父からのプレゼント
トルマ王国の使節団を迎える準備のために、またもや奔走する日々が始まった。出迎えの顔ぶれ、視察先、歓迎パーティー等々、関係各所と協議を重ね準備を進めていく。
準備だけでも忙しいというのに、トルマ王国からの手紙や要望書などの翻訳まで私に回ってきた。きっとお父様の仕業なのだろうが、娘だからと言ってこき使いすぎではないだろうか。
考え事をしていると、扉をノックする音が聞こえた。部屋の主であるヴィレット様は席を外しているので、代わりに返事をして入室を促す。
失礼するよ、と声をかけて入ってきたのは、なんとお父様だった。
「お疲れ様、ジュリア。」
「お父さ…外務長官。こんな所へ、どうなさいましたの?」
「今は休憩中なんだ。そんな堅苦しい話し方はやめてほしいなぁ。いやね、わが娘ながら素晴らしい働きだと思って、お礼を言いにね。」
素晴らしい働き…やはり、あの山のような翻訳依頼の出どころはお父様だったか。
「お役に立てて何よりですわ。信頼していただけるのは良いのですが、少々負担が(私に)偏りすぎでは?」
「仕方がないだろう?トルマ語が読めて、私が信頼できる相手で、なおかつ手が空いている者などほとんどいないのだから。いやぁ本当に助かったよ、ジュリア。」
言外の含みをあっさりと認められた上、こうも飄々とされるともはや文句がでてこない。それに、今の私を見て“手が空いている”とは…まぁいい。少なくとも、今のお父様やお兄様よりは余裕があるのは事実だ。
「仰る通りですわね。それで、ご用件を伺っても?」
「そうだった。こんなに頑張ってくれているわが愛娘に、ご褒美をと思ってね。」
「ご褒美?」
「ああ。新しいドレスを仕立ててあげようと思ってね。2週間後の、使節団の歓迎パーティーに着て行くといい。」
ドレス…そういえば、パーティーに何を着て行くか決めていなかった。
手持ちのドレスを思い出してみると、どれも質は良いものの控えめなデザインのものばかりだ。国の来賓をもてなすパーティーに着て行くのなら、もう少し華やかなドレスの方がいいかもしれない。
それに、あのヴィレット様にエスコートしていただくのだ。少しでも着飾らないと落差が激しくなってしまう。
「ありがとうございます、お父様。とても楽しみですわ。」
「うんうん。美しく着飾って、ヴィレット公爵に褒めて貰いなさい。」
突然何を言うかと思えば。…そういえば、私がヴィレット様の部下になると決めた時にも、こうして茶化してきたのだった。まさか私を未来の公爵夫人に…などと考えているわけでもあるまい。
「ドレスがいくら美しくても、着る人間がこれですもの。ご期待には沿えないと思いますわ。」
「まだそんなことを言っているのかい?ジュリアは母親にそっくりだよ……いずれわかるさ。」
「わけのわからないことを仰っていないで、そろそろ仕事に戻りませんと!」
「わかったよ。それじゃあ、もうひと頑張りしてくるかなぁ。じゃあね、ジュリア!ドレスを楽しみにしておいで。」
そう告げてお父様はヒラリと出て行った。さて、ご褒美のためにも、私ももうひと頑張りしましょうか。
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