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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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呪いの手紙(7)

「なりません!開けては…。」

手遅れだった。小麦は封筒の中身を取り出していた。干からびた狼の前脚のようだった。小麦は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにその目はとろんと濁っていき、机につんのめった。小麦の額が硬い机に当たる、鈍い音が響く。


光琉は舌打ちすると、小麦を放置して自室に駆け戻った。銀の指輪を取り、中指に嵌めると、居間に戻って小麦の手から封筒の中身をもぎ取った。小麦がどういう状態なのか確認した。息はある。脈拍も正常だ。どうやら眠っているだけのようだ。しかし、いつ意識が戻るか分からない。


「どうしたものか…。」

光琉は試しに小麦の頬を叩いたり、水を掛けたりした。小麦は微動だにしない。光琉は溜息を吐いた。暫く室内を歩き回っていたが、徐に台所に向かった。帰ってきた光琉が手にしていたのは、包帯と包丁だった。冷たい目で小麦を見下ろしている。


「ほら、起きて下さいませ!」

小麦はハッとした。目の前にいたのは、艶やかな黒髪をきっちりと結い上げている、厳格そうな初老の女性だった。広々とした和風の邸宅の中にいる。障子の向こうには日本庭園があり、更に奥には山々が…。そこで小麦はあることに気付き、右目を隠した。両目が見える。


「目が痛むのですか?」

小麦は首を横に振る。女性は呆れたように書物に目を移した。

「続きから読みますよ。」

「待て。まさか、土浦(なお)か?」

直は小麦の額に手を当てた。熱はない。


「一旦休憩した方が良さそうですね。」

「これはどういうことだ?どうして私は今更『帝王学』など学んでいるのだ?」

小麦は頭を押さえた。直はいよいよ心配そうな表情をする。


「小麦様、貴方様はいずれ灯様から王位を受け継ぎ、一族のロードとなられるかもしれないお方です。帝王学を学ぶことは当然です。お忘れですか?」

小麦は直と話していても埒が明かないと判断し、外に出ようとした。障子を開けると、そこには入口の数倍の広さの部屋があり、一番奥には玉座があった。


玉座に尊大な態度で座っているのは、さらさらとした金褐色の長髪を垂らし、荒々しいほど煌めく、金色の瞳をした美女だった。切れ長の瞳孔は蛇のようだ。二十代くらいに見えるが、その態度は年齢を感じさせる威圧感だ。目が吸い寄せられる。小麦は間抜けにも突っ立っていた。


「小麦、灯様の御前です。無礼ですよ。」

優しそうな声につられ、そちらを向いた。黒々とした髪と目に、穏やかな表情、引き締まった長身の男性だ。小麦はもう一度玉座に向き直り、畳の上に正座した。


「良いのだ、真。久々に親子が対面したのだ。そう鯱張ることもなかろう。」

灯の声は深みのあるものだった。小麦は信じられないというように、灯のことを食い入るように見つめていた。


「どうして…?」

小麦はそれだけ言うのがやっとだった。灯は全てを見透かすように小麦を見ている。

「お前は何も考えなくてよい。一族のため、ただひたすらに励め。良いな?」

小麦は何も言えなかった。確かにこの姿形は、物言いは、灯で間違いない。しかし、こんなことはあり得ないのだ。何故なら、真は四十年前、灯は二十年前に…。

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