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星廻りの夢16「孤独」

一日一章投稿しています。

クライマックスが近づくにつけ、誤字脱字が増え、後の文章の言い回し変更もあるかと思います。

お見苦しい点、失礼します。

        ※

 

 次の日、学院にルカの姿はなかった。


 ラーディア一族から僅か百名のケンリュウスは出陣した。ケリオーは、ルカ・シルヴァ・ラーディオヌ。伯爵家の次男の名前が挙げられた。


 あと半年、天道士になれば実力で爵位を回復することができたというのに、ルカが選んだ道は戦場に出ることだった。


 彼の夢は、一刻も早く爵位を回復して、レイトリージェを手に入れること。


 ラーディア一族を捨て、旅をしよう。

 そう言ってサナレスに約束した舌の根も乾かないうちに、ルカは違う道を進んで行った。

 はなから、ルカの望みはわかっていたことだった。


 百人将のケリオー、危険な隊を率いるなんて、無謀ではないか。

 不安に流行る心を抑えきれず、サナレスは目を閉じた。


「ここのところ、注意が散漫ですね」

 見ていてわかりやすいと、リトウが言った。


「すみません、少し心配ごとが……」

 せっかくヨースケ・ワギから出資の約束を取り付けたのに、いつものように設計図に計画を落とし込めなかった。まだまだ細かい部品作りや、製造工程で足りない物が何かを、順を追って調べていかなければならない。


「ルカ君のことですよね。学院開校以来、無遅刻無欠席の優等生が、今日の講義を欠席しました。私も彼の欠席理由を知っています」

 何度も考えないようにしようと頭を振っても、ルカのことを払拭できない。


「恐ろしいほどの集中力の貴方が、こんなふうになるなんて、よほどのことですね」

 不意にリトウが、サナレスの腕を握った。

 知らず、握っていたコイルを持つ手が震えていて、リトウに握られてやっと振動が止まったことに気付く。


 自分が集中していた時など、ルカが横にいても彼を見ることさえなかったのに、居ても居なくても気にもしていなかったのに。ーー彼がいなくなって、そうではなかったことに気付く。


 ずっと側に居るのが当然だった。

 心ここにあらずで、前しか向かない自分の横で、いつも支えてくれていた存在の大きさを痛感する。


 ああ、心に穴が空いたみたいだ。


「少し、休んだ方がいいです」

 リトウがお茶を入れてくれた。


「こんな調子ではうまくいかないでしょう。今は根幹になる部分を作っているのだし。ーー今日はもう帰って、眠る方がいい」

 入れてくれたお茶が暖かく、リトウからかけられた言葉も胸に響いた。


 けれど唇を白くなるほど噛み締める。


「ーー嫌だ!」

 ルカはルカが選んだ道を進んだ。

 私もそうする。

 サナレスは思った。


 だからこそ自分は休んだりしない。止まったりしない。

 決めたことを、何日かかったってやり遂げてみせる。


「大丈夫です、ここに居て研究を進めます」

 サナレスは言った。

 今はリトウが側にいて、やることがある方が有り難かった。


 神殿内の自室でひとりでいる時間の方が怖かった。

 そう、ーー怖いと言う感覚を初めて知った。


 昨日ルカと別れ、神殿に戻った時、神殿の空虚さはいつにも増してサナレスを打ちのめし、まるで牢獄に繋がれたようだった。


 ルカは伯爵家の爵位を得るために頑張るだけだ。必ず戻ってくるのだから、大丈夫だ。

 わかっているのに、置いていかれたこと、ひとりでいる孤独感に飲み込まれる。


 一晩中、怖かった。

 夜が開けないのではないかと思うほど、長い時間だった。


 口が裂けても、この実験室に寝泊まりしたい。ずっと作業を続けさせてくれなんて、子供みたいに甘え、迷惑なことは言えないけれど、ルカがいなくなったラーディア一族で過ごす夜は、長くて寒い。


「じゃあ、せめて何か温かいものを食べましょう」

 作ります、とリトウは言った。


「こんなこと、私に言われるのは意外かもしれないけれど、生きている限り一番大切なことって衣食住なんです」

 大鍋を取り出して、リトウは食事の支度にかかった。

「皇子の貴方にとっては、美味しくはないかもしれないですが、シチューを作りましょう」


 彼の研究室は何でも揃っていた。

 ソファの上に布団を置いているところを見ると、リトウがここに寝泊まりすることも少なくはない様子だ。


 まな板の上で、玉ねぎを切りながら、リトウは少し懐かしそうに目を細める。


「昔話をしますね。私がこの世界ーー、ここに来た時は当たり前にあったものを全て失くしてしまったんで、ほんとその日食べるものにも困ってしまって。ーーワギ君っいう友達もう1人、カシキ君と言う友達と一緒だったんですが、三人でどうやって生きていけばいいのか分からずに、飢えました」


 次に人参を一定の大きさに切っていく。彼の料理をしている姿は、いつもの実験をしているようにしか見えなかった。几帳面な手つきだ。


「初日はまだ腹が減ったーってレベルだったんですけどね、もともと痩せていた僕は、すぐにスタミナが切れて、餓死寸前になったことがあったんです。僕達は手で虫も殺さないような平和なところから来たんで、食糧調達の方法なんて知らなくて。でも僕が死にかけた時、ワギ君が初めて、動物の命を奪った。彼が初めて僕のために取ってきてくれた肉は、硬くて臭くてーー、でも生きてるってことを実感させてくれた。彼は命の恩人なのですよ」


 だから人は、どんなに苦しい時も食べなければならない。食べなければ、死んでしまうんです、とリトウは言った。


「そんなこと言っていても私、もともと食に貪欲な方ではないので、こうやって学院で給金をもらって安定した生活を手に入れちゃうと、すぐに食べるの忘れてしまうんですけどね」

 ははは、と頭を掻いて笑う。


「先生がこちらに来られたのはいつですか?」

 サナレスの問いをリトウははぐらかした。

「結構昔の話です」


 サナレスは質問の角度を変えてみる。

「じゃあ先生、どうして名前を呼ぶときに、“くん”を付けるんです? 何かの敬称ですか? あと気になることも。アルス大陸では親しいものは名前で呼び合います。それなのにヨースケ・ワギは貴方のことをモリと言っていた。これは貴方たちの国の習慣なのですか?」


 リトウはしばらく考えていた。

「いや、私たちの国でも親しい者同士は名前で呼び合うし、くん付けもしない場合が多いです。ーーまあ、私たちは親しい友人といった間柄ではなかったから」

 そう言ってリトウは苦笑した。

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢16:2020年9月8日

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