[Arc 2] 第十七話:パキッ (Chaat!)
同じ秒刻みの中、アキラが幽閉されたあの悍ましい悪夢の世界では、悍ましいカオスが未だに吹き荒れていた。アキラは未だにヒナの容赦のないレーザー攻撃から必死に回避を続け、一方ブランコでだらしなく揺れているマラは、不快な問いかけを執拗に重ねていた。
マラはブランコを軽く前後に揺らしながら、アキラに向けて憐れむような視線を向けた。
— 気の毒になぁ、少年……。だが、お前のその特殊な能力は、本当に他人の頭をひどく痛ませる性質のものなんだよ。だからこそ、ここからお前が何事もなかったかのように el払い( elを振って)脱出することなんて、この俺が許すはずがないだろ。手がかりなんて甘い期待は捨てるんだな、無駄に呼吸を消費するだけさ。
アキラは激しく歯を食いしばった。
— そんなのは理不尽だ!
マラはアキラに向けて、まるで世界で最も愚鈍な人間を見るかのような目を向け、鋭い嘲笑を響かせた。
— ひひひ……当然だろ、理不尽に決まってるじゃないか! 俺たちは敵同士なんだぞ、一体何を期待していたんだ? ひひひ……。
アキラは奴の言葉を完全に黙殺し、再びヒナに向けて絶叫した。
— ヒナ! 頼むから正気を取り戻してくれ! 俺だ、アキラだ! 俺の目を見てくれ、お前はこんな奴じゃない! お前は聡明で、誰よりも優しい女の子だ、こんなふうに盲目的に襲いかかってくるはずがない!
アキラは「方向」の力を発動してヒナの行動半径を限界まで締め付け、その両肩を強固に掴み取って激しく揺さぶった。しかし、方向のベクトルの持続時間が切れたその刹那、ヒナは何の感情の欠片も見せず、アキラの顎に向けて尋常ではない威力のアンダーカット(アッパー)を叩き込んだ!
*ズゴォォン!*
アキラはその強烈な衝撃のまま数メートル後方へと激しく吹き飛ばされた。ブランコに腰掛けたマラはその光景を目にするや、歓喜に大笑いし、アキラの声音を真似て嘲った。
— お前はこんな奴じゃない、ヒナぁ、頼むから正気を取り戻してくれぇ! ひひひ……。哀れな道化( serseri)め!
アキラの顔は純粋な怒りのあまり真っ赤に染まっていた。
— 好き勝手にほざいていろ、クソ野郎……。ヒナをここから救い出し、現実の世界に戻ったその時は、お前のその不快な面に特大の拳を叩き込んでやる!
マラの顔に、陰湿で、悍ましいサディスティックな笑みが浮かんだ。
— ここを出た後、お前がまだ正気を保っていられたらの話だがなぁ……。歓迎するよ少年、待っているさ。ひひひ……。
アキラはその不吉な言葉に強い疑念を抱いたが、思考を繋ぎ止める猶予は残されていなかった。ヒナの容赦のないレーザー連撃が再び幕を開けたからだ。この悪夢の監獄のなかで時間が猛烈な速度で流れる中、ブランコに揺られていたマラの肉体が、突如としてゆっくりと半透明に透過し、消失し始めた。マラは自らの手首(時計)に目をやり、にやりと笑った。
— ああ……俺の制限時間が来たようだな。少年、お前に一つだけ小さなヒントをやるよ……。ここから生きて脱出できるのは、ただ一人( tek bir kişi)だけだ!
マラはその言葉を言い残すのと同時に、あの悍ましいせせら笑いとともに完全に消失した。アキラは通りの中心に取り残され、脳裏には奴の最期の一言が狂ったように反芻していた。
(ただ一人だけが生きて脱出できる、だと……?)
ヒナの致命的な猛攻は留まるところを知らなかった。アキラは「おいマラ! 戻ってこい! ヒナをどうやって元に戻すのか説明しろ!」と虚空に向けて絶叫した。脱出の道を見出すべく、彼は街の境界線へと向かって真っ直ぐに疾走した。しかし、通りの果てに到達したその瞬間、目に見えない強固な障壁(壁)に激しく衝突し、後方へと跳ね返された。アキラは歯を食いしばった。
(境界はここまでか……。走って逃げることすら許されていないというわけか)
ヒナは執拗にレーザー爆発を放ち続けていた。アキラは空中で幾度も前転を繰り返してその打撃を紙一重で回避しながら、自らの頭脳を極限まで働かせた。
(考えろ……ここで何が起きている? まさかヒナは今、俺のことを敵か何か恐ろしい怪物( canavar)として見認めているのか? だが、もしそうであるならば、ヒナは異常なほどに聡明な人間だ。一切攻撃を仕掛けず、防御に徹している怪物を見れば、立ち止まって不審に思うはず……。なのに奴はまるで人形のように、何の反応も見せずに攻撃を繰り返してくる。その瞳は完全に空っぽだ……)
アキラは「方向」の力を用いてヒナを一時的に壁際へと固定した後、猛烈な速度で高層ビルの屋上へと跳び、間合いを引き離して自らの頭を両手で抱え込んだ。
(マラは何と言っていた? 『お前たちのうち一人しか生きて出られない、誰もこの戦いを止めることはできない』と言ったんだ……。クソ、思考が完全に停止している! もしここにレイのような奴がいてくれたなら、あのふざけた頭脳でこのルールを数秒のうちに解き明かしていたはずだ。間違いなく俺のことを『こんなことも分からないのかよ、本当にお前は mankafaだなアキラ』と思いっきりからかっていただろうな、容易に想像がつく……。いいだろう、すべての可能性を精査しろ。昏倒する前、現実の世界で俺は右目に打撃を受けていた。だが、ここに映る俺の影には何の手負いもない。目の前にいるヒナは彼女自身ではなく、まるで完全に操られた人形だ……。そしてマラが、一人しか出られないと言っているのなら……。奴がヒントを隠そうとも、ルールは極めて明白だ。ここから脱出するためには、ヒナと命がけで戦い、彼女を完全に消滅( yok etmek)させる他ないんだ!)
アキラは深く息を吸い込んだ。
(一度下方へ跳び、奴に少し痛覚を与える程度の衝撃を与えてみよう。痛みを感じれば、何らかの反応を示すかもしれない……)
彼は屋上から下方へと滑空した。ヒナが放つレーザーを空中で「方向」の力を用いて強引に逸らし、彼女の至近距離へと肉薄した。方向の収束を用いてその両腕を完全にロックし、正気を取り戻させるためにその腕を強くつねった。
— 痛むか!? 痛むならすまないヒナ、お前を目覚めさせるためだ! と彼は叫んだ。
しかし、ヒナの顔には塵ほどの苦痛の表情も浮かばなかった。彼女がとった行動は、アキラの方向の拘束から逃れようと、ただ機械的に身体を暴れさせることだけだった。アキラは強烈な戦慄とともに後方へと飛び退いた。
(やはり、肉体の苦痛に対しても何の一反応も示さない……。ならば、一撃の強烈な拳で完全に意識を刈り取る他に道はないのか)
アキラは自らの右腕に対して、前方への猛烈な「方向の加速( ivmesi)」を付加し、その拳に自らの全出力を収束させてヒナの身体へと突撃した。しかし、その拳が炸裂するまさに最後の瞬間、アキラの心がそれを拒絶した。彼は直前で自らベクトルの向きをミリ単位で急激に逸らし、ヒナの耳のすぐ真横の虚空に向けて拳を放ったのだ! 拳が引き起こした凄まじい衝撃波が建物の壁を粉々に吹き飛ばす一方、アキラが自ら作り出したその致命的な隙を捉え、ヒナの容赦のないレーザーがアキラの腹部へと完全に直撃した!
*ズゴォォン!*
アキラは凄まじい速度で後方へと吹き飛ばされ、冷たい土の上へと激しく叩きつけられた。彼の両目から大粒の涙が溢れ出し、苦痛と絶悔のなかに激しく feryat(絶叫)した。
— できない……。これが現実であろうと偽物であろうと、俺はヒナを傷つけることなんて絶対にできない! できないんだ……! 自分が愛し、大切にしている人間を、この手で殺す( öldüremem)ことなんて絶対にできない!!
アキラは「方向」の力を用いてヒナの身体を強引に遠くへと弾き飛ばし、通りの角にある安全な影の中へと命からがら逃げ込んだ。彼は大急ぎで自らの腹部を確認した。レーザーが直撃したその場所には、白く、奇妙に輝く「穴( delik)」が穿たれていた。
(痛みがない……。鮮血( kanama)も流れていない……。だが、打撃を受ける度に、俺の肉体の至る所に白い亀裂( çatlaklar)がパキパキと広がり始めている……。俺の限界が近い……)
ヒナの容赦のないレーザー連撃は、通りを一瞬にして焦土へと変えていった。アキラはどうしようもなく縦横無尽に回避を繰り返しながら、この悪夢の zindan(檻)の中で、自らの内なる声と狂ったように叫び続けた。
(これは現実じゃない……。俺が今経験していることは、完全に偽物だ! sahte(偽物)でなければならないんだ!!)
自らの精神を強引に納得させるため、彼は再びヒナに向けて突撃し、拳を構えたが、やはり最後の刹那に自らの意思で軌道を外した。
— できない!!
彼はそう絶叫し、地面へと無残に崩れ落ちた。自らの拳を激しくコンクリートへと叩きつけながら、彼は大粒の涙を流して慟哭した。
— もし、これが本物( gerçekse)だったら、俺はどうすればいいんだ!? 偽物だと自分に言い聞かせようとしている、でも、俺の手元には100パーセントの確証( kanıt)が何もないんだ! 怖いんだ……。誰か、誰か俺を助けてくれ、頼むから!
しかし、彼のその悲痛な救求の叫びに対して、返ってきたのはヒナの無慈悲なレーザー爆発の嵐だけだった。アキラは回避を続けたが、すでに彼の肉体の全表面には、深く、白い亀裂が網の目のように広がっていた。精神の許容量は完全に限界を迎えていた。
— ヒナ……頼むから、そこにいるなら何か言葉を返してくれ! 俺と話してくれ、お願いだ……。俺はお前を、絶対に傷つけたくないんだ……。
その完全なる絶望の深淵の中、アキラの脳裏の最深部で、かつて警察署の食堂でレイと交わした、あの何気ない、日常の他愛もない会話が突如として鮮烈に鳴り響いた。
***
脳裏に蘇ったあの記憶のなかで、レイはテーブルで本を読みながら、アキラに向けて声をかけていた。
— なあアキラ……。そこにあるリンゴ( elma)を、一切れ切って俺にくれよ。
アキラは不機嫌そうな視線を向け、言い返した。
— 自分で起きて切れよレイ、お前には手足がついていないのか?
— 頼むよ友よ、俺たちは友達だろ。今、本の最高に面白いところなんだ。一切れ切ってくれたって死にやしないだろ?
アキラは深くため息をつき、テーブルの上にあった赤いリンゴを手に取ると、キッチンのカウンターにある包丁立て( bıçaklığa)の方向へと歩みを進めた。レイは本から顔を上げ、不思議そうに尋ねた。
— 何をしてるんだ、アキラ?
— 見れば分かるだろ? お前は本当に天才なのか……。包丁( bıçak)を取りに行くだけだ、素手でリンゴを切れるわけがないだろ?
レイは陰湿ににやりと笑いながら、問いかけた。
— へえ……。だったらさ、どうしてお前は、その手の中にある「方向」の力を使って、リンゴを真っ真っ直ぐ(真ん中から)二つに切り裂かないんだ?
アキラはその記憶の中で、言葉を失って沈黙していた。
***
マラの創り出した精神世界の中に佇むアキラは、脳裏に鳴り響いたこの古い記憶とともに、突如としてその動きを完全に停止させた。ヒナから自らに向けて放たれた強烈なレーザー攻撃を、「方向」の力を用いて最後の瞬間に強引に逸らす。彼の両目に宿っていたあの Çaresiz(絶望)と恐怖に満ちた色は一瞬にして完全に消え去り、そこには深く、氷のように冷徹な、絶対の真剣味( ciddiyet)が満ちていった。
アキラはゆっくりと後ろを振り返った。両目から溢れる涙が冷たい土の上へと滴り落ちる中、彼はヒナに向けて確固たる足取りで歩みを進めた。ヒナがまさに新たなるレーザーを放とうとしたその刹那、アキラは「方向」の力を尋常ではない神速で発動した。片手でヒナの肉体を、もう片方の手で彼女の頭部を、互いに正反対の方向のベクトル(軸)へと強固に固定した。
彼は両目を強く閉じ、顔を涙で濡らしながら、その唇からただ一言の悲痛な叫びを吐き出した。
— すまない……。
アキラは「方向」の力を自らの限界を超えて限界まで絞り出し、正反対の軸へと向かう絶対の命令を強制発動させた。
*グシャッ!*
暗黒の監獄のなかに激しく響き渡ったその鈍い骨折音は、アキラの脳裏において、まるで一本の鋭い包丁が、熟した赤いリンゴを真ん中から真っ直ぐに「パキッ」と切り裂いた瞬間のあの鮮烈な音へと反転していた。そして、マラの創り出した悪夢の檻は、凄まじい轟音とともに木っ端微塵にひび割れて崩壊し、辺りはすべてを包み込む純白の光の奔流へと変わっていった。
***




