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星廻りの夢15「決別」

一日一章、投稿しています。

書くことが好きなので、一章以上の日もあります。


シリーズで言うと長編ですが、一つの話は繋がらなくても完結するように書きます。

そろそろ、起承転結の「転」に突入。

お付き合いよろしくお願いします。


うーん、リアルを捨ててずっと書いていたい。


        ※


 用事を済ませてルカと合流したサナレスは、鼻歌を口ずさむぐらい機嫌が良かった。

 リトウ・モリが紹介してくれた人は、サナレスの夢が叶う可能性を高く見積もってくれたからだ。


 ラーディア一族から自分の力で出ていく方法、ーーつまり自活する道を指し示してくれた。


 先生、先生!

 感謝します。

 こみ上げてくる思いで、走らせる馬の速度が上がった。


 やっと身分を捨てて、ラーディア一族を出ることができる可能性が生まれた。

 王族の第三皇子として失踪してしまうのは簡単だったが、その先の未知の未来は、サナレスとてタイミングを伺っていた。もっと何の考えもなしに、今の身分を捨ててしまえれば簡単であった。それに縛られてしまうには、自身の性格は緻密すぎた。


 地固めをすする。

 ラーディオヌ一族での出会いが、それを可能にした、


 ラーディアへの帰り道、本来であれば明日からまた窮屈な日々が待っていると言うのに、やっと自分が進む道が見えて晴れやかな気持ちになっていた。


「何があったんだ!?」

 馬で併走するルカは、サナレスの嬉しそうな顔を見て首を傾げていた。

 風が心地よかった。

 このまま羽が生えて、どこへでも飛んで行けそうな気持ちだった。


「ルカ、やっと一歩進めるんだ」

 おまえのおかげだ。

 ラーディオヌ一族に連れてこようと言ってくれなかったら、リトウもヨースケ・ワギのことを考えなかった。


「サナレス、ペース上げすぎだ。星光の神殿で休憩を入れるぞ」

「よし、わかった。給水地点まで競争だな」

「こらっ、そんなことは言っていない」

 ルカの話は聞かず、サナレスは前に出た。


 おまえ達も、早くラーディアに戻って、ゆっくりしたいよな。心の中で、サナレスは馬二頭に話しかける。

「さあ、駆けよう」

 サナレスは言った。


 自分のスピードに付いてこれる男など、ルカを置いて他にいない。彼だけが横にいて、気持ちよく駆けさせてくれる。

 サナレスはくすっと笑う。

 彼は先を走られることが嫌いだ。併走か、その前を走るように、前に出てくる。

 サナレスの後方にいるのは嫌なようだ。


「よしサナレス、追いかけてこいよ」

 予想通り、ルカは前を走り、サナレスを煽ってきた。


「抜かせないよ」

 ルカがスピードをあげた


 悪くない!

 サナレスも本気になった。ルカとはいつも、くだらないことでも勝負した。


「一つ文句を言わせろよ」

 駆けながらサナレスは言う。


「ルカ、おまえのせいだ。年度末試験でも引くに引けなかった。おまえが居るから、おまえとの思い出があるから、ラーディア一族のことも大切に思っている」


 ルカとレイトリージェ、そしてムーブルージェの思い出がなければ、自分はもうとっくに、ここにいなかったはずだとサナレスは思った。


 神殿でジウスに問われ、自分が答えたことがずっと心に引っかかっていた。

『例えば、このラーディア一族に、ダイナグラムに敵が攻め入ってきたら、おまえはどうするのだ?』

『逃げます』

 この答えには嘘があった。


 別段ダイナグラムを大事に思っているわけではない。

 ただ自分にも、ダイナグラムに大切な人達との絆が生まれていた。


「サナレス遅いぞ」

 息せき切ってでも、自分の前を走ろうとするルカは、彼との思い出はダイナグラムと自分をつなぐ唯一の楔だった。


 星光の神殿に着くと、日没前に馬を休ませようとする者が数名、集まっていた。

 彼らが口にすることが耳に入ってきたが、ルカはあえて彼らから自分の耳目を遠ざけるように画策していた。


「状況がよくない。しばらくはダイナグラムから出ないほうがいいな」

 行商人らしい者達が、繋いだ馬車の側で話していた。

「けれどダイナグラムが安全だって保証はあるか?」

「大丈夫だろう、神の氏族の地だぞ」

「ドレイク共和国に留まっている一族の次期総帥の戦況は思わしくない」

「ドレイク共和国が落とされたら、1万人の兵がなだれ込んでくるぞ」

 自然と注意を引き寄せられるようなことを話していた。


「サナレス、おまえは聞かなくていい」

 つまらない話だ、とルカが手招きした。


 全ての会話を聞いてはいたが、ルカの意志に従ってサナレスは束の間自分の思考に蓋をしていた。

 生臭い話をするには、目の前の絶景は相応しくないと思って、あえて無視する。


「いい景色だ」

 近寄ると、小高い丘の上にある神殿からの見晴らしは最高だった。地平線に夕日が沈んでいくのが見えた。


「綺麗だな」

 ルカの顔が金色に光った。彼の銀髪の髪も、燃えるように輝いている。


「サナレス、おまえはあの、地平線の向こうまで行ってみたい?」

 微笑みながらルカが聞いた。

「言うまでもない」

 サナレスは答えた。


 風が気持ちよく、髪の毛をなびかせる。

「一緒に来るんだろ?」

 力をつけて、身分を捨てて、誰にも文句を言わせないようにして、こことは違う世界へ行ってみせる。


「ああ。いつでも私は、おまえの前を走ってやるよ」

 サナレスは嬉しくて、泣きそうなくしゃくしゃの笑顔になる。

「まだまだ力が足りず、不自由だけどな。待ってろ」

 そう言いながらも、もうすぐだ、と期待していた。


 サナレスはルカの首にすがりつく。腕を伸ばせば、いつも届く距離に彼がいて、彼の体温が心地良くて、サナレスはほっとした。

 束の間でも満足だった。


 サナレスは知っている。

 レイトリージェが好きだと言ったルカは、ーー絶対に自分とは来ない。

 ムーブルージェに背を向ける自分のように、彼は冷たい人間ではなかった。おそらく生涯、レイトリージェを守り、尽くすだろう。


 望む世界を手に入れようとすると、きっと自分は独りになる。

 独りになっても、見果てぬ夢を追い続けることができるだろうか。


「こら、サナレス。苦しいって」

 ぎゅうぎゅうと後ろ手に、ルカの背中に抱きついて、サナレスは思う。


 今が幸せだと感じるなら、その瞬間を忘れずに、心に刻んでおこう。


 幼馴染みとして育った自分たちは、いつかは別々の道を歩み、大切な思い出は輝きとなる。

 ーーけれど今だけは、永遠に続くと信じていたい。


「サナレス、おまえに言っておきたいことがある」

「ああ」

 なぜだか検討がついていた。


 ーーらしからぬ誘いと、らしからぬ言葉、ルカがここ数日言いたかったことを、今から話すのだろうと覚悟する。

 聞く前に息が詰まって、悶えて死にそうだ。


 言うなよ、ルカ。

 聞きたくないんだよ。


 彼の体温を感じながら願う。

 けれど現実を受け入れなければ、先へは進めない。


「おまえには、言っておかねばならない」

 聞きたくはない。

 けれど受け止めなければならない。


「なんだ?」


「私は明日、兵を率いて出陣する」


「ーーそうか」

 すり抜けていく幸福な時間は、どんなに捕まえようとしていても難しい。

 サナレスは彼の背中に顔を埋める。


「必ず爵位を回復する」

 ルカは、ーールカの夢を語る。

「いいな」


 サナレスは言った。

「私は、おまえの行く道を応援する」

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢15:2020年9月7日

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