第十一話:黎明の嘘 (The Lie of Dawn)
ダイゴは深く刺し貫かれた脚の負傷にもかかわらず、その場に毅然と立ち続けていた。地中から這い上がってきたシロバラは不敵に笑った。
— ああ、クソ痛えなぁ……。
彼はダイゴの脚を貫いたその棘の先端から、滴る鮮血をゆっくりと舐めとり、恍惚とした声でつぶやいた。
— フーム……恐怖の味がする。
子供たちは絶望に声を震わせた。
— ダイゴ先生!
ダイゴは全身に冷や汗を流しながら、鋭い声で子供たちを制した。
— 俺を見るな、目の前の敵に集中しろ!
そう叫び、彼はシロバラを睨み据えて問い詰めた。
— シロバラ、お前の能力は「植物操作」だが……無から有を生み出しているわけではないな?
シロバラはわざとらしくパチパチと拍手してみせた。
— その通り!
彼は手のひらに乗せた一粒の種を掲げ、地面から一掴みの土を取ってその中へ包み込み、猛烈な速度で成長させてみせた。
— 俺はサイドの退屈な時間を圧縮して加速させているだけさ。これらは普通の植物じゃない。いくつかの植物の特性を組み合わせ、実験を重ねて作り出した特殊な種さ。その主成分はね……「薔薇」なんだよ。
ヒナは恐怖に耐えながら尋ねた。
— だったら、なぜ今になってそんなことを説明するの?
— なぜかって? それはね、ここからが最高の「楽しい時間」に突入するからさ! とシロバラは狂気的な笑みを浮かべた。
次の瞬間、アキラ、ヒナ、アカネの足元の地面から、無数の鋭いつるが突如として突き出した。アキラは自身の「方向」の力を限界まで絞り出し、アカネとヒナの身体を強引に安全な場所へと吹き飛ばした。ダイゴもまた、凄まじい速度でアキラの身体を突き飛ばした。
アキラの視界が一瞬にして完全に真っ暗に染まった。耳の奥では、低く唸るような、しかし刺すように鋭い金属音が激しく鳴り響いていた。激しい苦痛に襲われながら、アキラがゆっくりと目をあけると、まず自身の脚に深く突き刺さった鋭い棘が視界に入った。
(痛い……)
彼は心の中で小さく呻いた。
ゆっくりと首を持ち上げ、
「ダイゴ先生、ありがと――」
と言いかけたその瞬間、アキラの目は言葉を失った恐怖で大きく見開かれた。
目の前に立ちはだかるダイゴの巨躯は、見るも無残に、完全に粉々に引き裂かれていた。無数の鋭いつると棘が、彼の肉体を幾度も突き刺し、貫き通していたのだ。アキラ、ヒナ、アカネはその凄惨な光景の前に、完全にショック状態に陥った。アキラの視界は激しく歪み、底知れぬ恐怖が全身の血を凍らせていく。耳の奥では、遠く狂ったように響く笑い声と、自分を必死に呼ぶヒナの絶叫が、ひどくこもった雑音のように聞こえていた。アキラはただ、目の前で大笑いしているシロバラを、目に涙を浮かべ、深い絶望を宿して見つめ続けることしかできなかった。
アカネの胸の内に、純粋な怒りが爆発した。彼女は自身の全存在をかけるように、今までで最も巨大な腕を作り上げた。渾身の力でシロバラへ殴りかかろうとしたまさにその瞬間、シロバラは容赦なく伸ばしたつるでその巨大な腕を強固に捕らえた。そして、その身体を虚空で一回転させ、アカネの右腕を無慈悲にねじ折った。骨が肉の中で粉々に砕け散る鈍い音が響いた。アキラがヒナの方へ目をやると、ヒナもまたアカネに起きたその凄惨な悲劇を目にして、完全に正気を失った恐怖に囚われていた。その瞬間、地中から跳ね上がったつるがアキラの顎へ強烈な一撃を見舞った。アキラの身体は冷たい土の上へと激しく叩きつけられた。アキラは凄まじい恐怖と怒りに突き動かされ、どうにか立ち上がろうと泥を掴んだが、肉体の限界と、あまりにも過酷な精神的崩壊が彼の許容量を遥かに超えていた。意識が急速に遠のき、彼はそのまま深い闇へと昏倒した。
シロバラは不満そうに、つまらなさそうに地面の土を蹴り飛ばした。
— ちぇー、なんだよぉ。ここからが一番大好きなシーンだったのにさ。この二人はあっさりと気絶しちゃうんだもんなぁ、本当につまんないの。もっと遊べたのにさ……。
その時、地面を這いずりながら、必死にアキラの元へと手を伸ばしようとしているヒナの姿が視界に入った。シロバラは奇妙な歌を口ずさみながら、楽しそうにスキップしながら、ヒナのすぐそばへと近づいていった。ヒナの視界はすでに昏睡の直前まで暗転しかけており、全身を耐えがたい激痛が襲っていた。しかし、彼女の霞む瞳が捉えていたのは、ただ一つ、冷たい地面に横たわるアキラの意識のない身体だけだった。彼女はただ、彼へと手を届かせようとしていた。
シロバラが彼女の前にしゃがみ込み、ヒナはその不気味な顔を間近に見つめて恐怖に身体を震わせた。シロバラはただ、微笑んでいた。まるで、天気のいい日に公園で友達と無邪気に遊んでいる子供のような、純粋で残酷な笑みだった。シロバラの口元が動き、何かを彼女に語りかけていたが、ヒナの耳にはもうその言葉は意味をなさぬ雑音にしか聞こえなかった。
その時、シロバラの視線が突如として、全く別の方向へと向けられた。ヒナは最後の力を振り絞り、彼の視線の先へと目を向けた。黒い森の深い闇の奥に、輪郭すら定かではない「漆黒の影」が静かに佇んでいるのが見えた。ヒナは、自身の命をすべて燃やすように、その影に向けて最後の咆哮を上げた。
— 逃げて!
そう叫んだ瞬間、彼女の意識は完全に途切れ、深い暗黒へと崩れ落ちた。
***
レイは未だに激しい疲労を色濃く残したまま、サトシの横の芝生に横たわっていた。しばらくの後、長い回廊の奥からジン先生が足を引きずりながら歩いてきた。彼女の肩には、リンの真っ黒なカラスが静かに止まっていた。ジンは地面のレイを見下ろし、厳しい声で尋ねた。
— レイ、お前は何をしている?無事か?
— 大丈夫ですよ、大丈夫。ようこそ、先生。あーあ、どうせ目を覚ますなら、先生の顔じゃなくてアカネの顔を見たかったなぁ。またからかって怒らせてやれたのにさ、とレイは折れた指の痛みに耐えながら、うっすらと微笑んでみせた。
ジン先生の表情が鋭く引き締まった。
— ハハハ、面白い冗談だな……。他の奴らはどこへ行った?
— ダイゴ先生のところですよ。裏の丘の森の中にいます。かなり前から、一切の音が聞こえなくなってました。俺もすぐに助けに行きたかったんですけどね、このザマじゃ大した戦力にはなれないと思って、ここでこうして寝てたんですよ、とレイは言った。
ジンは彼の肩にそっと手を置いた。
— 素晴らしい、正しい判断だ。俺は子供たちとダイゴの様子を見てくる。
レイは上体を起こし、地面から立ち上がった。
— 待ってくださいよ、先生。俺も行く。アキラがあの化け物にボコボコにされてる無様な姿を拝んで、思いっきりからかってやらなきゃ最高に割に合わないですからね、と言って、彼は自身の砕けた指を無理やり噛み合わせ、鋭い音を響かせた。
*パチン!*
レイの瞬間移動の力が発動し、二人は一瞬にして裏の丘の平坦な場所へと到達した。 And、目の前に広がっていた凄惨な光景の前に、二人は完全に言葉を失って衝撃に凍りついた。丘の上には、シロバラの姿はどこにもなかった。ただそこに転がっていたのは、ダイゴの無残に、そして凄まじい狂気によって引き裂かれた、冷たい骸だけだった。ジン先生の胸の内に、一気に凶暴な怒りが爆発した。彼女は傍らの巨木を殴りつけ、地面を荒々しく蹴り上げ、そのまま戦友の前に崩れるようにひざまずいた。
— どうしてだ……どうしてこんな姿になっちまったんだ、ダイゴ!?
レイは一瞬にしていつもの仮面を失い、取り乱した声で教師へ向けて叫んだ。
— 先生、アキラが、アカネが、ヒナがいません! 三人とも、確実にこの戦場にいたはずです!
ジン先生の目が鋭く見開かれた。
— 何だと……!? お前、本当に周囲をよく見たのか!?
まさにその時、彼らの背後の木々を押し分けて、トマとリンが大急ぎで駆け込んできた。
— 先生! ジン先生! アキラとヒナ、それからアカネが、警察署の医務室に突如として出現したんです! でも、三人とも意識を完全に閉ざしたまま昏睡しています!
ジンは怒り狂って怒鳴り散らした。
— なぜ、もっと早くカラスを使わずに、そんな無線や通信のような手段で報告しなかったんだ!?
トマは顔を青くして答えた。
— 実際に試したんです! でも、なぜか今は警察署内のすべての電子機器や技術システムが完全に遮断されていて、何一つ機能しないんです! 妨害されています!
リンが言葉を重ねた。
— トマが変異を教えてくれたから、私は一刻の猶予もないと思って、イワと一緒に走って先生の元へ情報を届けにきたんです。
ジン先生は激しい怒りとともに地面へ唾を吐き捨てた。
— チクショウ、なんてこった! クソッタレが!
ジン先生は自身の『特殊クラス』の爆発的な速度で、警察署へと向かって跳んだ。レイもまた、折れた指の激痛を無理やり押し殺して指を鳴らし、トマとリンを伴って教師の後を追った。
彼らは激しく医務室の扉を開け放った。ジン先生はベッドの子供たちの姿を目にし、どうにかわずかな冷静さを取り戻した。ベッドの周囲には警察署の治療師たちが群がっており、その治療の最中、ヒナとアカネがゆっくりと、重い瞼を開いた。今見ているものが夢なのか、それとも残酷な現実なのか、二人の頭脳は混濁して判断がつかなかった。ジン先生は震える両腕で二人を強く抱きしめ、その目には大粒の涙がたまっていた。
— すまない……お前たちの傍にいてやれなくて、本当にすまなかった、みんな……。
ヒナは自身の痛む身体を省みず、即座に隣のベッドに横たわるアキラへと視線を向けた。
— アキラは……アキラはまだ目を覚まさないの?
レイは部屋の暗い隅から、いつもの生気のない、無表情な声で静かに答えた。
— いや。治療師たちが今も全力を尽くしている。
それから二十分の時間が経過した。
アキラは突如として、喉を引き裂くような巨大な叫び声を上げ、全身から激しい冷や汗を噴き出しながら跳ね起きるように目覚めた。彼の呼吸は激しく乱れていた。彼は凄まじい恐怖のまま、即座に自身の脚へと視線を落とした。そこにあの悍ましい「穴」が空いていないことを確認すると、途ామని(途方もない)安堵とともに、深く長い息を吐き出した。
— 夢だったのか……。
その時、ベッドの傍らに腰掛けていたヒナが、アキラから静かに視線を逸らし、消え入りそうな声でつぶやいた。
— 目覚めたんだね……アキラ。
アキラはどうにか、いつものように微笑もうとした。
— ああ、目覚めたよ。すごく、酷い悪夢を見たんだ。
ヒナは静かにベッドから立ち上がった。
— ここで待ってて。他のみんなに、あなたが無事なことを知らせてくるわ。
そう言い残し、彼女は医務室の外へと歩き去っていった。
ほどなくして、第6部隊の全員がアキラのベッドの周囲へと集まった。アキラは乾いた喉でつばを呑み込み、怯えるように尋ねた。
— 何があったんだ、みんな……? 先生、どうしたんだよ。なんでそんな顔で俺を見てるんだ?
トマ、ヒナ、リン、そしてアカネは、誰一人としてアキラの目を見ようとせず、静かに視線を逸らした。部屋の中には、息が詰まるような、あまりにも重い沈黙が満ちていた。レイだけが、窓ガラスの反射越しに、アキラのその姿をじっと見つめ続けていた。
ジン先生は深く、重い息を吸い込み、逃げ場のない真実を直接彼に告げた。
— ダイゴが死んだぞ、アキラ。
アキラの思考が完全に空白のなかに停止した。彼は開発(言葉)を失い、ただ口元を震わせることしかできなかった。
— どういうことだ、死んだって……。じゃあ、あの森の中で俺が見たものは、一体……。
ジン先生は、逃げることを許さない強い視線をアキラの瞳へと真っ直グに突き刺した。
— そうだ、アキラ。お前があの場所で見たものは、すべて現実だったんだ。
その絶対的な回答を耳にした瞬間、アキラの肺からすべての酸素が失われ、息が完全に止まった。精神を根底から破壊するほどの途方もない心理的ショックに襲われ、彼はベッドの端から la(這い出る)ように身体を折り曲げると、胃の中のものを凄まじい勢いで床へと激しくぶちまけた。
彼の両目は純粋な恐怖に染まり、震える両手で自身の顔を覆い隠した。終わりなき不安、狂おしいほどの後悔、そして底知れぬ深い悲しみが彼の心と肉体のすべてを完全に支配していく中、アキラの周囲の世界は、ゆっくりと、しかし確実に、冷たい漆黒の暗黒へと沈み込んでいった。
彼の意識が、その完全な空白のなかに消え去り、昏倒していくまさにその最後の瞬間、彼の魂の最深部から、血を吐くような凄惨な内なる声が激しく響き渡った。
「全部……全部、俺のせいだ!!」
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