第41話 ダンジョン崩壊と人々の悲鳴
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォン……!
足元から、地響きのような激しい揺れが伝わってきた。
アヴァロンの転送プラットフォームの床に亀裂が走り、周囲の美しい雲海が、赤黒いノイズのような霧に包まれていく。
「アルス、大変よ! ダンジョン全体のシステムが完全に暴走しているわ!」
セレナが空中を指差す。
彼女の指す先には、数え切れないほどの赤いエラーメッセージのウィンドウが、空間を埋め尽くすように展開され、不規則に明滅していた。
「主様、下層から……何万もの魔物の足音が聞こえます! みんな、地上に向かって走っています!」
ルナが耳を地面につけ、青ざめた表情で立ち上がった。
「初期化の準備フェーズ……システムモンスターの強制排除プログラムか」
俺は唇を噛んだ。
ダンジョンの深層に眠っていた神話級の魔物たちが、システムの自己防衛プログラムによって強制的に実体化され、活性化している。彼らは文字通りの津波となって、ダンジョンの上層――地上の王都へと向かってなだれ込んでいるのだ。
これまでにない規模の大氾濫。もしこれが王都に到達すれば、地上の人々は防ぐ術もなく蹂躙され、24時間後の初期化を待たずして世界は滅亡してしまう。
「旦那様、どうするんだ!? このままコアに突入するか?」
クララが大盾を握りしめて俺に尋ねる。
「いや、一度地上へ戻る。24時間の時間があるなら、まずは拠点の防衛と人々の安全を確保するのが先決だ。仲間や無関係な人々が死んでしまっては、たとえアヴァロンを手に入れても何の意味もないからな」
「分かりました! 主様!」
俺は転送ゲートのコンソールを操作し、管理者権限で緊急転送プログラムを上書き実行した。
「ゲート、強制接続! 王都ギルド前広場へ転送!」
眩い青い光が俺たちを包み込み、次の瞬間、視界が一変した。
「いやあああ! 魔物が、魔物が街に入ってきたぞ!」
「助けてくれ! 誰か、誰か助けて!」
耳を劈くような悲鳴と怒号。
転送された先は、まさに地獄絵図だった。
王都の防壁はすでに一部が瓦解しており、そこから赤く目を光らせた神話級の魔物『ガルム』や『鉄甲巨兵』が、街の中へと侵入しつつあった。
逃げ惑う一般市民たち。そして、彼らを守るはずの冒険者たちは、異常活性化した魔物の圧倒的な力の前に、武器を砕かれ、次々と地に伏していた。
かつて俺を無能と見下していた他の冒険者たちも、今はただ無様に逃げ惑い、泥にまみれて泣き叫んでいる。
「あ、あれは……アルスか!?」
地面に這いつくばり、片腕を血に染めた冒険者の一人が、俺たちを見上げて驚愕の声を上げた。
「あのクランバトルで無双した、アルスのクランだ……! 帰ってきたのか!?」
周囲の絶望に満ちた冒険者や市民たちの視線が、一斉に俺たちへと集まる。
「みんな、俺の後ろに下がれ! ここは俺たちが食い止める!」
俺は一歩前に出て、声を張り上げた。
「ルナ、遊撃を頼む! 街に入り込んだ個体を瞬殺しろ!」
「はい、主様! ――『神速の白影』、起動!」
白銀の鎧をまとったルナが、一瞬にして音を置き去りにして消えた。次の瞬間には、街の中に入り込んでいた3頭のガルムの首が同時に宙を舞う。
「セレナ、防壁の瓦解した部分に向けて、障壁魔法を頼む!」
「任せて。精霊界の風よ、敵を押し戻しなさい! ――『風壁旋風』!」
セレナの放った翠の暴風壁が、瓦解した防壁の隙間に展開され、押し寄せる魔物の群れを力ずくでダンジョン側へと押し戻していく。
「そしてクララ! 本番だ! お前の盾で、この街の門を守り抜くぞ!」
「おうよ、旦那様! ウチの絶対防盾を見せてやる!」
クララが崩れかけた防壁の最前線へと走り込み、オリハルコンの巨大盾を地面に突き立てた。
俺はクララの背中に右手をかざし、魂のパスを最大出力で接続した。
「魔改造バフ、接続! 盾の防御性能、および結界範囲――『十倍』!」
俺の魔力がクララの盾『神匠 of 絶対防盾』へと流れ込み、凄まじい黄金の光の奔流となって吹き荒れるのだった。




