星廻りの夢31「決戦」
一日一章投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
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翌日の早朝、サナレスは宿屋を出る準備を始めた。
店主に礼を言う時に、今日はこの辺りは戦場になるから、宿の扉を完全に施錠しておくか、できるならどこかに住まいを移した方がいい旨を助言した。
「三日、いや二日で終わらせる」
こちらは少数の兵だ。
長引けば長引くほど、戦況は不利になる。二日で片付けられないのであれば負けることも覚悟しなければならない。
ーーいや。決して負けることを考えてはいけない。
勝敗というのは、一瞬でも負けることを考えた時から、負ける可能性が生まれてしまう。
勝つイメージだけを鮮明に思い描いて勝機を呼び込むのは、常套手段だった。
二人が宿を出ようとする時、店主が飲み物と日持ちする食べ物を包んでくれた。
「干した肉です。こんなものしかございませんが、ご武運を」
「ありがたい」
宿を出た二人は山頂で待機している兵が動き出すのを待った。
暖気を帯びた風が吹き付け、マントが横一文字になるほどたなびいた。順調に海が荒れ始め、遠くに碇泊していた船が、昨日よりも固まって近づいてくるのが見える。
道筋をつけ、要所要所に目印となるものを残してきたが、下山する間にトラブルが起こらないかは気を揉むところだ。
「大丈夫です、殿下。ギルはうちの馬番です。私よりも馬の扱いに慣れています」
山道を見つめるサナレスの心中を知ってか知らずか、トーボウが言った。
程なくして、最初の馬が到着した。
「殿下、合流しました。手間取っている者については、ギル様が後方で援助しておりますので、後半刻もすれば全員無事に揃います」
「よくやった」
先に仕掛けるのは右翼ではなく、首都を狙うウルの兵を右側から囲い込む二百五十名の兵。夜明けとともに左翼の兵にはウルの三千の兵の横側から奇襲をかけるように伝えていた。すでに狼煙は上がっている。
敵のウルの兵は、侵攻方向左手は山間になるため、油断している。それを第一陣で襲撃して、混乱させる作戦だった。左翼の陣は横に広がり、長い隊列のウルの兵を狙う。陣形を崩すことだけを目的とする。長期戦では持ち堪えられない。
サナレスの率いる右翼の兵が出遅れることは許されなかった。
時を待ってサナレスは動いた。
まずは一発目の爆破を行った。
ドガーン。
想像以上の爆音がして、音の振動が体に伝わった。
これは敵ウルの兵の視線を、左翼からこちらに向かわせるためのものだ。
ウルの兵は、援軍である海から襲撃されたのかと、こちらに注意を向けないわけには行かないはずだ。これで二百五十名程度で仕掛けた奇襲にによってバラけた陣形が更に乱れていく。
「よし。船の方も動き出した」
サナレスの兵が山間に身を隠しているので、船側の援軍も、今の爆音でウル国が自分たちを攻撃しているように錯覚しているはずだ。
船は陸に着こうと帆を開き、侵攻方向をこちらに向けてくる。
海がうねり始めているので、思いの他舵を取ることが困難なようで、船と船は木の葉のように船体を傾けながら、岸に向かって進んでくる。
風向きが海からこちら側に向かって、強烈に吹き始めた。
サナレスの隊が揃うか揃わないかのタイミングで、最初の船が港に到着した。碇を下ろした後、血気盛んな兵が、競い合うように船から降りようとする。
一隻が着くと、更にもう一隻と、次々と船が港に着き始める。
ウルの騎馬隊も、港側に向かって駆けてくるの見える。
いいタイミングだった。
サナレスは思い切り手綱を引いて、集まってくる船と、ウルの兵の間を駆け抜けた。
トーボウがそれに続き、下山して潜んだ右翼の兵が、ウルの兵の前に進攻した。
沖合にいる船のほとんどが港に寄り集まってきていることを確認して、サナレスは爆弾に点火した。
時限爆弾が起動し始める。
ドドガーン。
盛大な音がして、爆弾の熱にジリっと肌が焦げるようだった。背中を向けて剥き出しの顔を庇ったけれど、その熱と風圧が全身に伝わる。
二発目の爆撃で、一隻の船が炎と煙を上げるのが見えた。
よし!
「トーボウ、ここからはウルの兵だけに向かって走れ」
戦闘開始だ。
ウルの兵に向かって隊全員に突っ込ませる勢いで、サナレスは前を向き直った。
その時点で、続いて残りの五発を爆発させる。
碇泊していた船の数隻が、衝撃に傾き、船舶同士が衝突して傾いていく。
前を向いたサナレス達の兵の後ろから、ブァっと爆風と黒煙が立ち上がった。
一筋の雨が顔にかかった。
ラァ様の力だーー。
ここからは、天候が彼らの船を地獄へと引き摺り込む。連鎖的に時限爆弾は爆撃するが、嵐のために岸から沖へ出ることは容易ではないはずだ。
サナレスは振り返らずに、先陣きってウル軍に突進した。
「破れた夢の果ては、三角関係から始めます。」
星廻りの夢31:2020年9月15日




