歓迎パーティー(1)
パーティー会場に到着して馬車を降りると、ご令嬢方に囲まれて仏頂面をしているヴィレット様が見えた。
愛想笑いが苦手そうな人だと感じてはいたが、あんな表情は見たことがない。言い寄ってくる女性にうんざりしているらしいという話は本当のようだ。
あの中をかき分けて声をかけるのはちょっと…と考えつつ彷徨わせた視線を戻すと、ヴィレット様と目が合った。
少し驚いたような表情をした彼は、周囲のご令嬢方には目もくれず、こちらへ向かって歩いて来る。よほど早歩きで…いや、単純に脚が長いからなのか、あっという間に私達の目の前にまで来ていた。
「ごきげんよう、ロベール伯爵、クラウス殿、ジュリア様。」
「ごきげんよう、ヴィレット公爵。」
「昨日ぶりですかね、その節はどうも。助かりましたよ。」
「本日はよろしくお願いいたします。」
ヴィレット様からの挨拶を受けて、お父様、お兄様、私の順に返事をする。
「貴殿のご尽力で今日の歓迎パーティーを無事開催できたこと、嬉しく思いますよ。」
「お褒めに預かり光栄です、ロベール伯爵。ですが、私だけの力ではありませんよ。皆さんの支えがあればこそです。」
「おやおや。公爵も随分と丸くなられたようですな。…まあ積もる話は後ほどにいたしましょうか。」
「そうですね。これ以上パートナーをお待たせするのも申し訳ないですし…それではロベール伯爵令嬢、参りましょうか。」
急に話を振られて面食らったが、差し出されたヴィレット様の腕に手を添える。エスコートされる際の作法とはいえ、やはり家族以外の男性とのこの距離感は苦手だ。
どこか居心地が悪いのは、周囲のご令嬢方からの刺すような視線のせいかも知れないが。
「それではヴィレット公爵、娘をよろしくお願いしますね。」
「もちろんです。」
短く答えたヴィレット様は私を伴って、パーティー会場である王宮の大広間へと歩を進める。
隣を歩くヴィレット様にチラリと視線を向けると、相変わらず何を考えているのか読めない無表情。しかし、先ほどの仏頂面ではなくなっているのでほっとした。
「どうされました?」
私の視線に気づいたのか、ヴィレット様がこちらに視線を向けて話しかけてきた。
「えっと…その……こういった社交の場は久々で…それに、なんだか見られているような気がして緊張してしまいます。」
「そうなのですか…周囲の視線など気にせずとも構いません。前にも申し上げましたが、もっと自信を持ってください……貴女は十分、魅力的です。」
「っ!」
驚いて息が止まるところだった。喜ぶべきなのか驚くべきなのか、頭が混乱してしまってよくわからない。
視線を前へと戻して歩き続けるヴィレット様の横顔を見るも、いつもと変わらない無表情。これは…委縮している私を気遣って下さったのだろうか?
上司と部下としてはある程度の信頼関係を築いてきたつもりだが、相変わらずの無表情からその感情を読みとることは難しい、というかほぼできない。業務上のことなら、ある程度の意図や含みを汲み取ることもできるのに。
「お褒めに預かり光栄です。お世辞でも嬉しいですわ。」
とりあえず絞り出した言葉は、こんなありきたりなセリフが精一杯だった。
読んで下さってありがとうございます。
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