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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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呪いの手紙(5)

「ふざけるな。誰がお前なんかの言うことを聞くか。俺は帰るぞ。」

光琉は困ってしまった。名家の者は普通のウェアウルフよりも更にプライドが高い。異種族である光琉に従いそうもない。だからと言って、若葉では家柄が不十分だ。

「勝手なことをなさらないで下さい。ひとまず僕の話を…。」


光琉は帰ろうとする男性の袖を掴んだ。男性の顔が一瞬で怒りに満ちる。

「放せ!」

男性は急に手を振り解き、バランスを崩した光琉は後ろによろめいた。そこを女性が受け止める。


「よさないか、時雨(しぐれ)。分家のくせに出しゃばって、一族の品位を貶めるな。」

時雨は悔しそうに引き下がると、荷物を引っ掴んで階段の方に向かった。部屋に行くのだろう。

「どうも。助かりました。」

光琉は礼を言って離れた。女性はルリのように表情が読み取れない顔だった。ヒールのせいで身長が分からない。ルリに似ていると言われればそう思える。


「礼はいい。私もヴァンパイアは虫が好かない。」

女性はさっさとその場を立ち去った。光琉は苦笑いした。

「前途多難だな、これは。」

「だから小麦様がいらっしゃれば良かったのよ。どうしていらっしゃらなかったの?」

若葉は不満そうに言った。光琉は若葉に事情を説明していなかった。小麦を裏切ることはないと思うが、若葉はルリの部下だったからだ。


食堂の扉がノックされた。光琉は中に入るように促す。入ってきたのは屈強な男性だった。

「それでは、お名前と手紙に書かれていた日付、ルリとの関係性を話して下さい。」

男は腕組みした。鍛え抜かれた筋肉が目立つ。


水上(みなかみ)剛士(たけし)だ。九月二十五日。今は亡き蓮之助様の弟君の護衛で、ルリのことを妨害していた。」

「成る程、ありがとうございます。」

光琉は剛士の発言を手帳に書き留める。彼は純粋な被害者だろう。


「特別に何か言いたいことがありますか。」

「ない。」

剛士は徐に立ち上がると、乱暴に扉を閉めて出て行った。その後も入れ代わり立ち代わりやってきて、全員の名前を書き留めるのは三十分経った後だった。


「これで全員かな。」

光琉は手帳を閉じた。

「まだよ。蓮之助様がおられるでしょう。」

若葉は言った。光琉は正直面倒だと思ったが、蓮之助を待った。蓮之助は重々しい足取りでやってきた。


「先日もお会いしたから簡単に確認しますよ。名前は笹木蓮之助。予告されている日付は十月七日。ルリのお祖父さん。そうですね?」

「嗚呼。」

蓮之助はしわがれた声で言った。

「他に何か言いたいことは?」

「ない。」


蓮之助は即答した。互いに一刻も早く会話を切り上げたいと思っているようだった。

「ではお帰り下さい。」

蓮之助は机に手を掛けて立ち上がると、食堂から出て行った。

「んー、此処にはいないのか?」


光琉は手帳を見ながら呟いた。疑わしいのは女性三人だ。一人目は先ほど助けてくれた女性、笹木マリア。ルリのはとこに当たる。目元が似ているように感じられるし、ルリが声を張ったらあのくらいの声量になるかもしれない。剛士が仕えていた者の孫に当たる。

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