第九話:0.91秒 (0.91 Seconds)
アキラはトマの部屋でチームとの会話を続きながら、ポケットから時計を取り出した。その瞬間、彼の目は驚きで見開かれた。
— おお、もう夜の4時30分近いじゃないか! もうそれぞれの部屋へ戻ろう。
全員で部屋を出て廊下へ足を踏み入れた瞬間、彼らは警察署が不思議なほど死んだような静けさに包まれていることに気づいた。廊下の照明は不穏に、かすかに揺らめいていた。まさにその時、向こうの廊下から2部隊の先生であるダイゴがゆっくりと、重い足取りで彼らの方へと歩いてきた。
— おや、子供たち? お前たちはまだ寝ていなかったのか?
アキラは驚いて答えた。
— 寝ていません、先生。トマの部屋で少し話していました……何か問題があるんですか? どうして警察署はこんなに静かなんです?
ダイゴ先生の顔は非常に真剣だった。
— 素晴らしい、寝ていなくてよかった。まさにそのことをお前たちに伝えに来たのだ。警戒しろ。そして今夜は交代で眠るんだ。警察署は今、完全に空っぽだ。
ヒナは恐怖を宿した声で尋ねた。
— どういうことですか、先生? 空っぽだなんて。
ダイゴは説明した。
— 市の中心部で非常に大きなテロ攻撃と騒動が起きた。1部隊と3部隊は、あのつるの謎を調査するためにすでに外へ出ている。残りの現役警察官は、4部隊と5部隊を含めて街を守るため支援に行った。お前たちの先生であるジンも、俺と一緒にいたが、あの戦闘の招集がかかった途端、一番前へ飛び出していった。警察署を襲われる可能性に備えて守るため、俺と数人の元素警察官をここへ残した。つまり今この警察署には、俺と数人の当番、そしてお前たちしかいないのだ。
***
同じ頃、静まり返った警察署の外門の前に二つの影が現れた。警備小屋の元素警察官は外の足音を聞き、顔を出した。しかし、彼がその能力を使う暇さえなく、闇の中から飛び出した鋭い棘のあるつるが喉と胸を容赦なく引き裂いた。警察官は血を吹き出しながら地面へ崩れ落ちた。
影の一人が警備小屋の明かりの中へ足を踏み入れた。赤いバラの模様が入った紫色のローブを身にまとっている。漆黒の髪が肩へ垂れていた。こいつが、例の指名手配の殺人犯だった。隣には黒いマスクで顔を隠し、作業服を着て真っ白な靴を履いた共犯者が立っていた。紫色のローブを着た男シロバラが、黒いマスクの男サトシへ尋ねる。
— なあ、サトシ……。ワクワクしてるか?
サトシは落ち着いた表情でシロバラへ向き直った。
— いや……それほどでもないよ、正直。俺たちの仕事をさっさと終わらせて、すぐ家に帰りたいね。
シロバラは腕を胸の前で組み、不満そうに言った。
— でも、それじゃあ面白さがどこにも残らないじゃないか?
サトシは気にせず肩をすくめ、危険な光を目に宿して重い扉へ目を向けた。
— 俺は自分の仕事を終わらせたらすぐ帰る。それ以外はどうでもいい。
***
ダイゴ隊長はアキラたちの目の前で話していたが、突然その言葉を止めた。周囲の重苦しい空気が一瞬にしてさらに重くなった。ダイゴの堂々とした身体の毛が一斉に逆立った。その瞳が一瞬で虎のような鋭いものになり、彼は警察署の一階へ厳しく視線を向けた。
— ここで待ってろ、子供たち。どうやら歓迎できない客がいるようだ。
言い終えるやいなや、ダイゴは凄まじい速度で走り去った。アキラたちは驚く。
— ダイゴ先生、どこへ行ったんだ?
と言い終わるより先に、突然背後の丘から巨大な音が響き、辺りは一瞬にして土煙に包まれた。
全員が驚きに固まる中、レイが声を張った。
— エモ、トマ! お前たちはここに残って、他の先生たちに連絡を試みてくれ!
レイは一切ためらうことなく手を伸ばし、アカネ、アキラ、ヒナを自分と一緒に3回連続で瞬間移動させ、一階へとやって来た。目の前には白い靴を履き、顔を黒いマスクで覆ったスーツ姿の男が立っていた。彼が独り言を言っているのが聞こえた。
— あの虎、完全に狂ってやがる。まあ、シロバラが俺から引き離してくれて助かった。あいつは狂っていて、何をしてるのか全然分からないからな。
男はこちらを見ると驚いた。
— 何、子供たちだと!? 情報をくれた奴、間違った情報を流しやがったな……。おい、お前たち、ここは危険だ。さっさと離れろ!
レイが前へ飛び出して両腕を広げた。
— へえ、ここは俺に任せてくれ。
アキラが突然前へ出た。
— 何を言ってるんだ、頭でもおかしくなったのか? 俺たちはチームだ。さっき一緒にいるって言っただろ!
レイは冷や汗をかきながら状況を分析して説明した。
— 心配するな。俺はもう昔みたいに弱くない。それに弱かった頃だって、お前たちよりは強かったってことを思い出してくれ。あいつの話し方を見る限り、殺すことには積極的じゃないし、戦うこともあまり望んでいない。いい可能性で考えれば、俺を倒したら放してくれるかもしれない。それにあいつのそばには葉っぱがある。つまり俺たちが探していた奴と一緒に来たってことだ。精度虎先生がそいつと戦っている、お前たちは行って先生を助けろ。最悪の場合は俺が瞬間移動して逃げる。でもお前たちにはそれができないだろ。
白い靴の男が話した。
— へえ、子供たち。本当に俺と戦うつもりか?
男が言い終えるやいなや、自身の特殊クラスの能力で、自分とまったく同じ姿のクローンを19人、突然目の前に呼び出した。合計20人対4人の圧倒的な対峙になった。
— 20対4だ、本当にいいんだな?
ヒナは後ろへ下がった。
— レイ、危険だよ! あの人も特殊な力を持っている!
レイは鋭くにやりと笑った。
— 面白いだろ。お前の名前は何だ、おっさん? それに20対4なんて不公平だろ。20対1が一番いいと思うぜ。
男はマスクの裏で驚いたのが分かるように、軽く笑った。
— ああ、怖がると思ってた。俺の名前はサトシだ。
レイは指を鳴らしようと構えた。
— 俺の名前はカガミ・レイだ。子供たち、ここは俺に任せろ。さっき言った通り、負けそうになったら逃げるからな。
アカネが尋ねた。
— いい可能性って言ったけど、悪い可能性は何だ?
— 俺のズボンとパンツが穴だらけの状態で負けることさ! とレイはウインクして言った。
アキラ、ヒナ、アカネがその場を離れ、レイ対サトシの大激戦が幕を開けた。レイは一切待たず、一体のコピーへ瞬間移動してパンチを放った。しかしパンチを受けたコピーは水風船のように弾け、別のコピーが生まれた。レイはアガったら( afallar)、後ろへ瞬間移動した。
サトシ uzaktan(遠くから)声をかける。
— フーム……。その指鳴らしはどういう仕組みだ? それがないと能力を発動できないみたいだな。
— かもな、とレイは答えた。
レイは再び指を鳴らし、一番近くにいた5体のコピーを5メートル上空へ瞬間移動させた。コピーたちは重力に引かれて激しく落下し、5体とも地面で弾けた。サトシはさらに5体を作り出して話した。
— お前の力、少し変わっているな、坊や。でも、こんなやり方じゃ俺には勝てないぞ。
コピーたちはレイを次々と襲い、絶えず瞬間移動を強いた。サトシはコピーたちの背後から話し続ける。
— なあ、名前はレイだったよな? どうして5体のコピーだけを上へ飛ばした? どうして全員じゃない? 気分が乗らなかったのか、それとも限界があるのか? それに、どうして5メートルなんて高さを選んだ? 確かに高いが、人を殺したり大怪我させたりするような高さじゃない。落ち方が悪くても、せいぜい手首か何かをひねるくらいだ。君の限界が分かってきたぞ、少年。指を鳴らして瞬間移動できる。半径5メートルで、最大5人。俺が正しければ、そういうことなんだろ?
レイは怒って「しゃべりすぎだ!」と叫び、話しているコピーへきれいなパンチを叩き込んだと思った。しかし、そのコピーも弾けた。その中へ突っ込んできたコピーの一人がサトシの声で言った。
— お前レイ、これちょっと短気すぎないか?
サトシはもう一体コピーを作った。レイは驚き、心の中で考えた。
(どうして他のコピーは話せない? 話せたなら、心理的に俺を追い詰めようとするはずだ。でも、後ろにいた奴を殴ったら、他のコピーと同じように弾けた。どういうことだ?)
サトシは続けた。
— 子供、どうして今殴った奴が本物の俺じゃないのに弾けたんだって考えてるんだろ? そうだろ? 教えてほしいか? 条件が一つある。あのマスクを発明した奴がここにいるって聞いた。そいつの命はいらない。今までそいつが書き溜めてきたノート(メモ)と、マスクを何枚か俺たちにくれ。
サトシは手を差し出した。レイは鋭くにやりと笑った。
— へえ、それだけか?
— ああ、頭のいい子は好きだ。話は合いそうだな。それらを受け取ったら、約束通り俺たちは――
レイは瞬間移動して言葉を遮り、サトシを殴った。しかし殴ったコピーはまた弾けた。レイは後ろへ飛び退いた。
— そんな簡単に通れると思うな! トマにとって大切なノートに、お前みたいな奴の手を絶対に触れさせるもんか!
サトシは重いため息をついた。
— この頃の子供たちは、どうしてこんなにガキ(熱くなりやすいの)なんだ……。
と言いながら、連続して激しい攻撃を仕掛けた。レイはコピーを倒すたび、話すコピーへ意識を集中させた。
(手がかりが一つ必要だ。コピー屋は話すこと以外にも何か手がかりを出すはずだ!)
と必死に考えた。
そして何かに気づいた。しかし、その問題に集中しすぎたため、別のコピーに背後から捕まって地面へ叩きつけられた。すぐに他のコピーたちがレイの指を押さえつけ、指鳴らしをできなくした。9体のコピーに乗られたまま、レイは必死にもがいて逃げようとした。
サトシは腰の軍用ナイフ( bıçak)を取り出し、ゆっくりと彼へ近づいてきた。
— 俺の言うことを聞いていれば、こんな面倒にはならなかったのにな、坊や。お前の限界はほとんど1秒だろ? つまり正確には0.91秒だ。指を鳴らしたあとに必要な時間。その間に瞬間移動できる場所へお前を配置しておけば、誰かに捕まったとき、お前は終わりだ。俺の能力の秘密を解くことに集中しすぎて、自分の足元に気づかなかったな。
サトシはナイフをレイへ見せた。レイの目は恐怖で震え、叫んだ。
— 放せ! 汚い手を俺からどけろ!
サトシがナイフを胸へ突き刺そうとした瞬間、レイにとって時間が遅くなったように感じられた。頭の中で叫び声が響く。
(死にたくない、死にたくない!)
レイは死ぬほど、 can havliyle(死ぬ物狂いで)**みずからの指を折り**、そのわずかな隙間から鋭い指鳴らしの音を作って瞬間移動に成功した。コピーたちから離れた場所へ落ち、目の涙を拭いながら叫んだ。
— もう一度来い!
レイは素早くコピーを一体弾けさせた。サトシは驚いた。
— 速くなったみたいだな……。
と言いながら新しいコピーを作る。その時レイは、折れた指の痛みで外してしまい、叫んだ。
— 外した!
サトシは心の中で(無駄だ)と思った。レイは瞬間移動せず、普通のパンチでコピーの一体を殴ろうとした。サトシが心の中で(無駄だ)と思っている間、レイは殴る寸前に折れた指を無理やり鳴らした。
*パチン!*
レイはコピーたちの後ろにいた本物のサトシの目の前へ現れ、本体へきれいで強烈なパンチを叩き込んだ!
*ズゴォォン!*
サトシの意識は半ば朦朧とした状態で地面へ倒れた。本体が意識を失うと、部屋にいたすべてのコピーが一斉に弾けて消えた。レイは素早くサトシにマスクを装着し、庭の木へ縛りつけた。疲れ果てたように、そのそばの芝生へ横になった。
少し意識を取り戻したサトシが、そばで横になっているレイへ尋ねた。
— 俺が本物だって、どうやって気づいたんだ、少年?
レイは目を閉じ、折れた指を押さえながら説明した。
— 簡単じゃなかった。最初は話すコピーが一体だけいて、他は話さなかった。最初は完全な偽装で、俺にそいつへ集中させようとしているんだと思った。でも考えてみたんだ。いい偽装だったとしても、20体全員を喋らせて俺の頭へ入ろうとしたら、俺から考える力を完全に奪えただろ。だから話していた奴が本物かもしれない。でも、それはただの理論だった。最初からそれだけを考えて飛び込んだわけじゃない。
サトシは息を呑んだ。
— じゃあ、どうやって分かった?
レイは目を開けることすらせず、顔に意地の悪い笑みを浮かべて続けた。
— 気づいたんだ。コピーを一体弾けさせるたび、新しい奴が出てくる。でもコピーは俺のそばにも現れられるはずなのに、いつも後ろにいるコピーの中から一体が出てきた。注意深く見て確信した。新しいコピーを作るたび、その下の影が普通よりちょうど1.5倍大きくなっていたんだ。そして影が大きくなるたび、俺がお前を殴ろうとすると、その影は俺が殴る前に別のコピーへ移っていた。見間違いじゃないことを確かめるため、何度か試した。実際に理論が正しいと確認できた。後ろに立って、ささやきながら話している影のコピーにも気づいたから、もう100パーセント確信していた。でも認めてやるよ。お前には完全にやられた。もう少しで死ぬところだった。助かったあと、瞬間移動せずにお前のコピーを殴ったのは、その次の外した攻撃でお前のマスクから小さな欠片を取るためだった。そうしたことで、その欠片のおかげでもう一度、コピーの中で唯一違う存在がお前だと分かったんだ。
サトシは驚きを隠せず、ゆっくり頭を後ろへ倒して苦い声でつぶやいた。
— どうやら本当に俺も年を取ったらしい……。新世代は速すぎる。
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