第12話 元パーティーからの理不尽な要求
「おい無能。ちょっと面を貸せ」
冒険者ギルドのロビーに入った瞬間、行く手を阻むように大柄な影が立ち塞がった。
重戦士のダグだ。その背後には、冷笑を浮かべたレオと、不快そうに俺たちを見つめるミリアが控えている。
ギルド内の冒険者たちが、何事かとこちらに注目し始めた。
「ダグか。何の用だ? 俺たちは今から依頼を受けるところで忙しいんだが」
俺はルナたちを背後に庇うように立ち、冷ややかに言った。
「忙しい? ハッ、無能のくせに生意気言うなよ」
レオが一歩前に出て、値踏みするような嫌な視線をルナ、セレナ、そしてクララの三人へと向けた。
「アルス。お前、どこからそんな上等な奴隷たちを手に入れた? そこの獣人とエルフ、それにドワーフ……。お前のような無能には、分不相応な戦力だな」
「彼女たちは俺の大事な仲間だ。お前たちには関係ない」
俺の言葉に、ミリアがキィキィと耳障りな声で笑った。
「仲間? ただの奴隷のくせに生意気ね。それにしても不思議だわ。あの暴走エルフがピンピンしているし、その獣人も下水道のワームを一撃で倒したって噂じゃない。どうせ何か汚い手を使って、奴隷の力を無理やり引き出しているんでしょ?」
「おいアルス。話は簡単だ」
レオが傲慢な態度で、懐から銀貨十枚を取り出してテーブルの上に放り投げた。
「その三人の奴隷、我が『金色の獅子』が引き取ってやる。この銀貨十枚で所有権を俺に移せ。Sランクパーティーである俺たちに仕えた方が、この娘たちにとっても幸せだろう」
銀貨十枚。昨日、俺がクララ一人を買い取るために支払った金貨一枚(銀貨百枚)の十分の一の金額だ。買い叩くにも程があるし、何より彼女たちをモノのように扱う態度に、俺の胸の奥で激しい怒りが沸き起こった。
「断る。彼女たちは売り物ではないし、お前たちのようなブラックなパーティーに渡すつもりは毛頭ない」
俺が毅然と拒否すると、レオの表情が一気に険しくなった。腰の剣の柄に手をかける。
「無能の分際で、この俺の要求を拒むというのか? お前のようなゴミが王都で冒険者を続けられているのは、誰のおかげだと思っている」
「おいレオ! あいつらに教えてやれよ! ギルドのルールってやつをさ!」
ダグがニヤニヤと笑いながら、大斧の柄を床に叩きつけた。
「主様を侮辱するな! これ以上無礼を働くなら、わたしが相手になります!」
ルナが『閃光の白牙』を引き抜き、鋭い風のプレッシャーを放った。
セレナも杖を構え、クララはスコップを両手で握りしめてレオたちを睨みつける。
「ふん、奴隷風情が牙を剥くか。いいだろう、アルス。お前がその娘たちを従える資格があるかどうか、近いうちに証明させてやる」
レオは冷酷な笑みを浮かべ、剣から手を離した。
「ギルドでの立場というものを、思い知らせてやるからな」
「二度と私たちの前に汚い顔を見せないでよね、無能アルス」
ミリアが吐き捨てるように言い、三人は俺たちを押し退けるようにしてギルドの奥へと去っていった。
「主様、申し訳ありません……。わたしがまた、手を出そうと……」
「いや、ルナ。今回は俺も同意見だ。あいつらの理不尽な要求に応じる必要は一切ない」
俺はルナの肩を優しく叩いた。
だが、ギルドの窓口の奥で、こちらを冷たい目で見つめている中年のギルド幹部の姿が目に入った。
レオたちの卑劣な罠が、すでに動き出していることを、俺は直感的に察知していた。




