星廻りの夢14「商人」
一日一章投稿しています。
今日は天候悪いですね。創作活動日和です。
残り半分くらいでしょうか。
お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
※
飲んだくれた日の翌日、サナレスは小さな宿屋で目を覚ました。
ふと横を見ると、隣に眠っているのは幼馴染みのルカで、慣れない場所でも安心できた。
こいつが居てくれれは、どこへ行っても心強いものだ。
小さい宿の調度品は木製の粗末なものだった。
もし自分の夢が叶って旅に出ることがあるなら、こう言った場所に馴染んで、寝泊りするのだな、と想像した。
部屋全体が、神殿内にあるサナレスの寝台程の大きさだ。
果たしてサナレスの寝台が、この部屋に収まるのだろうか?
客室の扉の小ささを見ながら考えてみると、笑えてきた。壁ごと外さないと入いらないし、中で組み立てるのも不可能そうだ。
こじんまりした部屋の小さな寝台で、昨日はルカと二人ひしめき合って眠っていたため、身体が痛い。上背がある二人が寝ると、手足は当たるし、ベットからは落ちそうになるしで大変だった。
それでも清々しい朝。
サナレスは上機嫌だった。
昨夜ルカが言ったことを思い出すと、嬉しくて仕方がないのだ。
例えその場の勢いで彼が調子を合わせただけだとしても、真面目一辺倒で、貴族とはこうあるべきだと模範生のようなルカが、一族や身分を捨て、自分と一緒に来ると言った。
嘘じゃないよな?
サナレスはまだ眠っているルカの鼻を摘んだ。
自分に酒を勧め、彼も一緒に飲んではいたが、ルカ自身は日頃酒など飲まないようで、先に酔いが回ったのは彼の方だった。そしてまだ当分起きてきそうにない。
夜の民と言われるラーディオヌ一族の朝は、人のほとんどが活動しておらず、静かなものだ。深夜遅くまで賑わい、明け方眠りにつくのが当たり前の日常だと聞いていた。
リトウからもらった場所に、行ってみたい。
すっかり目を覚ましてしまったサナレスは、しばらくルカが起きないかを見守っていて、痺れを切らした。
ルカと2人で未知の世界を旅できる未来を思い描くと、気分が高揚して体を動かしたかった。もう少しルカを寝かしておいてやって、その間にリトウが行けと言った場所を訪ねればいい。
思いつくと居ても立っても居られなかった。
サナレスは書き置きを残して、宿屋を出た。
宿屋には番頭もおらず、馬小屋に人もいない。
自分の馬二頭が繋がれている環境を見て、サナレスは顔をしかめた。
「せっかくここまで連れてきてくれたのに、扱い悪いよなぁ」
馬に近づき、頬擦りしながら、サナレスは自分の馬達に挨拶した。
きっちりと清掃されていない馬糞の匂いが漂うそこにサナレスは愚痴た。このような劣悪な環境に自分の愛馬を一泊させたことを申し訳なく思った。
よしよしと鼻の頭を撫で、「用事を済ませてくるから、ちょっと待っていてな」と馬を置いて出かけることにした。今日中にラーディア一族に戻ることになる。せめて足だけでも休ませてやりたい。
リトウの書いた地図は正確だった。
彼はさらさらとこの地図を書いてサナレスに手渡したところを考えると、随分とタロの街並みに精通しているようだ。
リトウは彼の古い友人、ヨースケ・ワギという人に会って、見たこともない文字で書かれた内容の手紙を渡すように言った。
学園内でも変わり者で有名なリトウの友人とはどんな人物なのか、サナレスとしては興味があった。
昨夜夜市が開かれていた公園には、もうすっかり人の姿はない。賑やかにしていたことを物語るように、所々清掃しきれなかったゴミが溢れていた。
公園を右手に見て、裏路地を進む。そして突き当たりを右へ、サナレスは伸びをしながら、歩いて行った。
ダイナグラムと違って舗装されていない赤土の道路は、水を吸って固まっている。5階建くらいの似た作りの集合住宅に、いったい何人が暮らしているのだろう。
景色が違うなぁ、と思った。
「ここか……?」
地図による場所にたどり着くと、一軒の店舗があった。
ガラス窓などはなく、煉瓦造りの二階建ての建物。一見すると普通の民家にも見えるが、一枚の看板がかかっている。材質は桐だろうか、白い木で出来た看板はドア横に縦に吊るされ、炭一色で武器屋と書かれている。
リトウの知り合いにしては意外なものを売っていると思った。薬草や鉱物等の商いをしている者ならしっくりきたが、武器とはずいぶん物騒だ。
「ごめんください」
怖いもの知らずのサナレスは、探究心のまま無造作に扉を開けた。
瞬間、ぶわっと前髪が焼けるような熱が伝わってきた。それと共に、むせ返るような植物の匂いがする。
なんだこの店は!?
店内のありとあらゆる所に、浅い水受けと針山があり、そこには色とりどりの花が刺さっている。
ラーディア一族でも花は飾るが、見たこともない飾り方だった。段違いに切られた花々や緑の葉は、計算されたように部屋を飾っている。そして人工的な熱量が皮膚を焦がす。
その奥に一人の男の背中が見えた。
外観からは想像ができないほど、奥に広い店舗だった。
何か作業をしていたようだが、人の気配を察して彼は振り返った。
「お兄ちゃん、もうすぐ閉店の時間だよ」
男は見たこともない衣装を着ていた。真っ白い、腰まで襟がある前開きの服に、太い帯は背中で飾るため几帳面に折られている。ーー確か和装という類の服だと、本で見たことがあった。
「悪いけど今、花を切る鋏を作っていてね。遊女に持っていく花なら、そこら辺のを適当に持っていってくれていいけど、ーーこの時間じゃもうどこの店も閉店してるよねぇ?」
この店に来た用途を勘違いしているらしい。
武器屋と看板を見たけれど、花屋なのだろうか、とサナレスは首を傾げた。
「ん?ラーディオヌの民じゃないんだ?」
作業をしながらサナレスをチラッと見た彼は、屈んだ姿勢のままで、大きくて薄い唇の端を上げて笑った。
「そういう貴方も、ラーディオヌ一族の民とは少し違うようにお見受けしますが」
肩越しで切った黒髪と、漆黒の瞳はラーディオヌの民にも見えるが、醸し出す雰囲気が異質である。
「貴方がヨースケ・ワギですか?」
「いかにも」
彼は1メートルほどある火を焚いている炉の前から、熱の塊を取り出した。風呂桶のような四角い炉から、炎が覗いている。
作業をやめて立ち上がると、サナレスよりも上背があった。肩幅も大きく、骨格もしっかりしている。長い腕で頭をかいて、サナレスの方に近寄ってきた。
「何か用?」
まあ座ったら、と席を勧められ、サナレスは整えられた応接に座った。
「リトウ・モリから、これを預かってきました」
サナレスは手紙を渡した。
ヨースケは沸かした湯を、先端が長く伸びた金属でできた急須のようなものに注ぎ入れ、八の字の形をしたガラス細工の上の方に、ゆっくりと注いでいく。上に注がれた湯は、黒い粉を通り、茶色い色を出して落ちて行った。
「いい匂いだ」
香ばしい香りがして、サナレスはそれがラーディオヌ一族に伝わる珈琲という飲みものだと気がついた。
ヨースケはゆっくりと湯を注いでいく間、片手でサナレスが渡した手紙に目を通していた。そして少しサナレスを見る。
ヨースケは白い陶器のカップに珈琲を入れ、サナレスに差し出した。腰を下ろした彼も、同じようにそれを口にする。
「モリの知り合いか? あいつは今何をしているんだ?」
手紙の内容には触れず、ヨースケは聞いてきた。
「ラーディア一族の学院、シリウスで教授をされています」
「雇われているのか?」
「ええ着任されてから、もう5年は学院にいると伺いました」
あいつらしい、とヨースケは笑った。
「先生とはどのようなご関係なのですか?」
「同じ国出身の旧友だ」
ヨースケは端的に説明した。
サナレスは出された珈琲を一口飲んだ。
苦いっ!
昨日のビールといい、この一族は味覚が苦味に強いらしい。サナレスは手の甲で口元を押さえた。
「この手紙によると……」
そう言ってヨースケはサナレスを値踏みするように見る。
「君は電気を作り出せる人らしい。しかも小さいものじゃなく、大きな電気エネルギーを。ーーモリが言うのだから、間違いないだろう」
リトウ・モリからの手紙の内容を、初めて聞かされた。
自分の計画を彼に知らせると言うこと、ーーそれは彼が仕組みを理解できる人、そして賛同するものだと言うことを意味する。
「ーーで、君は私に何をもたらす? それから何が必要なんだい?」
真っ直ぐに問われたことに、サナレスも躊躇せずに答える。
「私に投資して欲しい。これが望みです。その代わり電気ができれば、私が貴方の生活にも電気を供給して、生活を一変させましょう」
無駄な言葉の一切を省いて、サナレスは交渉した。
「悪くない」
ヨースケは言った。
「電気の供給は世界を変える。貴方がそれを実現した折には、私に富と財をもたらす。永久に尽きることのない、金のなる木を植えるわけだ。面白い、乗らない手はない」
ーーただし、とヨースケは条件を出した。
「武器商人の今の私でも、さすがに貴方が必要な資金の半分を出すのはやっと。残りの出資人は、貴方自身で見つけてもらわないとね。サナレス殿下」
貴方ならできるでしょう、と彼は笑った。その後の条件については、全ての資金繰りができたときに、リトウ・モリを交えて、もう一度話し合うことになった。
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」
星廻りの夢14:2020年9月7日




