第26話 罠の上を歩く者
「旦那様! レオのやつらが、ダンジョンの下見と称して、何か怪しい工作をしているぞ!」
クランバトルの前夜。
クララが地下工房のモニター(魔導投影機)を指差した。
画面には、クララが放った超小型の魔導偵察虫が捉えた、ダンジョン『黒鉄の迷宮』の内部映像が映し出されていた。
そこには、レオがギルドの買収された汚職職員に金を渡し、俺たちが通る予定の第3エリアの岩肌に、黒い不気味な石を埋め込ませている姿がバッチリと記録されていた。
「あれは……『魔力妨害石』ね。範囲内の魔力供給を完全に遮断し、魔法やバフを強制解除する違法な呪道具よ」
セレナが映像を見つめ、不快そうに顔をしかめた。
「なるほど。俺の『付与魔術』を無効化し、セレナの精霊魔法を封じて、戦闘不能にするつもりか。どこまでも卑劣な男だな」
俺は映像を魔石にダビングし、満足そうに頷いた。
「バッチリ撮れてるぞ、旦那様! ギルド職員が袖の下を受け取って、妨害石を設置した瞬間も完璧だ!」
クララが嬉しそうに端末を叩いた。
「これだけの物証があれば、明日の勝負の最中に、ギルド本部の特設会場にある大スクリーンへ直接映像を投影(生中継)できるわね。アルス、本当に頭がいいわ」
セレナが感心したように俺を見つめた。
「前世で、会社のライバルが俺のプレゼン資料を盗もうとした時、事前に監視カメラを仕掛けて、全役員の前で防犯映像を流した時の応用さ。相手が勝ったと確信して油断している瞬間こそが、最も効果的なんだ」
俺がそう言うと、ルナが誇らしげに胸を張った。
「さすが主様です! 悪知恵に関しては、あのレオたちなんて主様の足元にも及びませんね!」
「悪知恵って言うな、ルナ。これは正当な自己防衛だよ」
俺は苦笑いしながら、彼女の頭を撫でた。
ルナは嬉しそうに犬耳を伏せて目を細めている。
「よし、明日はクララの絶対防御の盾『神匠の加護』で、魔力妨害の影響を物理的に反射・遮断する。あんな石、俺たちのバグバフの前にはただの小石に過ぎない」
「任せとけ、旦那様! うちの盾で、妨害ごと跳ね返してやる!」
クララが力強くスコップを掲げた。
こうして、すべての準備が整った。
レオたちは自分たちが優位に立っていると信じ込み、明日の勝利を確信しているだろう。
明日、彼らが味わう絶望の深さを想像すると、少しだけ楽しみになってきた。
俺たちの勝利は、すでに約束されていたのだ。




