第23話 闇からの忍び寄り
深夜の静寂に包まれたクランハウス。
王都の郊外にあるこの屋敷は、鬱蒼とした森の入り口にあり、夜になると周囲は完全な暗闇に支配される。
雲が月を覆い隠し、光が一切届かなくなったその瞬間、森の影から四つの黒い人影が音もなく滑り出してきた。
全身を黒い忍び装束で包んだ男たち。裏社会で恐れられる暗殺ギルド『黒い蛇』の暗殺者たちだった。
「フン、ここが噂の『無能クラン』の屋敷か。大層な結界が張られていると聞いたが、大したことはないな」
リーダーの暗殺者が、屋敷の周囲に張られた薄い障壁を見つめ、冷笑を浮かべた。
彼らの手には、あらゆる魔力結界を一時的に無力化する特殊なアーティファクト『消魔の楔』が握られていた。
「アルスの首を刎ね、三人の奴隷にあの『隷属の魔毒薬』を投与する。死体は地下室に隠し、明日の朝にはレオのクランハウスへと娘たちを連行する。手はず通りにいくぞ」
「了解」
部下たちが静かに頷き、それぞれの暗殺短剣を引き抜いた。刃には、触れただけで象をも即死させる劇薬が塗られている。
暗殺者たちは足音一つ立てず、庭の芝生へと侵入した。
消魔の楔を地面に突き刺し、結界に小さな亀裂をこじ開ける。
「よし、結界の突破に成功した。屋敷の一階の窓から侵入するぞ。抵抗する奴隷は手足を切り落としてでも無力化しろ」
リーダーが手信号を送り、窓枠へと手をかけた。
クランハウスの内部は、静まり返っている。
アルスたちは二階の寝室で、何も知らずに眠っているはずだ。
暗殺者たちは、勝負が決まったと確信していた。これまで数多くの高位貴族や凄腕の冒険者を暗殺してきた彼らにとって、Fランクのクランを暗殺するなど、赤子の手をひねるより容易い仕事だった。
だが、彼らは気づいていなかった。
自分たちが足を踏み入れた芝生の下に、信じられないほど精密な「魔導回路」が張り巡らされていることに。
窓枠に触れた男の指先が、ピクリと小さく震えた。
その瞬間、クランハウスの庭全体が、淡い青い光の格子模様によって包み込まれた。
「――なっ!?」
暗殺者が驚愕の声を上げる暇もなかった。




