プロポーズの返事
これは、俗にいうプロポーズというものだろう。
確かに私は、プロポーズとは“もっとこう、ソワソワしたり、ドキドキしたりする、ロマンティックなもの”だと考えていた。いたけれども!
どうしてこうなったのだろう。
心臓はものすごくドキドキしているし、何だか落ち着かないこの気持ちはソワソワという感覚なのだろうか。
場所(執務室)も雰囲気(仕事の休憩中、それも相談事の真っ最中)もロマンティックとは無縁なはずなのに……
ヴィレット様の美貌や仕草、気品が周囲の全てを無視させるほどの存在感を放っている。ロマンティックがどうのムードがどうの、そんなことをごちゃごちゃと考えるのも馬鹿らしく感じさせるほどの圧倒的な雰囲気が、彼にはあるのだ。
いつの間にか隣に座って私の手を握り、アイスブルーの瞳で真っ直ぐに見つめてくるヴィレット様。ああそうだ、いい加減返事をしなくては。えっと、えっと…
「私でよければ、喜んで。」
ん?ちょっと待った、いま私は何と言った?
私など不相応だ、こんなことで結婚相手を決めるのはいかがなものか、ヴィレット様には他にも良縁があるはずでは等々、言いたいことは山ほどあったはずなのに。
気がつくと言葉が口をついて出てしまっていた。
「よかった、ではこれで決まりですね。父君へのご挨拶などに関しても、早々に話を詰めていかなくてはなりませんね。」
こ、これで決まりなのですか。
…え、本当に?
「あの、ヴィレット様!」
とっくに立ち上がって執務机の方へ向かっていたヴィレット様を呼び止めると、こちらを向いてくれた。
「どうなさいました?」
「あ…その、本当によろしいのでしょうか?やはりこのような事態のために婚約までして頂くというのは…」
「私が相手では、ご不満でしょうか。それとも、他に想う人がいらっしゃるとか?」
ヴィレット様の視線と纏う空気とが一気に冷えるのを感じる。怒らせてしまった。
当然といえば当然だ。部下の厄介な相談事を解決するために婚約を申し出て、一緒に厄介ごとを背負い込もうと提案したというのに。この期に及んで当人が尻込みし、挙句にヴィレット様が相手であることを不満に思っていると勘違いさせてしまったのだ。
「いいえ!ヴィレット様がお相手であることに不満などございません。それに、先ほども申し上げた通り、婚約者も恋人もおりませんわ。ただ、ヴィレット様は本当にこれでよろしいのかと、思いまして。」
「これでいいのか、とは?」
あ、少し雰囲気が和らいだ…かも。鋭い視線はいくらか和らいだものの、まだ怪訝な表情のままである。
「私と、その…ふ、夫婦になる、ということです。王太子補佐付としての能力を買って下さるのは嬉しいですが、それとこれとは別でしょう?」
「もちろん、それは別問題ですよ。補佐付としての貴女は非常に優秀です。しかし、結婚を申し込んだのはそれが理由ではありません。先ほども申し上げたでしょう?」
先ほど…そうか。確かに“ご令嬢方のアピールと数多の縁談に辟易している”と仰っていた。なるほど、それらからやっと解放されると思ったのに、今更取り消されてはヴィレット様も困るということか。
「そうでしたわね。お見苦しい所をお見せして申し訳ございません。もう揺らぎませんわ。不束者ですが、よろしくお願いいたします。」
読んで下さってありがとうございます。
ジュリア様、思いっきり勘違いしております(笑)
もうしばらくは、ベタ惚れ公爵と鈍感令嬢のすれ違いをお楽しみください。
ヴィレット公爵目線も読みたい!という方はコメントでお知らせくださいな。
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