第19話 暴風と白牙の乱舞
「ここが『青水晶の洞窟』か……。綺麗だな」
洞窟の入り口を一歩入ると、薄暗い内部のあちこちから、淡い青い光を放つ巨大な結晶群――青水晶が突き出していた。幻想的な光景だが、空気は冷たく、魔物の気配が奥から漂っている。
「主様、前方に複数の魔物の反応があります。大蜘蛛の群れです」
ルナが耳を動かし、鋭く告げた。
暗闇の奥から、ガサガサと嫌な音を立てて現れたのは、体長二メートルはある巨大な結晶蜘蛛――Cランク魔物『クリスタル・スパイダー』の群れだった。その数、およそ二十匹。硬い水晶の甲殻を持ち、触れるものを引き裂く鋭い脚をうごめかせている。
「二十匹か……。普通のBランクパーティーでも、囲まれれば撤退を考える数だな」
俺は冷静に戦況を分析した。
「アルス、私にやらせて。新しい杖の威力を試したいの」
セレナが前に出た。
「よし、セレナ。魔力付与を上乗せする。【付与魔術:魔力充填】」
俺がセレナの肩に手を置くと、彼女の魔改造杖『精霊王の息吹』の精霊石が、眩い純白の光を放った。魔力バフ十倍のバグ補正が牙を剥く。
「いくわよ! 吹き荒れなさい、風の精霊たち!【風刃暴嵐】!」
セレナが杖を振ると、洞窟の内部に凄まじい暴風雨が吹き荒れた。
吹き抜けた風の刃は、大蜘蛛たちの硬い水晶の甲殻を紙切れのように切り裂き、さらに洞窟の頑丈な岩壁をも削り取りながら、一直線に奥へと突き進んでいった。
轟音と共に土煙が上がり、風が収まった後には、大蜘蛛たちの姿は影も形もなく、ただの細かい魔石の破片となって地面に散らばっていた。
洞窟の壁には、巨大な風の爪痕が深く刻まれている。
「……すごいな。初級の風刃魔法が、完全に地形を変えるレベルの極大魔法になっている」
俺が苦笑いしながら言うと、セレナは嬉しそうに杖を抱きしめた。
「ええ! 精霊たちが、もっと暴れたいって私の頭の中で楽しそうに歌っているわ!」
「キーーーッ!」
不意に、上空の岩肌から、生き残っていた一匹の巨大な蜘蛛の王――『クリスタル・クイーン』が突進してきた。その巨大な牙が、セレナの頭上へと迫る。
「セレナ姉ちゃん、下がれ! うちは絶対に破らせないぞ!【金剛障壁】!」
クララが巨大な盾を掲げ、前に出た。
俺はすかさず彼女の盾に防御バフを付与する。十倍の障壁が展開された。
ズゴォオオオオンッ! と凄まじい衝突音が響いたが、クララは片手で盾を支えたまま、仁王立ちで立っていた。クイーンの巨大な牙は、障壁に阻まれて火花を散らすだけで、クララには一傷も負わせられていない。
「ルナ、仕留めろ!」
「はい、主様――!【迅雷】!」
ルナの『閃光の白牙』に青白い電撃が宿る。
ルナの姿が消えた。
次の瞬間、彼女はクイーンの真横をすれ違い、無音で着地した。
パシィン、と空間が切り裂かれる音が響き、巨大なクイーンの身体は、結晶の甲殻ごと縦一文字に綺麗に両断され、青い電流を放ちながら崩れ落ちた。
戦闘開始から、わずか数秒。
二体のCランク以上の魔物が、俺たちの前にはただの障害物ですらなかった。
「やったぞ、みんな! 完璧な連携だ!」
「はい、主様! ルナ、お役に立てて嬉しいです!」
ルナが嬉しそうに尻尾を振り、セレナも誇らしげに胸を張り、クララは盾を叩いて笑った。
俺たちは洞窟の最深部まで難なく進み、最高品質の青水晶と、大量の魔石を回収して、悠々とダンジョンを後にした。
この強さがあれば、どんな高難度ダンジョンもただの散歩コースだ。
だが、俺たちが新居に戻った後、クララがさらなる「魔改造」をクランハウスに施していた。




