温室でのお茶会(3)
「はぁーーー、まさかここまでとは。」
話を聞き、手紙に一通り目を通したラインハルト公爵は、それはそれは深いため息をついた。お茶もすっかり冷めてしまっていたので、新しく淹れ直す。
「ああ、ありがとう、ロベール伯爵令嬢。貴女にはとんだご迷惑をおかけしてしまいましたな。まさか国外でまでこんなことをしでかすとは…」
「公爵が気に病むことではありませんわ。考え事には甘いものがいいそうですわ。さ、どうぞ。」
そう言ってラインハルト公爵にいちごのタルトを勧めた。私もマカロンをかじり、温かいハイビスカスティーを飲んで一息つく。この短い沈黙を破ったのはヴィレット様だった。
「トルマ王国側としては、彼の暴走を止める手立てはあるのですか?」
「残念ながら。先ほども申し上げた通り、血縁が少々…ね。彼には我々も手を焼いているのですが、行いを糾弾しようにもことごとく邪魔が入る。」
そう言いながら、ラインハルト公爵が重々しく首を振る。糾弾されるほどの行いをしでかしてなお、あれほど自由に振舞えるということか。貴族のしがらみというものは本当に厄介だ。
少し間を開けて、躊躇いがちに言葉を続ける公爵。
「全く、情けない話です。失礼ながら、ロベール伯爵令嬢に婚約者か恋人がいらっしゃれば、話が早いのだが…」
やはりそうなるか。こうなってくると、婚約を了承してくれたヴィレット様には感謝しかない。
…あれ?いや、婚約を申し込んだのはヴィレット様で、それを私が了承した…んん?まぁ、それはこの際置いておこう。
「ジュリア様に婚約者か恋人がいらっしゃれば、ベルクマン侯爵は大人しく引き下がる、と?」
「…いや、恋人では弱いかも知れませんな。ロベール伯爵令嬢ほど魅力的な女性を得るためなら、多少の無理は通そうとする可能性もある。できれば、婚約者の方が確実だろう。」
今なにか、サラッと褒められたような。まぁこんな社交辞令を真に受けていては貴族令嬢は務まらないので、とりあえず流しておこう。ここで話の腰を折るのも申し訳ない。
「確かに。ジュリア様は美しさや貴族令嬢としての教養だけでなく、文官としての手腕も素晴らしいものですからね。多少の無理をしてでも手中に収めたい、とベルクマン侯爵が考える可能性は大いにあります。」
ありませんよ。ヴィレット様も公爵の言葉に乗っかって何を口走っているのですか。ラインハルト公爵も、うんうんと頷かないでいただけますかね。というかさっきから一体誰のことを話しているのですか。絶対私のことじゃないですよね。
「お褒めいただき光栄ですが、私には過分なお言葉ですわ。」
「いやいや、ヴィレット公爵の評価は十分に適切でしょう。ロベール伯爵令嬢は随分と控えめな方ですな。」
そんなことはないと思うのですが。これ以上否定してももう聞いてくれないだろう。それよりも、婚約者か…ヴィレット様とのことは、ここで明かしてもいいのだろうか?
「失礼、話が脱線してしまいましたね。先ほどのお話の通りであれば、この件に関しては問題なさそうですね。彼女には既に婚約者がいますので。」
明かしてもいいらしい。私の口から言うのはなんだか照れくさいので、このままヴィレット様に任せてしまおうか。
「おお、そうでしたか!お相手の方はこの手紙のことはご存じで?」
「ええ。私がその婚約者ですので。」
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