにメリットがあったので…という辺りまで包み隠さず話してしまうのだろうか?
「以前から、彼女さえよければぜひそういう仲に…とは思っていたのですがね。まさか急に他国から敵が現れるとは思いもよらず。横から攫われる前にと、焦って求婚した次第です。よく考えてみると、これでは私もベルクマン侯爵のことを悪く言えませんね。」
まさかの言葉に、思わず俯いてしまう。今度は演技などではなく、本当に顔に熱が集まるのを感じる。ヴィレット様…貴方のほうは演技とはいえ、少々いきすぎではないでしょうか。嘘とわかっていても、さすがに照れます。
「これはこれは、驚きですな。外交ではいつも冷静であったヴィレット公爵にも、このような一面があろうとは。感化されて、私も妻に会いたくなってしまいましたよ。」
そう言って愉快そうに笑うラインハルト公爵だが、おそらく裏の事情も何となく察している様子だ。とはいえ、それを言葉に出さないということは表面上は納得したことにしておいて下さるのだろう。
「こほん。それで、ベルクマン侯爵へはどのように対処いたしますの?」
「そうですな。お二人の婚約を公にして構わないようであれば、婚約者がいると彼に伝えてほしい。その後はこちらでもフォローしよう。」
「婚約を公にするのは特に問題ありませんね?」
ヴィレット様から伺うような眼差しが向けられる。隠したところで、いずれは明るみになるのだ。であれば、さっさと公表してしまった方が妙な誤解を招かなくてすむだろう。
「ええ、私は構いませんわ。」
「それでは、私から彼に手紙を出しましょう。“これ以上私の婚約者を煩わせないでほしい”とでも書いておきますよ。」
「よろしいんですの?」
「ええ。今更ジュリア様から婚約者の存在を伝えたところで、彼が信じない可能性もありますしね。」
確かに。しかし“相談を受けた婚約者からの抗議”という形であれば、このタイミングでも違和感はないだろう。
「では、そちらはヴィレット公爵にお任せしましょう。ロベール伯爵令嬢は、今後も届いた手紙を保存しつつ、返事はこのまま最小限に留めておいてください。」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします。」
「もしも彼がこれでも引き下がらないようであれば…こちらとしてもいい加減、動かざるを得ませんな。そのときは協力していただけると助かります。」
「承知しました。こちらも、彼の様子を少し探ってみましょう。」
今後の方針が決まったところで、話題は産業や巷の流行、トルマ王国の復興具合などに移り変わっていった。
その後はハイビスカスの花をはじめとした温室の植物を見て回ったり、他愛のない世間話をしたりして、お茶会らしい穏やかな時間をすごした。
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