温室でのお茶会(1)
今日はトルマ王国のラインハルト公爵と、ヴィレット様と私の3人でお茶会をする予定なのである。歓迎パーティーでの会話で「ぜひまた3人でゆっくりと話したい」と言って下さったラインハルト公爵。
社交辞令だと思っていたので、本当にお誘いがきたのには驚いた。とても光栄なことであったし、もっとお話をしたいと思っていたので、早速お茶会の席を設けることになった。
ベルクマン侯爵からも食事やお茶のお誘いは来ていたのだが、こちらは下心が見え見えのうえ“二人きりで”とのことだったので、丁重にお断りした。
おっと、今日のお茶会に思考を戻そう。
誘って下さったのはラインハルト公爵だが、ここはアメスト王国で、彼は国の客人である。そこで、今回はヴィレット様が主催するささやかなお茶会、という形をとることにした。王太子殿下のご厚意で、王宮の温室を使わせてもらえることになっている。
「ラインハルト公爵がご到着です。」
ちょうどお茶の準備が整ったところで、ヴィレット様が知らせに来てくれた。今回は個人的なお茶会ということで、ヴィレット様が直接ラインハルト公爵を迎えに行って下さったのだ。
『ようこそおいでくださいました。どうぞ、お掛けください。』
「ありがとう、ロベール伯爵令嬢。ああそうだ、先ほどヴィレット公爵にもお願いしたのですが、今日はアメスト語で話しましょう。付け焼刃で聞き苦しいかも知れないが、練習に付き合ってほしくてね。」
「かしこまりました。聞き苦しいだなんてとんでもない、とてもお上手ですわ。」
「驚いた。ヴィレット公爵も全く同じことを言ってくれたんですよ。いや、本当に息の合った部下で羨ましい限りだ。」
なんと、それは私も驚きだ。しかし、部下として褒められるのは悪い気はしない。…正直、嬉しい。
「それでは、お茶会をはじめましょうか。ラインハルト公爵、本日はお誘いいただきありがとうございます。」
「いやいや、こちらこそ。お時間を頂けて感謝しますよ、ヴィレット公爵、ロベール伯爵令嬢。」
「私こそ、お誘いいただいて感謝申し上げますわ。お約束通り、美味しいお茶とお菓子をご用意いたしました。どうぞ、召し上がってくださいな。」
ドキドキしながら、お茶とお菓子をお二人に勧める。
「これは、色鮮やかで…少し風変わりなお茶ですね。初めて口にする味だ。」
「確かに。トルマ王国でも味わったことのないお茶だが、とても美味しいです。」
よかった、お口には合ったようだ。
「本日は紅茶ではなく、ハイビスカスティーをご用意しましたの。」
「「ハイビスカス…?」」
「ええ。ハイビスカスは南国に咲く色鮮やかな花で、この温室にも植わっていると聞きましたので。後ほどご一緒に、花を見に参りましょう。」
「なるほど!これは素敵な趣向ですね。」
ラインハルト公爵は興味深げにティーカップの中身を見つめている。
「恐れ入ります。それから、お菓子はフルーツのタルトとマカロンをご用意いたしました。」
「タルトに、マカロン…ですか。どちらもトルマ王国では聞かない名です。」
「タルトはアメスト王国の伝統的な菓子です。マカロン…は、私も初めてですが。」
「マカロンは、王都の女性の間で最近流行りはじめたお菓子ですわ。私も食べたことがあるのですが、他の焼き菓子にはない独特な食感が魅力なんですの。」
ちなみに、タルトもマカロンもロベール伯爵家のシェフに助言を貰いながら、私が手作りしたものだ。お二人のお口に合うといいのだが…
「この、タルトというお菓子はとても美味しい!香ばしい生地とフワフワのクリーム、それに甘酸っぱいフルーツの…おや。このフルーツは、もしかしてイチゴですかな?」
「そういえば、こちらのマカロンにも何かフルーツが入っているようですね…確かに、美味しいです。」
よかった。どちらもお二人のお口に合ったようだ。
「はい、タルトにもマカロンにも、トルマ王国名産のイチゴを使用しました。」
ここまで言うと、ヴィレット様もラインハルト公爵も私の意図を察したようだった。
「なるほど。ロベール伯爵令嬢は、やはりやり手ですな。」
「まさかここまでなさるとは、思ってもみませんでしたよ。」
しまった、もしかして悪手だっただろうか。それとも、単にお口に合わなかったとか?ど、どうしよう…
表情は何とか取り繕っているが、内心では冷や汗がダラダラである。
「いやはや、感服致しました!アメスト王国の伝統菓子と新しいお菓子、それにトルマ王国のイチゴとは。アメスト王国の伝統と革新、そこにトルマ王国との交流が加わることで、素晴らしいものが生まれる、と。我等のお茶会に相応しい、素晴らしいお菓子ですな。」
「さすがはジュリア様。予想以上に素晴らしいもてなしです。」
こ、これは…褒められた、のかな?ただ、もうひとつ、これだけは言っておきたい。
「お褒めに預かり光栄ですわ。ですが、ラインハルト公爵?恐れ入りますが、マカロンにはもう一点、重要な意味がありますの。」
「ほう?」
ラインハルト公爵は眉を上げ、聞き返してくる。しかし、その表情は楽し気で、不快さは感じられない。むしろ、これ以上何の含みがあるのか、とわくわくしているような雰囲気だ。
「よろしければ、私が当てましょうか。」
「もちろんですわ、ヴィレット様。」
「それはマカロンが“女性の間で人気のお菓子”という点。ここ最近アメスト王国内で進められている、女性躍進と絡めているのですね?国家の繁栄のためには、女性の活躍も不可欠である、と。」
さすがはヴィレット様だ。
「ご明察です。」
「はっはっは!ただのお茶菓子にこれほどの含みを持たせるとは、流石だよ、ロベール伯爵令嬢。この分なら、私の心配も杞憂に終わりそうだね。」
「心配、ですか?」
「ええ。素晴らしいお茶とお菓子を堪能したところで、そろそろ本題に移るとしましょう。」
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