提案
「それでは、私とジュリア様が婚約すれば解決ですね。」
「…え?」
えっと、聞き間違いでしょうか?ヴィレット様と私が、婚約?
「公爵である私と婚約しているとなれば、強引なベルクマン侯爵といえども引き下がるでしょう。ロベール伯爵家ならば、ヴィレット公爵家との家格も十分に釣り合います。」
「それは、ヴィレット様が私の婚約者の“ふり”をして下さるということでしょうか?」
「いいえ、ふりなどではありませんよ。本当に婚約しますし、結婚もします。婚約を断るために嘘をついたと知れると、それこそトルマ王国との関係に亀裂が入りかねません。」
結婚?本当に?いやいやまさかまさか、そんなはずはない。それとも貴族によくある“形だけの結婚”、いわゆる仮面夫婦というやつだろうか?
確かにヴィレット様にも私にも今現在、恋人や婚約者はいない。身分差も年齢差も特に問題ない。むしろ相手は誰もが羨む、あのレイモンド・ヴィレット公爵なのだ。
いやいや…うん。一旦落ち着こう。
落ち着いて考えてみると、ヴィレット様の言う通りだ。恋人や婚約者の代役を立てることは私も考えたが、それが嘘だと侯爵に知られたときのリスクが高い。相手は他国の有力貴族なのだし、どんな理由があろうと嘘はよくないだろう。
そうなると、本当に婚約も結婚もするというヴィレット様の提案は、私にとっては渡りに船といえる。
「なぜ、そこまでしようとして下さるのですか?ヴィレット様には何のメリットもないお話ではございませんの。」
「メリット…ですか。そういった対外的なものが必要だというのなら、そうですね…私もご令嬢方からのアピールや数多の縁談には辟易していました。そろそろ良いお相手がいれば、とは思っていたのですよ…これでいかがでしょう?」
「いかが、と言われましても…そういうことでしたら、まぁ…」
これで納得できる、のだろうか?私という婚約者がいれば、ヴィレット様はそういった面倒ごとから解放される、と。確かに、メリットといえばメリットだろう。
「もちろん、それだけではありませんが。」
あら?まだ続く感じですか。
「私にはジュリア様が必要だからですよ。貴女にはずっと私の傍にいてほしいのです。」
ドキッとした。
あまりに真剣な眼差しと言葉に、思わず息を飲んだ。
「必要」だとか「傍にいてほしい」だとか、ヴィレット様らしからぬ言葉に、うっかり勘違いしそうになってしまう。彼はきっと、部下として――王太子補佐付としての私を必要としているのだ。決して、恋だの愛だのといった甘い意味合いをもつ言葉ではない。
「で、ですが、そんな急に…」
「急なのはベルクマン侯爵のお話も似たようなものでしょう。私と貴女なら、既にお互いのことはある程度知っていますし、信頼関係も築けています。きっと良い夫婦になれますよ。」
あ、信頼関係が築けていると思って下さっていたんだ。それは純粋に嬉しい。
…いや違う。大事なのはその後。何か凄い言葉が…って、い、良い夫婦!?
ちょっと待って下さい。やっぱり本気なんですか?しかも仮面夫婦ではないんですか?頭が展開についていけません。驚きすぎて思考まで敬語になってきてしまいました。
「た、確かに信頼関係は築けているとは思いますが…」
それは上司と部下としてでは?
「良かった。貴女もそう思って下さっていたのですね、安心しました。」
「っ!!!」
急展開にパニック状態だった思考が……止まる。
笑った。あのヴィレット様が…先ほどまで人を射殺してしまいそうなほどの鋭い目つきで手紙を読んでいた方が…笑ったのだ。
今ではそのアイスブルーの瞳に優しささえ宿して、ふわりと微笑んでいる。
「ジュリア・ロベール伯爵令嬢、私には貴女が必要なのです。私、レイモンド・ヴィレットの…妻になっていただけますか?」
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