看過できない
お茶会の後、ヴィレット様は早速ベルクマン侯爵に手紙を出したようだ。これで事態も落ち着くかと思ったのだが、新たな手紙が届いた。その内容は予想の斜め上をいくものだった。
『君の婚約者を名乗る輩から手紙が来た。君は私のものだというのに。』
『あんな男はジュリア嬢には相応しくない。すぐに私の元に来なさい。』
『返事を待っている。 君の本当の婚約者 カール・ベルクマン侯爵』
要約するとこんな内容だった。相手が他国の侯爵とはいえ、さすがに呆れてしまった。ヴィレット様のことを“婚約者を名乗る輩”だなんて…それはむしろベルクマン侯爵の方だと言いたい。
ヴィレット公爵とラインハルト公爵、そしてお父様にこの手紙のことを伝えると、皆一様に呆れていた。いや、一様にというのは語弊があるか。呆れ以外の感情はそれぞれ違うように見受けられた。
ヴィレット公爵は静かに怒っていた。ラインハルト公爵は諦めたような表情を見せたあと「もはや看過できない」と、何か決意に満ちたような目をしていた。お父様はというと…楽しげ(?)にニヤリと笑った後、お兄様を呼んで何かを話していた。
あの様子だと、何かしら二人で企んでいるのだろう。「ジュリアは何も心配しなくていい。任せておきなさい!」と言われたのだが、やたらいい笑顔だったような…。
二人の“企み”が何だったのかを私が知るのは、この翌日のことだった。
◇
コンコン、と扉をノックする音が執務室に響いた。ヴィレット様が「どうぞ」と声をかけると、騎士の方が狼狽えた様子で入ってきた。
「どうしたのですか?そんなに慌てて。」
ヴィレット様の問いにハッとしたように姿勢を正し、右手の平を左胸に当てる騎士の敬礼をしながら、その騎士は答えた。
「失礼いたします。トルマ王国使節団のカール・ベルクマン侯爵が、ヴィレット公爵とロベール伯爵令嬢に会いに来たと、いらしておいでなのですが…」
と、ここで騎士は言いづらそうに言葉を切った。
「遠慮なさらず、続けてくださいな。」
「はい。それで、お約束をしていらっしゃるのかと尋ねたところ“自分の婚約者に会うのにそんなもの必要ない”と言われ、今も警備の者と揉めております。このままではどうあってもお帰りいただけないようですので、事実確認と対処のご相談に参りました。いかがいたしましょう?」
ベルクマン侯爵…突っ走った性格の方だとは感じていたが、まさか約束も先触れもなしに乗り込んでくるとは思わなかった。しかしヴィレット様は驚いた様子もなく、落ち着いて騎士の方に指示を出しはじめる。
「そうですか、ご報告ありがとうございます。念のため言っておきますが、彼はジュリア様の婚約者ではありませんよ。それではまず「面白そうなことになってるみたいだね。」…フランシス殿下。」
急に現れた人物に、ヴィレット様はさして驚いた様子もなく声をかける。フランシス殿下――王太子殿下はよくこの執務室を訪れるのでもう慣れたものだが、まさかこのタイミングでいらっしゃるとは。
突然の王太子殿下の登場に声も出ないほど驚いている騎士の方が、気の毒でならない。
「他国の方を執務室に招くわけにはいかないだろうし、応接室をひとつ使いなよ。僕も同席するからさ。」
そう事もなげに提案する殿下。確かに、人目に付く場所で押し問答するのも、執務室へお通しするのも憚られる。それに、殿下が同席して下さるのなら王宮の応接室をお借りしても構わないのだろう。
「それでは、ありがたく使わせていただきましょう。君、聞いた通りだ。ベルクマン侯爵を空いている応接室へお連れしてください。それから、使節団のエドウィン・ラインハルト公爵もお呼びしてください。我々も後ほど応接室へ向かいますので。」
「かしこまりました!」
騎士の方は勢いよく返事をすると、素早く去って行った。
「やあ、ジュリア嬢。忙しそうだから挨拶は構わないよ。それじゃあ僕は、外務長官のロベール伯爵を呼んで来ようかな~。」
そう言って殿下も去って行った。一体何をしに来たのだろう。相変わらず、王族なのに自由な方である。っと、それよりも…
「父も同席させますの?」
「ええ。それから、ジュリア様はクラウス殿を連れて、応接室へ向かっていただけますか?」
「兄を、ですか…かしこまりました。」
何やら慌ただしくなってきたが、大丈夫だろうか。
読んで下さってありがとうございます。
お父様とお兄様は何を企んでいるのでしょうね。ジュリア様、当事者なのに蚊帳の外っぽい…;
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
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