第31話 アヴァロンの鍵の秘密
「ふぅ、やっぱりうちのご飯が一番だな」
「主様、おかわりはありますからね! いっぱい食べてください!」
犬耳を嬉しそうにパタパタと揺らしながら、ルナが大皿に盛られた肉料理を差し出してくれる。
「アルス、私の特製スープも飲むべきよ。精霊たちも美味しいって保証してくれているわ」
セレナが少しだけ頬を染めながら、木製のお椀に温かいスープを注いでくれる。
「おいおい、旦那様、ウチが作った魔導オーブンで焼いたパンも忘れないでほしいぞ!」
クララが小柄な体で焼き立てのパンが入ったカゴを誇らしげに掲げた。
クランハウスの食堂は、温かい光と美味しそうな匂いに包まれている。
元パーティー『金色の獅子』のレオたちとのクランバトルに完全勝利し、彼らの卑劣な不正をすべて暴露して社会的・肉体的に破滅させてから数日。
俺たちは、あの忌々しい因縁から完全に解放され、平穏な日常を取り戻していた。
「みんな、ありがとう。本当に美味しいよ。こうして四人で囲む食卓が、俺にとっては一番の宝物だ」
俺がそう言うと、三人はそれぞれ嬉しそうに表情を和らげた。
「主様と一緒にいられるなら、私はどこまでもついていきます!」
「……まあ、私もアルスの側にいるのが一番落ち着くしね」
「ウチも旦那様の盾として、一生添い遂げる所存だぞ!」
かつては奴隷として虐げられ、傷だらけだった少女たち。
俺の『契約魔改造』スキルで奴隷紋をバフ接続パスへと改造し、ステータスを十倍にバグらせた最強の従者たちだ。
彼女たちの笑顔を見るたびに、前世のブラック企業で酷使され、この世界でも無能と追放された過去がすべて洗い流されていくような気がする。
だが、俺たちの旅はここで終わりではない。
俺は懐から、クランバトルの勝利報酬として手に入れた『浮遊石』を取り出し、テーブルの上に置いた。
それは淡い青色の光を放つ、透き通った結晶石だ。
「旦那様、それってやっぱりただの浮遊石じゃないのか?」
クララが興味深そうに顔を近づけて、大きな瞳を輝かせる。
「ああ。クララが言っていた通り、通常の魔道具に使われる浮遊石とは、魔力の波長が決定的に違う」
「私にも、その石から微かに聞こえる声が、通常の精霊の囁きとは違うように感じるわ。まるで、何か機械的な、規則正しい音が繰り返されているような……」
セレナが耳をすませながら、不思議そうに呟いた。
「主様、その石に触れると、なんだか体の奥がピリピリします」
ルナが獣耳を警戒するようにピンと立てる。
「そうだろうな。これは、この世界のシステムそのものと深く繋がっているんだ」
俺は浮遊石にゆっくりと手を伸ばした。
指先が結晶の表面に触れた瞬間、頭の中に馴染み深いテキストが流れ込んできた。
『警告:未確認の端末からアクセスが検知されました』
『認証プロセスを開始します……』
『デバイスID:A-V-A-L-O-N_KEY_01』
『管理者スキル:契約魔改造を検知』
『権限レベル:デバッグ/管理者(Level 9)』
『ステータス:接続待機中。天空都市アヴァロンへのゲートアクセスを許可します』
やはり、俺の目に映る文字列は、この世界の言語(ルーン文字)ではない。
前世で何度も見せられた、コンピュータのプログラムコード――それも、デバッグ用のコンソール画面そのものだった。
「やっぱりだ……。この浮遊石は、神話の迷宮の最深部に眠るとされる空中都市『アヴァロン』の起動キーだ」
「アヴァロン……。おとぎ話に出てくる、かつて神々が住んでいたとされる浮遊都市のことですか?」
ルナが不思議そうに首をかしげる。
「ああ。伝説ではそう言われているが、実際は古代の超テクノロジーで造られた巨大な浮遊建造物らしい。この石はその都市を制御するための『管理者キー』なんだよ。そして、俺のスキル『契約魔改造』は、その都市やこの世界のシステムに直接アクセスして、設定を書き換えるためのデバッグ権限だったんだ」
「デバッグ? カンリシャケンゲン?」
クララが小難しい単語に首を傾げた。
「簡単に言うと、この世界のルールを少しだけ書き換えられる特別な力だ。俺がみんなの奴隷紋を改造して、ステータスを十倍にできたのも、その権限を使ってシステムバグを起こしたからなんだよ」
「なるほど……。アルスのその不思議な力は、神様が残した世界の管理ツールのようなものだったのね」
セレナが納得したように頷く。
「そうだ。そしてこのアヴァロンを起動できれば、地上のどんな国やギルドからも干渉されない、俺たちだけの完全な空中要塞――本当の意味での『絶対的なマイホーム』が手に入る」
俺の言葉に、三人の目が一斉に輝いた。
「地上のしがらみから完全に隔離された空中都市……。それは素敵ね。誰にも私たちの絆を邪魔させない、本当の楽園だわ」
セレナが夢見るように微笑む。
「ウチの鍛造技術と、旦那様のバフがあれば、その天空都市を世界一の要塞に改造できるぞ! ワクワクしてきた!」
クララが両手を握りしめて興奮する。
「私も、主様と一緒に青い空の上で暮らしたいです! そこなら、悪い人たちに主様が狙われることもありません!」
ルナが身を乗り出して、俺の手を両手でしっかりと握りしめた。
「よし、目標は決まりだな。神話の迷宮の最深部を攻略し、天空都市アヴァロンを俺たちのマイホームにする。そのためには、これからさらに深い階層へと挑む必要がある。誰も到達したことのない未踏領域だ」
俺が力強く宣言すると、三人は力強く頷いた。
「はい! 主様の剣として、どんな敵も切り開いてみせます!」
「私の精霊魔法で、立ちふさがる障害をすべて塵にしてあげるわ」
「ウチの絶対防御の盾で、旦那様とみんなを傷一つつけずに守り抜いてみせるぞ!」
頼もしい仲間たちの言葉に、胸が熱くなる。
クランバトルで得た資金と、クララが魔改造したクランハウスの設備。
オフィスで得たアヴァロンのキー。
すべての準備は整った。
俺たちは明日から、神話の迷宮の第80層以降――『神話の領域』と呼ばれる深層への攻略を開始する。
どんなに強力な魔物が待ち受けていようと、俺たちの十倍バフの絆があれば恐れるものは何もない。
「じゃあ、明日に備えて今日は早く休もう。ルナ、美味しかったよ。片付けを手伝うよ」
「あ、主様! 片付けは私たちがやりますから、主様はゆっくりしていてください!」
「そうよ、アルスは今日一日、キーの解析で頭を使ったでしょう? 少し休んで」
「旦那様、ウチが肩を揉んであげるぞ!」
三人が甲斐甲斐しく俺の周りに集まってくる。
温かい笑顔と、彼女たちの柔らかな感触に包まれながら、俺は次の旅への決意を新たにするのだった。




