第38話 温泉地帯での甘い休息
「ふはあ……っ! 生き返るぞ……!」
クララの極上のため息が、湯気の中に響き渡った。
第95層。
そこは、周囲の岩肌から温かい蒸気が吹き出す、不思議な温泉エリアだった。
これまでの過酷な戦闘と長旅の疲れを癒やすため、俺たちは温泉が自噴している天然の石窟で、一時的なキャンプを張ることにしたのだ。
クララが『神匠の加護』のスキルを応用し、岩盤を削って男女の仕切りを完璧に構築。湯加減もバフ魔導具で調整した、極上の天然露天風呂が完成していた。
もちろん、仕切りがあるため、俺は一人で男湯側に浸かっているのだが……。
「旦那様ー! お湯加減はどうだー?」
仕切りの向こうから、クララの元気な声が聞こえてくる。
「最高だよ、クララ。完璧な温度だ。ダンジョンの中でこんな贅沢ができるなんて、思ってもみなかったよ」
「ふふん、ウチの技術にかかれば、温泉の温度管理なんて朝飯前だぞ!」
「アルス、のぼせないように気をつけてね。冷たいお水なら、シルフに頼んでいつでも用意できるから」
セレナの気遣う声も聞こえてくる。
「ありがとう、セレナ。大丈夫だよ」
「主様! もしよろしければ、私がそちらに行って背中を流しましょうか!?」
ルナの爆弾発言に、お湯の中で思わずむせてしまった。
「ぶほっ!? い、いや、ルナ、それは大丈夫だから! 自分のペースでゆっくり浸かってくれ!」
「えー、残念です。主様の背中、流したかったのに……」
ルナの残念そうな声に、仕切りの向こうでセレナとクララが「ちょっとルナ、抜け駆けは許さないわよ!」「そうだぞ! 旦那様の背中を流すのはウチの役目だぞ!」と騒ぎ出すのが聞こえ、俺は苦笑いした。
お風呂から上がり、クララがお手製で造ったコットンの寝巻きに着替える。
肌触りが良く、少しお風呂上がりの熱が残る身体に心地いい。
ランタンの柔らかな光が灯るテントの中で、俺が木製のベンチに腰掛けていると、すぐに三人が集まってきた。
「主様! お風呂上がりの主様の隣は、私の指定席です!」
ルナが髪を生乾きのまま、俺の右側にぴったりと身体を密着させて座ってきた。ふんわりと石鹸の甘い香りが漂い、ルナの温かい体温がダイレクトに伝わってくる。
「あ、ずるいわ、ルナ。……アルス、私もいいかしら?」
セレナが少しだけ顔を赤くしながら、俺の左側に腰掛けた。そして、そっと俺の左腕を両手で抱きしめる。
「セレナまで……。なんだか、お前たち、今日はいやに積極的だな」
「お風呂上がりだし、アルスがとってもいい匂いがするから……仕方ないじゃない」
セレナが視線を泳がせながら、さらに腕の抱きしめ方に力を込める。
「おいおい、ウチを仲間外れにするなぞ許さないぞ!」
クララがトコトコと走ってくると、俺の背後から背中にぴょんと飛び乗ってきた。
「おっと、クララ、危ないぞ」
「へへ、旦那様の背中はウチの特等席だ! あったかくて、すっごく落ち着くぞ……」
クララが俺の首元に顎を乗せて、満足そうにふにゃりと笑う。
右にはルナ、左にはセレナ、背中にはクララ。
まさにハーレム状態だが、彼女たちの純粋な好意と温もりが、ただただ愛おしい。かつて無能と罵られ、雨の路地裏で一人震えていた俺が、今ではこんなにも大切な存在に囲まれている。
「みんな……ありがとう。俺は、みんなと出会えて本当に幸せだ」
俺がしみじみと言うと、三人はそれぞれ身体をすり寄せてきた。
「私も、主様に救われてから、毎日が本当に幸せです」
「アルスが私の世界を静かにしてくれた。だから、私の心はあなたのものよ」
「ウチもだぞ、旦那様。ずっとずっと、旦那様の盾として側にいさせてくれよな」
彼女たちの温かい声と、柔らかい身体の感触を感じながら、俺は誓う。
この神話の迷宮を制覇し、アヴァロンを起動させる。
かつて自分を見捨てた世界を驚かせるような、最高の空中都市で、ずっとこうして一緒に暮らすんだ。
「よし、明日はさらに奥へ進むぞ。今日はこのまま、みんなで一緒に寝ようか」
「はい、主様! 一緒に寝ます!」
「……ええ、アルスの腕の中なら、良い夢が見られそうだわ」
「ウチは旦那様のお腹の上で寝るぞ!」
賑やかで甘い夜は更けていき、俺たちの絆は、さらに強く結ばれるのだった。




