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星廻りの夢18「誘惑」

一日一章(以上)投稿しています。

文字オタクですね。終わりが近くなると燃えます。

R15のチェックを入れていないので、残念ながら、そこは読者の想像力に任せます。

寸止め、上等!

よしよしって感じで終わります。


あと今日は嬉しいことが。

私の教え子が(本人思ってくれているが微妙ですが)私の小説のセリフの一部を、レジンで固めてくれました。


「貴方は綺麗なのに、なぜ泣いているの?」

 記憶の舞姫の言葉かな、って思い出しました。


 本筋は、「差し伸べられた腕」「契約の代償」「炎女舞台」とかに続いていくのですが、

なろう系のタイトルなんかも付けながら、楽しんで描いていきます。


長い話になりますが、お付き合いよろしくお願いいたします。

 


        ※


「こんな夜分遅くにごめんなさい。でもサナレス、起きていてくれてよかった」

 ムーブルージェは目深に被ったフードを肩下に下ろしながら微笑んだ。


 彼女の白い肌が視界に入って、サナレスは息が止まりそうになった。

 神殿内の廊下は暖がとられておらず、夜になるとかなり冷え込んでいる。


 肩を抱き抱えて、彼女を部屋に入れた時、元々病弱な彼女の体温が下がっているのを知って、彼女がここに来た理由を聞くよりもまず、サナレスは毛布と温かい飲み物を用意した。


「そこに座って」

 サナレスはいつになく忙しなくなっていることを自覚していた。

 心臓が騒がしいのだ。


「寒くないか?」

 サナレスが聞くと、初恋の彼女は大丈夫だと笑った。


 公爵家の深層の姫君がこんな夜中に何があったのかと、慌ててしまう。


 レイトリージェやフェリシア公爵家のことで何かがあったのか?


 それとも自分が彼女から逃げ出したことを責めに?

 そこまで色々と考えて、論外だと否定した。

 ムーブルージェはそんな続世にまみれたところに、身を置く人ではない。


 ただ落ち着かなかった。

 ムーブルージェがここに来た理由を考えるよりも、サナレスからしてもう手が届かなくなってしまった存在の彼女が、今ここに居ることに動揺している。


 なぜ?

 心拍が早まっていた。

 目の前に焦がれた彼女がいる。彼女の体温を感じ、蒼い瞳がサナレスを魅了してくる。


 喉から手が出るほど、一緒にいたい。

 そんなふうに思った女性だった。


 初めてフェリシア公爵家から、彼女との婚儀を勧められた後、サナレスは彼女に会いに行った。


 恥ずかしいのに一生涯、ずっと共にいたい女性だと思った。

 直感だった。

 顔面が火照る気持ちになる。

 鮮やかな永遠楽土のように舞い上がる。来ない未来、自分の人生に色づくのを期待した。


 けれど同時に、心が凍る気持ちと共に思い出した。


 そんなに人生、つまり人の生きている世はうまくいくばかりではない。

 それは神の氏族の民とて逃れられるものではない。


「私は、貴方のことが好きです」

 気持ちを伝えるのに、まどろっこしい言葉はいらず、直球で想いを口にした。若いサナレスには、彼女の気持ちはどうでもよかった。幼い告白は、ただ自分の気持ちに見切りをつけるために口にした。


「けれどムーブルージェ、貴方は貴族として生きていく人だから。ーーだから私はもう、貴方の側には来ないでしょう」

 見事にコントロールした感情で言った言葉は、多分誰が聞いても、さようならと同義だった。


 彼女のことが好きだったのに、サナレスが出した結論は決別。


 フェリシア公爵に婚儀の意思がないことを伝えるために、サナレスは彼女を遠ざけた。

 あえてそれを宣言しに彼女のところに行ったのだ。


 彼女は怒りもしなかった。

 ただ、「貴方の夢がそうなのなら、応援するわ」とだけ言って返してきた。


 それからサナレスとムーブルージェはいっさい会っていない。

 サナレスは身体が弱いムーブルージェと決別した。自身の未来のために、そうして別れた。


 彼女は自分本位な人ではない。

 彼女の人間性や気高さを誰よりも知っていた。


 その彼女が、今更どうして、サナレスの目の前に現れた?


 会いたいと渇望しても、会えない人だと諦めた人ーー。

 自分は夢を見ているのか、とさえ思う。

 あんなにも手酷い言葉で彼女と別れ、彼女はそれを受け入れた。

 それなのに今、再び彼女が目の前にいる。


 震えてしまう。

 懐かしく、愛おしく、どれほど会いたいと願った女性であるか。

 彼女と決別した後、サナレスは死ぬほど後悔し、後悔してしまう自分自身を嫌悪して、サナレスは自分の辞書から後悔という言葉の部分を破り捨てたぐらいだった。


 後悔するぐらいなら、やるな。

 やったなら、後悔するな。

 それが生涯の自戒となるほど、悔やんだのだ。


「久し振りね」

 サナレスの気持ちを知ってか知らずか、ムーブルージェは天使のように微笑んでいる。


 彼女の元々の美しさは、痩せてさらに鼻筋がはっきりと際立っていた。病のためか顔色が悪くても、蒼い魅了眼だけは本当にいっさい衰えることがない。


「変わらず、ーー夢に見るほど綺麗だな」

「また、あなたって人は」

 臆面もなくそういうことを言ってしまえるサナレスは天然で罪な男だと、ムーブルージェは破顔した。


「会えて嬉しい」

 本心をサラリと口にしてしまう。

「君にずっと会いたかった」

 目を細め言ってしまうのを、サナレスは若さゆえに止められなかった。


 ムーブルージェはサナレスを見て、彼女もまた本心を口にする。

「私も、とても会いたかった」

 互いに会うことを我慢していた時間を補うように愛しさが募るが、2人は寂しく笑うだけだ。


「ーーそれで、どうしたの? 何かあった?」

 例え遠ざけようとしている人でも、好きであることには変わりない。

 こんな深夜に、たった一人で自分を頼ってきたのであれば、サナレスは要件を聞かないわけにはいかなかった。


「ここに来ること、とても迷った」

 ムーブルージェは苦笑した。


「私はもう、貴方との未来を諦めていたから、ーー本当に迷ったのよ。私達、よく自分達の夢について語り合っていたわよね」

 と、彼女は懐かしげに目を細める。


「貴方が旅をして、私がその横で吟遊詩人みたいに歌を歌う。貴方が奏でる物語を、私が歌う」

 「それってすごく嬉しい!」と、幼いサナレスはムーブルージェに飛びついた。

 今は叶わないけれど、記憶だけは鮮明に蘇る。


「でも貴方は王族で、私は病気で、ーー子供の頃の夢がどんどん現実にならないことを思い知った。少なくとも、私は、ーー貴方と共に行けないと分かってしまった」


 そうだった。

 だから彼女を手放した。


 サナレスも同じことを思って、決断したのだ。

 だから別れを切り出した。

 サナレスはラーディア一族の貴族社会から、彼女を連れ出して、生かしていける自信がなかったのだ。


「すべて、私の力不足によるものだ」

 サナレスはムーブルージェから視線を逸らす。


 夢を叶えられないのも、彼女を自分のそばに置いて、安全に暮らすことを約束できないのも、自分の非力さが原因で、不徳の致すところでしかない。


「やっぱり貴方はそんなふうに、自分を責めるでしょう? だから私も本心を言えなかった」

 ムーブルージェはため息をついた。


「今日私が来たのは、貴方に対して、レイトリージェと私の想いを伝えに来たの」

 か細い様子とは裏腹にムーブルージェが見つめる視線は、まっすぐで強い。


「本当はレイトリージェがここに来たかった。でも今彼女は自室に監禁されていて、館から出られない状態なの」


 監禁ーー?

「いったいどうして?」

 不穏なことを伝えられ、サナレスが半身を乗り出す。場合によっては幼馴染を助けに行かなければならないと身構えた。


「大丈夫。拘束しているのはお父様だから、妹が危害を加えられることはないわ」

 血相を変えた自分を諫めるように、ムーブルージェはサナレスに落ち着いて彼女の横に座るように言った。


 ムーブルージェはまだ少し震えていて、サナレスは彼女の腕を抱く。毛布越しにでも、体温が戻っていないことを知って、サナレスは彼女の二の腕を摩り、引き寄せた。

「話は明日、ゆっくり聞く。私が公爵家を尋ねるから、今日はもう帰って眠ったほうがいい。顔色が最悪だ。馬車を用意しよう」

 心配で、サナレスは彼女の体温を確かめる。


「サナレス、貴方は本当に悪魔的に魅力がある」

 ムーブルージェは、抱き寄せたサナレスの腕を払った。

 そして胸板を引き剥がし、真っすぐに顔を上げ、サナレスの目を見つめてくる。


「レイトリージェからの伝言、ちゃんと伝えさせて」

 彼女は言った。

 サナレスは少し身を引きながら、ムーブルージェを静かに見つめた。


 ムーブルージェは感情のこもらない声でゆっくりと告げる。

「ーールカが、死ぬかもしれない。だから助けて、サナレス」

 館を出られないレイトリージェからの伝言だと、ムーブルージェが言った。


「死ぬって、どういうこと? ルカは、……確かに、戦地に行ってしまったけれど、……それは爵位を回復して戻ってくるためじゃないのか……?」

 問いかける言葉が不安に囚われ、問い直す言葉が妙に現実味を帯びず、感情がついてこない。


 死ぬかもしれないなんて、受け入れられるはずのない言葉だ。

「ルカはーー」

 死なない。死ぬはずがない。戻ってくる。絶対に。


 ムーブルージェは首を振る。

「私達の父が画策した。敵は一万、呪術士と言えど、八十人の兵で勝てると思う?」

 勝てるわけない。ムーブルージェは言い切った。


「レイトリージェは、なんとかして貴方にルカを止めて欲しいと、私に想いを託したの。私は病の床に伏せっていて、まさか貴方に伝言を伝えられないだろうと、父から見過ごされていたから」


 たった八十名で、一万の兵!?

「嘘だ! ルカはそんなに愚かではない」

 サナレスは反論した。


 それでは死にに行くようなものではないか。

 これが本当ならば、レイトリージェの悲痛な叫び声が、今にも聞こえてきそうだ。


「もし本当なのであれば、止めなければ……」

 サナレスは一点を見据えて、決意する。


 ルカを死なせるわけにはいかない。


「サナレス……。貴方のこの反応は、私には予想できていた。ーーだから、土壇場までここに来ることが躊躇われた」

 ここからはレイトリージェ以外の想いを言わせて欲しい、と彼女は言った。


 もうムーブルージェの体調すら気遣えず、ルカの安否ばかりを案じて震えるサナレスの胸ぐらを、ムーブルージェが掴む。


「サナレス、私を見て」

 儚げな彼女から想像もつかないような、強さに意識が奪われる。


「今からは私の言うことを聞いて」

 ムーブルージェは自分にしがみついた。


 ルカが去って、人肌が恋しい、眠れないサナレスに、飛びついてきた初恋の彼女の体温は、冷えているのに、ほんの少しだけ熱を持っていた。

「レイトリージェが願うように、私がルカを止めなければ、ーーいったい誰が」

 彼を守る……?


 今にも飛び出しそうになるサナレスを、信じられないほど全力でムーブルージェが抑止する。

「状況は伝えた。そうだよね、サナレスならそう行動すると思っていた」

 ムーブルージェは羽のように軽い体重をかけて、サナレスに真向かう。


「でも私は、あなたを行かせない!」

 彼女はサナレスを抱きしめた。


 何をーー?

 戸惑ってムーブルージェを見ると、彼女はじっとこちらを見つめ返してきた。


「ここで王族の力を使ってしまえば、今まで貴方が望んだことが水の泡になる」

 だから、私が行かせない。


「サナレス、私を抱いて」

 信じられないほど、真剣な言葉だった。


 夢の中では、何度か彼女との幸せな時間を味わった。

 彼女がいて、自分がいる。

 神聖な時間だった。

 ーーけれど現実のムーブルージェは、自分に体温が伝わる距離にいて、自分を求め、刹那的に誘惑する。


 所詮は初恋。

 憧れの存在の彼女の対象にすらならないと、どこかで気持ちにケリをつけた。

 この先、生きる場所が違うなら、諦めてしまおうと思っていた。


「行かせたくない。ーー行かせない」

 ムーブルージェはサナレスの衣服を必死で引っ張る。

 引かれた強さで、サナレスは彼女の上に跨った。


 ルカ。

 親友の名前を呼びながら、サナレスは誘惑にあがらえなかった。

 自分が組み敷いた下に、無防備に呼吸する彼女。

 衣服越しに伝わる熱と思い。


 はだけた胸元に吸い寄せられるように、サナレスは屈服した。 

 「自分を行かせない」と言った彼女の強い想いを、サナレスは振り払えない。


 寂しい。

 人肌が恋しい。

 目の前の柔らかい肌を求めていた。


「サナレス、貴方は一族に縛られる人じゃない」

 ムーブルージェはサナレスを抱きしめた。


 これ以上理性を保つことができなかった。

 夢にまで見たムーブルージェが自分を求めてくる。


 彼女の全身を確かめて、彼女の全身を喜ばせたくて、ーーそして制服したい。


「ねぇサナレス。私は貴方が元気ならば、貴方がどこにいってしまっても生きられる。あなたが旅するその世界を一緒に見る夢を創造できる。ーーけれど夢を語れなくなった貴方を見たら、きっと私も死んでしまう」


 例え別々の道を行くことになっても、私は貴方を応援するーー。

 ムーブルージェは言った。

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢18:2020年9月8日


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