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星廻りの夢17「訪問者」

一日一章(以上)投稿しています。

リアルな日常が壊れない程度に続けていきます。


お付き合いよろしくお願いします。

今回は一章を短めにしていますので、話数が増えそうです。

10万文字ぐらいに収まればいいなぁと思っています。


       ※


「お父様! あんまりです」

 ルカが出陣した日、フィリシア公爵家でレイトリージェは自らの父親に食ってかかった。


 貴族社会では家が大事。家長、つまり主人の命令は絶対で、口に出して抗議することは畏れ多いことだ。


 今まで父に口答えなど一度たりともしたこともなかったが、彼女は懸命に訴えた。

 父に頬を打たれた。

 そして自分の部屋に閉じ込められ、外側から施錠される。

 レイトリージェは必死で自室の扉を叩いて抗議していた。


 父が選抜したケンリュウスの隊が集まる現場を、彼女は父と共に目撃した。

 明け方に、公爵家の中庭に集められた兵を見た時、心臓が止まるのかと思った。父が先だって兵を送るとは聞いていたけれど、こんな集団だったとは。

 それから居ても立っても居られないでいる。

 レイトリージェは身体を震わせた。


 驚愕し、父の非道徳さを、彼女は知ることになる。

「どうしてそこまで、銀髪の民を迫害するのです!?」


 集められた百名足らず、実際には八十名程度しか集まらなかった、ラーディアのケンリュウスは、皆が一様に銀髪の容姿だったのだ。


「女のおまえが、口を挟むことではない」

 父を非難するレイトリージェを、彼は一言で切り捨てた。

 そして館の中、レイトリージェは自室に閉じ込められてしまう。


 ひどい。

 レイトリージェは自室の扉を、握った拳で叩き続けた。


 この軍はーー。これでは、生贄ではないの……?


 他国からの兵は最初三千人ほどだったと聞いたが、今では一万を超えるほど集まっている。

 たった一隊、八十名ほどの兵を、戦禍に送り、彼らにいったい何をさせようと言うのか。


 その兵を率いる大将が、ルカだなんてーー!

 レイトリージェは父親が怖い。それでも黙っていることなんてできなかった。


「ルカ! 行ってはいけない。お願いだからルカ!」

 家の窓が閉じられ、レイトリージェの声は届かない。

 使用人達が主人の命で、レイトリージェを部屋の中に拘束したが、彼女は自室のドアと窓を行ったり来たりして、なんとかルカを止めたかった。

 外に出て、彼を止めることができない。

 その歯痒さに、窓ガラスに部屋の中のものをいくつも手にとって叩きつけてみるが、公爵家の窓はびくともしない。


 数日前に彼に会った時、何故だかルカの様子がおかしかった。あの時に彼を問いたださなかったことをレイトリジェは後悔した。

 こんな重大なことを隠していたなんてと、壁に突っ伏す。


 ルカは知っていたのだろうか。父の経略で、この軍が銀髪の者だけを選抜したこと。

 容姿による差別なんて、あっていいはずがない。

 努力でどうにもならないことを突きつけられ、ルカがどんなに傷付いたのかを思うと、胸が詰まった。


 それでなくとも、幼い頃から、ルカとサナレスと三人でこの館で遊んでいると、父はルカだけを目の敵にした。彼にだけ、入ってはいけない場所、触ってはいけない物を明確に線引きし、自分達と距離を持たせようとしてきた。


 ルカが死んでしまう。

 父の言う通り従って、少ない兵で出陣などすればどうなってしまうのか、火を見るよりも明らかだ。


 当然父はそれを見越している。

 おそらくこれを機会に忌み嫌っている銀髪の術師達の卵を、ラーディア一族から葬ってしまう算段だろう。


 聡明なルカが、それに気付かないわけがないのに、ーーなぜ引き受けた!?

 彼が望むのは自分との婚儀ーー。つまり父に認めてもらうこと、そして伯爵家の爵位を回復すること。


 自分のせいだ。

 本当に好きならば、家など捨てて、ルカを選ぶこともできた。別に貴族でなくなっても、ルカと互いに合意していれば、彼と幸せになる道は開けていたのだ。


 どこかで、迷っていた。

 公爵家の血筋であるがゆえに、レイトリージェは欲深くなってしまった。

 王族のサナレスに選ばれるかもしれない。王族でなくとも、サナレスに選ばれるかもしれない。それはレイトリージェを公爵家にしがみつかせた。


 サナレスが、自分を選ぶ?

 そんなことあり得るはずがないのに、どこかでまだ未練があった。もしかするとサナレスは、ムーブルージェではなく、彼女が病弱であるから、仕方なくとも公爵家の血筋である自分をいつか選んでくれる日が来るかもしれないと、レイトリージェは考えてしまっていた。


 恋愛で悩む人は、欲張りなのだと言う。

 たった一人だけを見て、その人だけを望めば、答えはもっとシンプルになる。けれど人は、幾つもの幸せを同時に願う、強欲さを備えている。


 ルカだけを見ていれば縺れなかった糸が、サナレスを見て、爵位を見て、自分はなんて業が深いのだろう。


 父を止められない。

 ルカが行ってしまう。


 助けを求められるのは、サナレスしか思いつかなかった。王族である彼ならば、父とルカを止められる力があるかもしれない。

 けれど部屋に閉じ込められた状態では、サナレスを訪ねることもできなかった。


 誰か助けて!

 ルカを助けて!

 愚かな自分を救ってほしいと、レイトリージェは閉じ込められた扉を叩き続けた。


       ※


 リトウが作ってくれたスープは、お世辞にも美味しいとは言えなかった。

 それでも尖っていた気持ちが、その温もりに少しだけ落ち着かせてくれた。


 食べ物を食べるって大事なことだ。

 決して寂しさを紛らわせてくれはしなかったけれど、そんな時こそ淡々と衣食住を見直していかなければならない。


 固形物が喉を通らなくても、スープで栄養を取ればいいよ、とリトウが言った。


 深夜遅く神殿に戻り、それでも休むことができずに、サナレスは本を開いていた。

 サナレスは実用書だけを好んで読んだ。ラーディアの書庫には物語も沢山置いてあったが、子供の頃の憧れで冒険物を読んだ以外は、全く読まなくなってしまっていた。


 王族に生まれたサナレスにとっては、物語は現実的ではない。

 王子の役は大抵、姫君を助けたり、強大な力を恐れずに怪物を倒したりと、強気をくじき弱気を助けるのが定番だった。自分のように、国を捨てて自分のことばかりを考えている身勝手な皇子は存在しない。


 酒の力を借りて寝てしまうことも考えたが、先にリトウに釘を刺されてしまっている。

『人の信頼を得たいならば、違うものに逃げるのは、おやめください』


 帰り際に渡されたものは、栄養価の高い果物だった。薬や酒に頼ろうとすることを咎めるように、リトウは健康的な物を渡してくる。見透かされている、とサナレスは嘆息した。


 眠れないのは当たり前なので、無理に眠るのは諦めた。

 何日かそんな夜を過ごせば、最後には何処かで倒れて眠れるはずだ。


 こつこつ。

 廊下を渡ってくる物音がして、サナレスは顔を上げた。


 こんな夜更けに何事かと、自室で手に持っていた本を机に置いた。


「誰だ?」

 神官が出入りする時刻でもなかった。


「サナレス、私よ」

 自分の扉の前にいた人物を見て、サナレスは驚愕した。


 それくらい久しぶりで、意外な人がそこにいた。


「ムーブルージェ……」

 息を呑んだ。

 心臓が跳ね上がった。

「ーーどうして?」


 後ろめたくて拒絶した彼女がそこにいた。

 もう2度と、会えることなんてないと思っていた。

 自ら顔向けできる相手ではないムーブルージェが手に届く距離にいて、サナレスはごくりと息をのむ。


「何が? どうしたんだ、ムーブルージェ……」

 彼女の名前を呼ぶだけで懐かしく、愛しい。


 彼女はたった一人で、サナレスの元を訪ねてきた。

「久しぶり、ーーよね、サナレス。会えて嬉しい」

 距離感を忘れさせるような表情で、ムーブルージェはそこにいた。


「王族の門番には簡単に入れてもらえたけど、あなたの部屋まで、少し迷ってしまったわ。小さい頃あなたの部屋が西の塔の奥になるって言っていたから、もっと簡単に辿り着けると思っていたのだけれど。やはり王宮は広いのね」


 神の氏族はの王宮、つまりラーディア一族の神殿は相当広い。

 病気の彼女にとって、迷宮にも等しいこの神殿に、供も付けずにやってきたと言うのだろうか。


「迷うのは当たり前だ。ーーでもどうして?」

 貴族どうし、幼馴染として親しくしていたとはいえ、神殿の、しかも皇子であるサナレスの部屋に、貴族は出入りを許されていない。


「お転婆なのは、何も妹だけじゃないのよ」

 ムーブルージェはふふっと笑った。けれど彼女の顔色が悪く、以前に会った時よりも痩せ衰えていて、今にも倒れ込みそうに儚い。


 サナレスは部屋の中に彼女を招き入れた。

「破れた夢の先は、三角関係から始めます」

星廻りの夢17:2020年9月8日

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